このパンがすごい!

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

GR PANETTONEをイートインで。ゆずのコンフィチュールを添えて(季節限定)

 イタリア人のパティシエと日本人のパティシエール。2人が共同で作りあげるペストリーショップ「LESS」が恵比寿に誕生した。店の看板はパネトーネ。ガブリエレ・リヴァさんが、菓子屋だった父から受け継いだ、50年以上ものあいだ育てられてきたマザーイースト(元種)で作る。

 「GR PANETTONE」はチョコ風味のパネトーネ。さすが50年もの。ヤクルトか? というほど豊かな乳酸菌的な香り。ぷにゅっとした中身と、表面にトッピングされた砂糖のかりかりのこの上もない官能。しっかりと伸びて薄い気泡膜が、ちゅるーんと溶ける。圧倒的バター感と、ミルクチョコ、ヘーゼルナッツ、オレンジとアルコールの絡み合いが天国へ連れていく。

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

GR PANETTONE

 「AGRUMI PANETTONE」は柑橘のパネトーネ。「日本は柑橘のバラエティがすばらしい」と、あえてレーズンは使わず、オレンジ、レモン、季節の柑橘(いまはユズ)を使用。シンプルにして深い。パネトーネの甘い香りと柑橘のコンビネーションだけが追求されているという意味では極めてシンプル。その奥に、さまざまな柑橘の香り、甘さ、酸味、苦味が潜んでいるという意味では深い。まわりのよく焼けたところの香ばしさが後味にじーんときいてくる。

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

AGRUMI PANETTONE

 完成まで4日をかける。最初の日、前種を作る。翌日、本ごねを行う。3日目にオーブンで焼き、4日目は逆さに吊るして水分を抜き、形を固定させる。なんという手間。

 本ごねでは、風味を損なわないよう、バターは冷たいまま入れる。回転の速い日本流の縦型ミキサーではなく、イタリア同様にダブルアームミキサー(人間の腕の動きを模したミキサー)で、生地の温度を上げないよう、ゆっくりと1時間かけ生地を練る。

「もっとも重要なのはマザーイースト。どういった健康状態にあるのか、見極めるのがいちばん大事。疲れていると酸性に傾きます」

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

マザーイースト

 酵母が健康であれば、香りもよく、余計な酸味もなく、生地もよくふくらむ。酵母や乳酸菌といった生命との共生こそパネトーネ作りに必要とされるものだ。

「パネトーネはお菓子とパンの間にあります。世界のお菓子の中でも特別な存在。フランスにもクグロフなど発酵菓子はありますが、自家培養する種を使うという意味ではオンリーワンです。長い期間楽しめて、フレーバーも時間の経過とともに変わっていきます」

 マザーイーストは、リフレッシュするための種継ぎが必須。元種に小麦粉と水を足して、発酵状態のよい中心部分だけを継いでいく。ロスになってしまう周辺部分を救い出せないかと、パティシエールの坂倉加奈子さんが考えたのが「SCONE」。

 食べる前からすごい。乳酸菌的な香りが豊かに、あでやかに。口に含むとまろやかな甘さに変貌。外側がかりっと割れ、驚きのしっとり感を保った中身にすーっと歯が入る快感。バターの香りとあまりにクリーミーな口溶けがあいまって、「平熱のミルクジェラート」と呼ぶべきものになっていた。

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

SCONE

 2人はアメリカで出会い、お互いの菓子哲学に共鳴。坂倉さんの新店のプランを話し合っているとき、「2人で、できることとできないことを補いあっていけばいいんじゃないかな?」とコラボでオープンすることを決め、日本にやってきた。

 インターナショナルな2人だが、日本の素材に注目。ブリゼ生地(タルト生地)には、一般的な白い小麦粉ではなく、テロワールを感じられる、長野県上田市「なつみ農園」産のシラネ小麦を使用する。

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

ガブリエレ・リヴァさんと坂倉加奈子さん

 「Apple tart」はまるでアート。薄くスライスしたりんごでかたどった薔薇が3輪。ひんやりした湿りと、しゃりっとした食感、きりっとした酸味。驚くほどのフローラルさが薔薇をほうふつとさせる。その下のタタンが濃厚なキャラメル感を、アーモンドペーストがコクを加える。ブリゼ生地(タルト生地)は繊細、たやすく崩れ、木や土を思わせる全粒粉の香りを放つ。りんごの花とあいまって、それは私たちが住む地球や自然全体をイメージさせた。

50年もののマザーイーストから生まれる看板パネトーネ/LESS

Apple tart

 あまるほどのお菓子を並べる通常のパティスリーとは異なり、焼きあがった順番に少量ずつ置くことで、フレッシュさを表現するとともに食品ロスにも対処。イートインでは、レストラン「NARISAWA(ナリサワ)」でもパティシエールを務めた坂倉さんがデザートの手腕を発揮する。日本のパティスリーの枠に収まらないワールドワイドな視点が、私たちに新感覚を提供する。

LESS
東京都目黒区三田1-12-25 金子ビル 1F
03-6451-2717
8:00~18:00(LO)(土日祝は9:00~)
不定休
https://www.instagram.com/less_tokyo/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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