上間常正 @モード

多様化したようで均質化が進んでいる? 今年のファッションの行方は

多様化したようで均質化が進んでいる? 今年のファッションの行方は

ファッションの行方は、今年はどうなるのか? 去年はサステイナブル(持続可能な)、エシカル(倫理的)、フェミニズムなどといった真面目なキーワードをうたう取り組みが大きく広がった年だった。また若い世代を中心に、ファストファッションや安めの〝マイブランド〟で間に合わせる傾向も強まった。

そんなふうにファッションは多様化したように思えるのだが、その一方で、ファッションが持つときめきを感じさせるような創造性は低下しているようにも思える。多様化の中で、それとは裏腹なファッションの均質化が進んでいるのかもしれない。

たとえばサステイナブルでは、去年開かれた2020年春夏のコレクションで、クリスチャン・ディオールは森林保護のためにショー会場に持ち込んだ樹木170本を植え替えられるように、採集地のデータを記録したQRコードを付けた。グッチはショーの招待者2000人と同じ数の木をミラノ市内に植樹すると発表。多くのブランドが、CO2の削減やパッケージの簡略化を打ち出した。

しかしブランドごとにやり方は少し違うとしても、全体としては似通っていて、服やショー会場の仕立ても、以前のような独自性が減っているとの印象を受けてしまうのだ。

高級ブランドでのこうした傾向は、ブランドの系列グループ化と競争が、ますます激化していることも背景にあるだろう。経済のグローバル化と格差が進む中で、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)をはじめとする高級ブランドの巨大資本グループは、新たな超富裕層に向けたマーケット戦略を推し進めている。そのため、高級素材と派手な装飾でラグジュアリーさを強調する似通った作り方に陥っている。

そんな中で去年9月のパリ・コレでは、ドリス・ヴァン・ノッテンがかつてのオートクチュール系デザイナー、クリスチャン・ラクロワとコラボした大胆で華麗な新作を発表したり、ジョン・ガリアーノによるメゾン・マルジェラの独創的な作品展が開かれたりした例もあった。だがこうした試みは、例外的な、はかない抵抗に過ぎないだろう。

多様化したようで均質化が進んでいる? 今年のファッションの行方は

ドリス・ヴァン・ノッテン2020年春夏コレクションより(撮影:大原広和)

いずれにしても、かつては少し無理すれば顧客になれた先進国の中間層は、今ではいつの間にか没落していて、こうしたブランドにはもう手が届かなくなっている。

そんな、中間層、そして若い世代の日常着としてのアパレルブランドは、低価格なファストファッションとの競争を強いられ、価格・品質の低下傾向を余儀なくされている。そしてグローバル化したファストファッションは、均質な大量生産品でファッションのときめきは期待できないし、高級ブランドと同じでマーケットの拡大はもう限界に差し掛かっている。

では、次の時代に向けた本質的に多様で魅力的な服は、どうすれば可能なのか? 問題はそう簡単ではない。服はあくまでも着るための道具という制約があって、作るためのスタッフの生計を保証する、一定以上の服の買い手が必要だからだ。だが、服の多様性といえば、かつての民族衣装がそうだったように、土地の風土や伝統文化に根差した服に新たな可能性がある。

その意味では、去年11月から今年2月16日まで東京都江東区の東京都現代美術館で開かれているミナ ペルホネンの「ミナ ペルホネン/皆川明つづく」、そして今年1月22日まで東京・青山で開かれたブランド・まとふの「matohu 日本の眼 展」は、その可能性を示す試みといえるだろう。

多様化したようで均質化が進んでいる? 今年のファッションの行方は

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展より 壁前面に400着以上のミナの服を並べた展示も(撮影:林 紗記)

ミナ ペルホネンはデザイナーの皆川明が「1001年つづくブランドに」とのコンセプトで、オリジナルの図案による素材で服だけではなく生活のためのさまざまなもの作りを続けている。まとふは、デザイナーの堀畑裕之・関口真希子が日本の伝統的な美意識に焦点を当てた、やはり独自の素材作りによる服と生活用品を制作している。

多様化したようで均質化が進んでいる? 今年のファッションの行方は

「matohu 日本の眼 展」の会場

どちらもこれまでの活動の集大成として、これまで作ってきた服やアクセサリー、小道具類などのかなり膨大な数の作品が展示されていた。この時期に中間地点だとしても集大成の展示を実施したのは、ファッションの現状への危機意識が深くかかわっているのだと思う。

この二つの展覧会は見応えが十分にあったし、両ブランドの広い年齢層のファンの数も確実に増えているようだ。だがどちらも、服・もの作りのコンセプトや表現の仕方の違いなどを超えた、見ただけでときめきを感じさせる独自の強さをもつレベルに達するかどうかは、これからの課題と言わざるを得ない。そう思いつつ期待していきたい。

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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