花のない花屋

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

〈依頼人プロフィール〉
山畑由美さん 51歳 女性
兵庫県在住
主婦

     ◇

昨秋、できあがったばかりの卒業論文が家に届きました。離れて暮らす大学6年生の次男からです。 謝辞のページを見ると、夫と私にあてたメッセージがありました。

「これまでありがとう。これからは健康に気をつけて、どんなことでも相談してください」

いつまでも子どもだと思っていたら、ついに私たちが相談をもちかける側になるのか……!と思い、一人苦笑いしました。

次男は小さい頃からおっとりとした優しい男の子で聞き分けもよく、何でもよく食べ、よく眠り、病気一つしない、育てやすい子どもでした。一方で自己主張が弱く、何に対しても受け身なところがあり、「嫌だ」と言うことはほとんどありませんでした。

本もいろいろなジャンルの本を読み聞かせましたが、親の気持ちを察してか、最初は一応興味を示すものの、自分から何かを求めることはありません。一体何が彼のツボなのだろう?と私が悩んでしまい、「興味のあることを見つけ、伸ばしてほしい」との親心から、バイオリンやサッカー、絵画、英会話、将棋、ギター、スイミング、学習塾などいろいろな習い事をやらせました。

強制しているつもりはなく、興味があれば……との思いからでしたが、私に対する遠慮か、拒むことは一度もなく、どれもそれなりにうまくこなし、友達とも仲良くしていました。問題は何もないのですが、ただ一つ……彼からの情熱を感じることがないのが気になっていました。

そんな彼は中学受験をして失敗、高校受験も望み通りの学校には行けず。母親としては「不遇だな……」と思いながらも、この子はブレーキを踏まず、なりふり構わず進むことができないんだと感じ、「自分の意識を変えない限り、望むものは手にできないよ」と言い続けてきました。もしかしたら、私がいつも先回りして心配しすぎたのがいけなかったのかもしれません。

そして、もう私の言葉で彼を動かすことはできないかも……と半ばあきらめていた頃、彼が突然「薬学部へ行く」とぽつりと言いました。高校2年生のときです。主張を聞いたのはそれが初めてでした。ただおとなしかったわけじゃない。きちんと冷静な目で自分を見つめ、信念を持ち続けていたのです。

その後、彼は希望していた大学、希望していた研究室に入り、昼夜問わず実験を続けて結果を出しました。そして今春、希望していた会社で希望していた職につきます。

そこで、「人のためになる研究」という希望を背負って社会へ一歩踏み出す次男へ、エールを込めて花を贈りたいです。次男は現在24歳。小学生の頃からギターが趣味で、バンドをいくつも掛け持ちしていました。料理も上手で、洋服も大好き。「自分の力で歩いていく」という決意が感じられるような、力強いイメージのアレンジをお願いいたします。

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

花束を作った東さんのコメント

大学卒業とご就職、おめでとうございます。これからは自分の意志で、自信を持って歩いていってほしいという願いを込めて、生命力あふれる花束を作りました。

トップに飾ったのはプロテア。この花自体とても強く、ドライフラワーにもなります。息子さんの意志の強さをこの花で表しました。ハリセンボンのようなトゲのある丸い植物は、フウセントウワタ。とても面白い植物で、実は1~2週間経つと外側の皮がパカッと割れ、中から種のついたふわふわの綿がはじけ出てきます。「これからの人生、はじけていってください」という気持ちを込めて挿しました。

もう一つの丸い植物はグリーンのナデシコ。アンスリウム、クリスマスローズ、グズマニアなどもグリーン系でまとめました。

その中で映える白い花は、八重咲きのユリ。1枚1枚の花弁が厚く、かなりボリュームがあります。まだつぼみのものもあるので、すべて咲くと全体の雰囲気がガラリと変わるはず。ユリは、「これから花開きますように」という気持ちを込めて挿しました。

時間の経過とともに変化するアレンジですので、ゆっくり楽しんでくださいね。

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

(&編集部/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み


  •    


       

       

    彼がいなければつぶれていた。私を支えてくれる太陽みたいなパートナー


       


  •    


       

       

    自宅を売って始めた豆腐屋 夢を追い続ける両親へ


       


  •    

    「君の実家も大好き」 私の名字を残すと決めた夫へ
       

       

    「君の実家も大好き」 私の名字を残すと決めた夫へ


       

  •      ◇

    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

    facebook

    instagram

    http://azumamakoto.com/

    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


    彼がいなければつぶれていた。私を支えてくれる太陽みたいなパートナー

    一覧へ戻る

    あっという間に逝ってしまった父へ 言えなかった「ありがとう」を込めて

    RECOMMENDおすすめの記事