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ノックし続ける挑戦者に、世界はほほ笑む『The Third Door』

ノックし続ける挑戦者に、世界はほほ笑む『The Third Door』

撮影/馬場磨貴

石畳の上を、小さな街灯が照らしていた。4千メートル級の山々に囲まれたスイスの小さな宿場町に僕(このコラムの筆者)が到着したときには、すでに日は落ちようとしており、風が強く吹いていた。僕はバックパック一つを背中に担いで、身を休める宿を探した。1年を予定していた世界を巡る旅のちょうど折り返し地点だった。

やっと見つけた裏路地の宿で、僕はキムさんと出会う。スイスは物価が高いこともあり、旅人の多くは自分たちで夕食を作る。その夜も思い思いに食卓を囲んでいたが、少し遅れて到着していた僕は、キッチンスペースでパスタをゆでて、少し気まずさを感じながら空いているテーブルに腰を落ち着けた。そこに「一緒に食べないかい?」と僕の顔を見て笑顔で話しかけてきたのが、キムさんだった。

行列を飛び出そう

今回ご紹介する『The Third Door(サードドア) 精神的資産のふやし方』を読んでいて、20代前半の頃の旅の記憶を刺激された。本書は19歳のまだ何者でもない大学生が、米国にちらばる各界のトップランナーたちに「人生」「仕事」「成功」の秘密についてインタビューしてまわった記録だ。もちろん実話である。

その旅路で著者が出会うのは、ビル・ゲイツ、スティーブン・スピルバーグ、クインシー・ジョーンズ、レディー・ガガ、ラリー・キング……といったレジェンド級の人々。もちろんコネクションなんてなにもない(なんといっても純粋な意味で「ただの大学生」の)著者が、彼らと直接会う機会を得るために失敗も成功もかみしめながら進んでいく「旅行記」×「ビジネス書」という珍しい1冊である。そしてそこで出会う先人の言葉は、1人の若者の前途の見えない道の先を照らしだす。

タイトルのサードドアとは、著者の例え話に由来する。彼は、人生・ビジネス・成功を「ナイトクラブ」に例え、そこには三つの入り口があるという。

正面入り口(ファーストドア)は長い行列ができていて99%の人は深く考えずにそこに並ぶ。VIP専用入り口(セカンドドア)も当然用意されているが、ここはセレブや名家に生まれた人だけが利用できる。そしていつだってそこにあるのに誰も教えてくれないもう一つの入り口を、サードドアと例える。そこをこじ開けるためには行列から飛び出さないといけない。裏道を抜けて、何百回もノックをしないといけない。著者がこの旅で出会う人々は、みなサードドアをこじ開けた人だ。

学校での成績はトップではないものの「安定してBマイナスをとれる要領のよさ」を持ち、両親から医者になることを期待されて医学部に入学した著者。世間的に見れば順調に人生を歩み始めているように見えるが、彼は退屈しきっていた。図書館の本を読みあさっても、自分は何をしたいのか、これからどう生きていきたいのかわからなかった。

そんなある日、彼は前述のインタビューの旅を思いつく。しかしそこから直面するのは、両親からの猛反対、資金不足、周囲の冷笑、数々の失敗の連続、時間を無駄にしているのではという不安。それらを一つ一つクリアしていき、彼は安心で安全な場所から、風が吹く未知の場所へと足を踏み出す。

扉の向こうに待つもの

そこで出会う人生の開拓者たちが実にあたたかい。もちろん簡単にはいかない人たちばかりだが、突然現れた見ず知らずの若者のミッションに手を差し伸べ、時間を捻出する。そして、著者はこれからの生き方のヒントになるような言葉や考え方に出会う。

「私の人生の教訓は2つ。人に教えを乞わなければ何も得られない。大半のことはうまくいかない」「君は、すばらしくて、美しい、人間なんだよ。別のものになっちゃダメだ」「今から言うことは世間の99パーセントの人にはわかってもらえないだろうな……」

サードドアは、ノックを続ける挑戦者と招き入れる先人の共同作業で開く。著者の旅路も同じだ。多くの人が彼を導いていき、彼はそれによりミッションの意味を深めていく。風吹く場所に出ていく若者に世界は少しだけほほ笑みながら、そのときその場所で会うべき人との出会いを演出する。

夜が深まっていく小さな村の宿のなか。僕はキムさんの話を夢中で聞いた。すでにリタイアしていたが、もう何年も世界中を旅しているバイタリティーあふれる人のエピソードは、想像のはるか上をいっていた。そんな大先輩の前で、僕はこれまで旅をしてきて感じたことを率直に言葉にした。「旅をしているといろいろと不思議なことが起こりますね」。そんなことを感じることが多かったのだ。

その時キムさんはほほ笑みながら自分の胸に右手をあてて「そうだね。不思議だね。でも人生を歩んでいくと、もっとこの深いところでその不思議さを感じるようになるよ」と笑った。その言葉は当時の僕のなかに深く刺さり、それは今も人生の節目で思い出す言葉であり、世界を見る一つのまなざしになった。そういう風に思える生き方をしたいなと思った。

そんな出会いは、旅だけでなく僕らの日常の中にもきっとたくさん潜んでいる。本書を読んでいて、自分のこれまでを振り返りながら、未来に向かう熱をもらった。2019年が終わり、2020年がはじまる今、ぴったりの1冊ではないだろうか。

本書の終わりに紹介されている言葉が響く。「私は若い頃、賢い人々を尊敬していた。そして年齢を重ねた今、心優しき人々を尊敬する」。もう少し肩の力を抜いて新しい年も1歩ずつ行こうと思う。風の吹く場所に踏み出しても、きっとこれまでと同じように、心優しい人が扉の向こうで待っている。

(文・中田達大)

40の本屋に出会える。「二子玉川 本屋博」が開かれます

ノックし続ける挑戦者に、世界はほほ笑む『The Third Door』

約40の個性あふれる本屋が⼀堂に会し、本屋の魅⼒と可能性を発信するフェス「⼆⼦⽟川 本屋博」が2020年1⽉31⽇、2⽉1⽇の2⽇間、⼆⼦⽟川ライズ ガレリアで開かれます。企画は「ほんやのほん」でもおなじみ、⼆⼦⽟川 蔦屋家電の北⽥博充さん。もちろん、⼆⼦⽟川 蔦屋家電も出店します。心ときめく「唯一の本屋」を探しに、出かけてみませんか。 

■info
⽇時:2020年1⽉31⽇(⾦)11:00〜20:00、2⽉1⽇(⼟)11:00〜19:00
場所:⼆⼦⽟川ライズ ガレリア (⼆⼦⽟川駅直結〈東京都世⽥⾕区⽟川2-21-1〉)
参加費:無料
イベント公式サイト


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    カルチュア・コンビニエンス・クラブに新卒入社後、CCCマーケティングにてTポイント事業の法人向け新規営業に従事。2018年4月より現職。お客様が、理想のワークスタイルを見つけ、実現していく一助になるような売り場づくりを目指し日夜奮闘中。

    芥川賞作家ら17人、異彩放つアンソロジー。『kaze no tanbun 特別ではない一日』ほか

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