このパンがすごい!

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

さまざまなパンが所狭しと並ぶ棚

 仙台駅から地下鉄に乗る。終点が近づいた頃だ。トンネルの闇から光の中へ飛びだす。一瞬目が眩んだあと車窓に広がった光景。さっきまで都会にいたことが信じられないほどの深い森が、紅葉で赤や黄色に燃えている。杜の都、仙台。

 下車したところは、丘に建設された住宅地だった。家並みが切れた坂道で、再び絶景に出くわす。仙台市街と、光り輝く仙台湾が眼下に広がるパノラマ。

 2度あることは3度ある。3度目の絶景は、ようやくたどり着いた「Koyagi Bakery」の陳列棚だ。所狭しと棚を埋めた幾種類ものパンが、どれも極めてうつくしい。この量を、製造補助の方がいるとはいえ、店主がひとりで作っているとは。

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

外観

 心弾む黄色と白のストライプに思わず手が伸びる「たまごのサンド」。山食パンのふわふわ感に感動を抑えきれない。ふわふわした卵サラダと同じテクスチャで、同じようにしゅわーっと溶ける。味わいは清らか。卵サラダもまたクリアな甘さ。ただ薄い耳だけは、カフェオレみたいに香ばしくて、甘い。

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

たまごのサンド

 秘密は小麦粉にあると、店主の長谷川愛さん。
「スーパーカメリヤ(日清製粉。色が白い吟醸タイプの粉)で食パンを作ると、食べごたえがでて、しっくりきました」

 なぜ奥まった住宅地で、こつこつとパン屋を? 長谷川愛さんは「パンはまったく縁がなかったのですが、家でできる仕事を身につけられないかな」と仙台市内のパン屋で働き、自宅に併設した店を開いた。でも仕事は、家庭の片手間では決してなく、パン1個の形にも心血を注ぐ。

 ぐるぐる巻き込んだクロワッサン生地が、にょきにょきタケノコのように伸びた「シナモンロール」。SHŌPAIN ARTISANT BAKEHOUSEの平山翔シェフが作るシナモンロールにひとめぼれし、教えを乞うた。
「空洞ができてしまって、なかなかきれいにできなくて」

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

シナモンロール

 苦労のかいがあり、店に出すものはぷーっとふくらんで愛らしい(ロスにならないよう、空洞のあるものも割引で販売)。おかげで、食感は紙風船。空気をはらんだ生地が、ざくざくばりばりとクラッシュ。トッピングの砂糖と細かな破片の紙吹雪が口の中を舞い踊る。一層が軽く薄く、ちゅるんとマッハの口溶け。ざらざら砂糖とシナモンがまとわりあう甘さは子供の頃から誰もが好きだったなつかしいものだ。

 エアリーさは「Koyagi Bakery」のどのパンにも貫かれている。重くなりがちなルヴァン(小麦から自家培養された発酵種)でさえ。「ルヴァン・バタール」は、ふわふわとエアリーでクラシックな趣き。なのに、薄めの皮に驚きの旨味がある。ほんのりと梅干しのような酸味に、根菜的な香り、やさしい塩気と相まって、よろこびの唾液分泌を抑えきれない。後味を飾るのは、さーっと刷毛ではいたような小麦の風味。

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

ルヴァン・バタール

 各メーカーよりぬきのコクがある粉をミックスして作る。
「国産全粒粉で種をつなぎ、グリストミル(日本製粉)、TYPE ER(江別製粉)、レジャンデール(日清製粉)をブレンドしてみると、単体の粉で作るよりおいしくできました」
 この生地を使って作る「あんバターサンド」。どら焼きの人気店「ankoya」のあんこを使用。豆の味わい濃厚にして、甘さは控えめ。有塩バターとの甘じょっぱミルキーなペアリングの悪魔っぷり。旨味じゅるじゅるバゲットと相まって官能の極地。でありながらも、甘さがやさしいからもたれず、ぐいぐい食べられる。

たまごのサンドからシナモンロールまで約60種類、パンの絶景/Koyagi Bakery

あんバターサンド

 それにしても、長谷川さんの根気と努力である。開店時間は朝6時半という早さ。たったひとりで50~60種類のパンを作る。多品種少量生産はもっとも手間がかかるもの。しかもすべてのパンを、うつくしく作るためには、丁寧な仕事が必要で、だからこそおいしい。パンの絶景は目をよろこばせ、舌をも裏切らない。

Koyagi Bakery
宮城県仙台市太白区松が丘35-3
022-707-5252
6:30~18:00
休:日・月曜、祝日及び第1・3・5火曜(不定休あり)
https://www.facebook.com/koyagibakery/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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