ほんやのほん

「無意識」なのは、体が覚えているから 『記憶する体』

「無意識」なのは、体が覚えているから 『記憶する体』

撮影/馬場磨貴

いろんな体がある。〇〇が出来る体、〇〇が出来ない体、〇〇でないと出来ない体、〇〇がない体。誰もが、何かしらの〇〇な体を持っている。

「自分の体と長いこと付き合ってきた」「自分の体は自分がよく分かっている」と、人はよく言う。本当に真剣にお付き合いしてきたのだろうか。本当に分かっているのだろうか。

『記憶する体』はタイトルの通り、「記憶」について書かれている。いつ何時どこで誰と何をしたという記憶ではなく、それが蓄積され、熟し、体に形成されたもの(体の記憶)。本書には“記憶が日付を失う過程”(p.10より)とある。そうしてつくられてきた体。それを誰よりも敏感に感じて器用に付き合っている人々がいる。その人々に会って話を聞き、書かれたものが本書である。

たとえ視力を失っても

実在する12人の障害がある方々のエピソード。例えば「色が見える全盲の男性」。点字を触ると勝手に頭の中で色が点滅し始めるという。視力を失う前の色の記憶がそうさせるのか、6歳で視力を失うまでの記憶が頭の中で想起されるのだそうだ。目が見えているほとんどの人は、文字や数字が色とひも付いていることはあまりないのではないか。

「メモをとる全盲の女性」。彼女は文字にアンダーラインを引いたり、地図や絵を描いたりする。記憶として残る、見えている体がパラレルに働いている。二つの体を使いこなしているという。

それは頭の中で描いているイメージとは違い、実際に机や紙まで“見ている”。私も、何かと手帳に書いておきたいタイプである。昔から書いて暗記するので時間がかかるのだが、紙質やノートの形状、ペンの種類などは書く内容によって決めている。それと少し似たようなことなのだろうか。

見える体と見えない体を使いこなす「多重身体」(p.33)ともいうべき仕組みを、著者である伊藤亜紗さんは実に分かりやすく説明し、巧みに文章を並べる。それは頭の中で言葉のブロックが積み上がっていくようでおもしろい。まさに坂口恭平さんによる表紙の絵のように、建造物が出来上がるようである。

そう、この絵のように体の中は細かいのだ。その微細なところを我々はあまり感じ取らず、日々オートマチックに体を動かしているのだろうと思う。

「体が動かしづらい」は、皆にやってくる

オートマ制御からマニュアル制御(p.74)の解説も分かりやすい。23歳の時に事故が原因で「足の一部を失ったダンサー」は、両脚で踊っていた記憶が残っている。事故に遭う前は意識せずに出来ていたことが、事故後は義足を利用し、同じ動きをするのも手順を要しないと出来ない。プロの方なのでネットで検索すれば踊る姿を見ることができるが、それは見事である。左右で長さが違う脚で、何故あんなに真っすぐ軸が取れるのか。マニュアル制御への移行には色んな努力と段階があったことが読みとれる。

12人の方々のエピソードなので、それぞれのケースがあり、学び、気づきが多くあるが、決してその方たちの体の話だけではないと感じる。人はたとえ障害がなくともいつかは老いて、徐々に体の色々な所が思い通り動かしづらくなる。

医学や科学が発達していても、それは必ずやってくる。それまでの「記憶」があるからこそ人は戸惑う。その体をもった者の宿命(p.275)の中で、いかに人為的に工夫し、介入して生きていけるのか。誰しもが考え、出来ることがきっとあるだろう。

(文・岩佐さかえ)

40の本屋に出会える。「二子玉川 本屋博」が開かれます

「無意識」なのは、体が覚えているから 『記憶する体』

約40の個性あふれる本屋が⼀堂に会し、本屋の魅⼒と可能性を発信するフェス「⼆⼦⽟川 本屋博」が2020年1⽉31⽇、2⽉1⽇の2⽇間、⼆⼦⽟川ライズ ガレリアで開かれます。企画は「ほんやのほん」でもおなじみ、⼆⼦⽟川 蔦屋家電の北⽥博充さん。もちろん、⼆⼦⽟川 蔦屋家電も出店します。心ときめく「唯一の本屋」を探しに、出かけてみませんか。 

■info
⽇時:2020年1⽉31⽇(⾦)11:00〜20:00、2⽉1⽇(⼟)11:00〜19:00
場所:⼆⼦⽟川ライズ ガレリア (⼆⼦⽟川駅直結〈東京都世⽥⾕区⽟川2-21-1〉)
参加費:無料
イベント公式サイト


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