朝日新聞ファッションニュース

おしゃれ、立ち止まり考えるいま 甲南女子大教授・米澤泉さん×ファッション誌編集者・軍地彩弓さん

2020年代、ファッションの行方はいかに。2010年代の終盤は、あえておしゃれに見えることを避けるようなムードが社会に漂った。服を着る意味が変わるのか? 昨年、著書「おしゃれ嫌い」を出版した甲南女子大の米澤泉教授と、長年ファッション誌に携わる編集者、軍地彩弓さんが、そうした現象や今後について語り合った。

おしゃれ、立ち止まり考えるいま 甲南女子大教授・米澤泉さん×ファッション誌編集者・軍地彩弓さん

よねざわ・いずみ 甲南女子大人間科学部文化社会学科教授。1970年、京都府出身。大阪大学大学院単位取得退学。専門はファッション文化論、化粧文化論など。著書に「コスメの時代」ほか。=いずれも伊藤菜々子撮影

米澤 最近、学生を見ていてもファッションや化粧への関心が低下しています。格差社会のせいだけでなく、着飾ることや派手な物、身の丈に合わない物や体に窮屈な物は全体的に遠ざける傾向にある。昔は我慢することがおしゃれでしたが、今はライフスタイルの方が優先されていると感じて、「おしゃれ嫌い」(幻冬舎新書)を書きました。

我慢よりライフスタイル 価値観の転換期

おしゃれ、立ち止まり考えるいま 甲南女子大教授・米澤泉さん×ファッション誌編集者・軍地彩弓さん

ぐんじ・さゆみ 1964年、茨城県出身。中央大で社会学を学び、「GLAMOROUS」のファッションディレクターなどを経て、14年から「Numero TOKYO」のエディトリアルアドバイザー

カジュアル化する社会

軍地 「おしゃれ嫌い」という言葉はかなりぐさっと来たし、なるほどなとも思った。確かにファッションで無理したり自己主張したりするより、快適に生活することが優先されるようになってきた。社会がカジュアル化して、たとえば、日本の一般家庭で週末のお出かけがなくなった。若い会社員も週末は家でまったりしてて、カップルでも飲食宅配代行サービスを使って自宅でタピオカ飲料を飲んでいる。お金があるのに一日中、部屋着で一歩も出ないとか。

米澤 部屋着と、ライフスタイルに配慮した少しの服でよくなった。会社もきちっとした格好を求めなくなった。

軍地 TPOの消失も大きい。葬式は家族葬が増え、喪服は持たない。合コンもしないから、「モテ服」もいらない。

米澤 ジェンダーレス化も関係している。1980年代のバブル期は、男らしさ、女らしさを頑張って表現した。今はそれがなくなって、男女同じスポーティーな服とスニーカーでいい。

軍地 性差はサイズ感だけというストリートブランドが人気。

米澤 ファッション誌も変わりましたね。

軍地 07年ごろからのスマホ普及によって、流行の作り方や雑誌の役割が変わった。以前は新しいからかっこいいという価値観で理想像を作って、かまどで火をたくように読者をあおった部分もあった。でも今は夢を与えるのではなくて、ハウツーを教えるものになっています。インフルエンサーがSNSにあげているものを紹介するとか、これまでと逆にメディアが読者を追いかけるようになった。雑誌はネットメディアで見られないものは何かという問いの中にあると思う。

米澤 若い世代は、何かを残しておくということに執着しないし、物に対してもそれは一緒のようです。

軍地 着せ替えゲームアプリで月に10万円分もゲーム上のキャラクターの服を買う人がいて、その金額ならグッチやルイ・ヴィトンの小物も買える。仮想の買い物だから「お金をどぶに捨てるようなものでは?」と聞いたら、答えは逆。服やバッグは置き場所を取るし、買ったとたんに物理的にも価値的にも劣化する。ゲームで手に入れたレアアイテムは価値の高いまま残るからというんです。持つことが悪という意識が生まれている。小売業界にとってはえらいこっちゃです。

米澤 フリマアプリのメルカリが人気なのも同じ。服も自分の物として持っていたいのではなく、メルカリなどで売ることを前提に買うようになっている。

軍地 お金や時間、自分のテリトリーに関する意識も変わった。若い子が100円のコロッケを買うのに2時間も行列するのは、その間友達とおしゃべりできるからうれしいのだという。自分を薄い膜で包むように自分の興味や趣味、守られている領域には互いに不可侵なんですよね。個人や少数の範囲で完結していて、昔のチーム的な感覚はない。

米澤 その半面、40代後半以降の世代は、お出かけが楽しくておしゃれをしたい人が多い。60代向け雑誌も売れている。

軍地 そんな中に丁寧な暮らしを目指す人たちもいる。グレーヘアとか、着なくなった服はお直ししたり、最後は雑巾として始末したりという故樹木希林さんの生き方とか。そのライフスタイルが注目されている。

米澤 生活全てを整えているという感覚がいいんでしょうね。その中にファッションも入る。

軍地 いまの「整える」は、断捨離だけでなく、オーガニックやサステイナビリティー(持続可能性)、テクノロジーなど新しい価値を取り込むことが必須。

「持つことは悪」の意識 正しさ・賢さが鍵に

「着るとは」根源的問い

米澤 色んな場面で価値観の転換期を迎えていますね。これが正解というものがなくなっている。ユニクロも以前とは違ってライフスタイルに沿った日常着として肯定的な感じで着られていることが面白い。ファッションブランドはいま、サステイナビリティーや生産背景の正しさみたいのものを過剰なまでに打ち出していますよね。本当は新たな物は何も生み出さない方がいいのかもしれないのに、生み出すことに対する免罪符としてアピールしているような。

軍地 そうはいっても、これからはさらにそういう正しさ、賢さがキーになると思う。消費意欲がある人は、生産方法や商品に透明性や背景、原価率などに公正を求めるのでは。

米澤 ただ、正しさをまとうことに執着し過ぎて窮屈になってしまったら、しんどい。その引き換えに何かが失われていると思う。正しさを求める意識とファッション業界の半年ごとの新作発表は矛盾するし、パリ・コレクションを中心とした20世紀のファッションシステムは、いずれ変わるかもしれない。でも、論理的なものを超えたところにある魅力、ファッションにおける夢の部分は、次の時代にも残ると思う。

おしゃれ、立ち止まり考えるいま 甲南女子大教授・米澤泉さん×ファッション誌編集者・軍地彩弓さん

左から【1】ドリス・ヴァン・ノッテン、【2】メゾン・マルジェラ、【3】ヨウジヤマモト

軍地 たとえば、ドリス・ヴァン・ノッテンは新作=[1]=で、クリスチャン・ラクロワとコラボして、マーケティングを超えた、服本来の素晴らしさを見せた。手仕事やファッションの原点である美に回帰していく点では、昨年に開催されたジョン・ガリアーノによるメゾン・マルジェラの作品展=[2]=も同じでした。

米澤 最近、若い世代に、日本のヨウジヤマモト=[3]=やイッセイミヤケ、コムデギャルソンが新鮮に映って人気のようですね。

軍地 創造性が抜群にあって、信条や思想がぶれないブランドへ新たに注目する傾向も出てきている。そのデザイナーの思想が好きだから着るとか、人とは何か、着るとは何かという根源的な問いがなされてきているのでは。

米澤 みんななぜ服を着るのかということを考えて、立ち止まっている時代なのかも。

軍地 若い子の間で昭和の歌謡曲やファッションがはやっているのは、スマホ検索によって時代に関係なくいいものはいいと受け入れるようになったから。ファッションが嫌いになったわけではなくて、本質的なところに戻りつつあるのだと思う。同時に環境意識や正しさに賢く帰結していけば、ファッションにとって真の黄金期が訪れることになるのかもしれませんね。

(構成 編集委員・高橋牧子)

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