平井かずみ×在本彌生 世界の花めぐり

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

連載「世界の花めぐり」、平井かずみさんとめぐる花の旅は、日本のお花、お正月のしつらいから始まります。

「今日は桐箱(きりばこ)のお重に、花をしつらえたいと思います。花のおせちみたいでしょう? 植物も縁起物だから 食べるものと愛(め)でるもの、同じように箱にお正月の縁起物をうわーーっと詰め込みます」
 
平井さんが大事にしているのが「しつらい」という感覚です。古くは平安時代から、ハレのお祝いの日に、室内を植物で美しく飾って空間全体の趣きをととのえることから使われているようです。

でも平井さんは、もう少し日常的な意味合いとして、「暮らしに花を生ける」のではなく、あえて「暮らしに花をしつらう」という言い方をします。その違いはこれから連載の中で少しずつ、ゆっくり伝えていくとして、まずは「花のおせち」のことを。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

12月13日。すす払い、松迎え。お正月、新しい年を迎える準備が始まる日。門松のための松を取る風習がいまも多くの地域で残っています。同じころ、西洋の人たちも、クリスマスのもみの木を取りに、山に入ります。

「遠く離れたところで生まれている習慣や文化なのに、針葉樹の香りが邪気を祓(はら)ってくれるとか、エバーグリーンが永遠の命をあらわすとか、同じ意味を持っていることが多いのです。門松は神様をお迎えして待つから、松といわれているのだとか。

注連(しめ)飾りにも松をつけたりしますが、注連飾り自体が、神様だけが家の中にお入りになれるように、その他のものから結界をはるものだそうです。クリスマス・リースも玄関の外に、魔除(よ)けとして飾るという意味が。調べていくと、人が心で感じて行っているからこそ、こうして本当にみんな似たような感覚があります。1年の感謝と来年の幸せへの祈りです」

使うのは、桐の箱。このために買わなくても、家にある塗りのお重で大丈夫です。

「ポイントは二つ。まずは四つ角から松や椿の葉などで埋めていき、中心にメインの花を入れて、隙間を埋めるようにその他の花材をあしらいます。そのときに、角度を全部真上を向かせるのではなく、風がふわっと吹いていったり、光の方を向いて伸びていたり、草むらで重なり合っているようなイメージで、斜めに入れていってください」

新しい年を祝い、おめでたい植物を詰めた箱。名付けて「あらたま箱」をしつらえてみましょう。

あらたま箱(日本)

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

1. 吸水スポンジをお重の大きさにカットし、水を張った容器に入れて沈むのを待つ。
 このとき、スポンジを上から押して水に沈めないこと(沈めると膜ができてしまい、中の空気が抜けないので水を吸わない)。「切るのは、パン切りナイフが最高です」

2. セロハンをお重に包むように敷き、カットしたスポンジを入れる。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

3. 箱の角から、松や椿などをさして四方を埋めていく。このとき、真上を向かせずに斜めにさす。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

4. 最後に、メインにしたい花を中央に詰める。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

平井さんの手元をみつめる、写真家の在本彌生さんやスタッフから声が上がります。

「花を箱に生ける感じね。“つめる”と“生ける”の、間ぐらいかな?」
「お弁当みたい……食べるわけじゃないのに、おいしそう!って言いたくなりますね」
「そうそう、花を生けているとき、サラダを作っているような、似てるなあって思うことがたまにあるの……」

そんな会話をしながらも、箱の中には少しずつ、いろいろな花や枝が入っていきます。

5. 仕上げに、松の葉っぱや南天、ヤブコウジの実を散らす。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

霧吹きで水をかけたら、できあがり! 折敷(おしき)の上に置いて、好きなところに飾ります。

「あらたま箱」――古来の言葉で、あらたまとは、年の初め、枕詞(まくらことば)で「新年」「お正月」を意味する。新年の縁起物が詰まった箱。玄関でもいいし、お部屋の目立つところでもいいし、洋の空間に置いてもOK。あとは人に差し上げるのもすごく喜ばれます。

6. 誰かに差し上げるときは、霧吹きで水をかけてから、そっとふたを閉めて、水引を結ぶ。色は明るい色を左、暗い色を右に。金と銀の場合は、銀が「明るい色」とされている。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

「家で飾るときは、ゆずなどのかんきつ系=吉兆の「きつ」と発音が一緒だから縁起物、橙(だいだい)で先祖代々、とか、難を転ずるから、南天とか、あとは炭も一緒に並べたりします。邪気をとってくれるから。いろんなところで見聞きしたもの、自分ですてきだと思うものを“縁起物”って言ってどんどん加えていくと、楽しいですよ」

ふたを開けると、箱からふわっと松やヒバなどの針葉樹の香りが立ちのぼってきて、森が現れたような、その森の中を歩いているような気分になります。

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

お正月のために、花をしつらえること。昔から続く言葉で習慣でもありますよね。本来の意味を大切にしていれば、どんどん時代に合うような取り入れ方をしても良いのではないかしら、と平井さんは言います。

「しつらいとは、外の景色をそのまま暮らしの中にとり入れたい。生け方は、難しく考えなくても、そこに全ての答えがある。それが、私のしつらえです」

新しい年を思いながら、冬の凛とした植物たちの景色を思い浮かべながら、花を箱にどんどん詰めていく――「あらたま箱」も、そのひとつの例として、場所を取らずに、気軽に取り入れることができそうです。

(写真・在本彌生/構成・&w編集部)

平井かずみ(ひらい・かずみ)

縁起物を自由につめる 花のおせち「あらたま箱」(日本)

フラワースタイリスト。ikanika主宰。草花がより身近に感じられるような「日常花」の提案をしている。東京を拠点に「花の会」や「リース教室」を全国各地で開催。雑誌や広告などでのスタイリングのほか、ラジオやテレビに出演。著書『フラワースタイリングブック』『ブーケとリース』『あなたの暮らしに似合う花』ほか多数。12月4日からNHK Eテレ「趣味どきっ!」で毎週水曜日午後9時30分~「花と暮らす 季節の花を日常に シンプルに生ける」放送中(再放送:NHK総合 木曜日 午前10時15分~/Eテレ 翌週水曜日 午前11時30分~)。http://ikanika.com

PROFILE

  • 在本彌生(ありもと・やよい)

    東京生まれ。大学卒業後外資系航空会社で乗務員として勤務、乗客の勧めで写真を撮り始める。複数のワークショップに参加、2003年に初個展「綯い交ぜ」開催、2006年よりフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始、雑誌、書籍、展覧会で作品を発表している。 衣食住にまつわる文化背景の中にある美を写真に収めるべく世界を奔走して いる。写真集 「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャー刊) 「わたしの獣たち」(青幻舎刊) 「熊を彫る人」(小学館刊)

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