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<130>本好きが本の話を楽しむ酒場 「Bar Bookshelff」

「あの小説のあの場面について、誰かと猛烈に話したい!!」

 本好きなら、こんな瞬間を何度も経験したことがきっとあるだろう。そんな欲求を満たせるところが東京・上野にある。JR上野駅、東京メトロ銀座線上野から徒歩4分、上野警察署や台東区役所そばの「Bar Bookshelff」だ。かなり年季の入ったビルの3階、全8席のこぢんまりとしたシックなバーなのだが、ここは“本好きのための、本の話をする”場所。2019年5月のオープン以来、ツイッターによって本好きの間に少しずつ存在が広まっているという。

「ツイッターと読書家の方との相性がすごくいいようで、9割は『ツイッターを見て来ました』というお客さま。オープン2カ月で約200人の方が来てくださいました。また、店の近くに住む方よりも、むしろ遠方からわざわざ訪れてくださる方の方が多いですね」

 そう話すのは、店主でバーテンダーの金澤大さん(39)。栃木県那須塩原市の出身で、約20年間の飲食店での経験を経て、東京で独立を果たした。新宿や渋谷といった繁華街よりは、東京の東側で店を開きたいという希望があり、上野で今の場所を見つけた。

 L字形のカウンターで、全8席。3席ある短辺側のカウンターは、すぐ目の前が本棚なので、本の世界に没入できそうだ。5席ある長辺側は、金澤さんと相対するカウンター。カウンターの内側にも、文庫本がぎっしり詰まった本棚がある。

<130>本好きが本の話を楽しむ酒場 「Bar Bookshelff」

「カウンター内の本棚は大阪にある司馬遼太郎記念館をイメージしています。吹き抜けの大書架に行った時、そこに座って目をつぶってみたのですが、ここにバーテンダーがいて、お酒が飲めたら最高だなと」

 司馬遼太郎記念館の大書架には、高さ約11メートルもの吹き抜けに約2万冊の本が収納されている。その再現は無理だとしても、文庫本を収めるミニチュアサイズにすることで、それらしい雰囲気を出したいと金澤さんは考えた。

「自分が文庫本好きだから、ということもあります。単行本で発売された作品が、文庫化される時にはよく加筆修正されます。なので、文庫本はある意味、本の完成形だと思うんです。ポケットに入るサイズ感もいいですよね」

 本が好きで、本の話ができるバーがほしい、という夢を実現した金澤さんの好きな作家は伊坂幸太郎さん。金澤さんに伊坂さんの作品を教えてくれたのは、吉祥寺のハモニカ横丁にある小さな飲み屋の店員だった。

「10年くらい前、たまたま飲みに行った店で、『おすすめの小説はありますか?』と聞いてみたら、店のお兄さんが伊坂さんの『重力ピエロ』をすすめてくれました。忘れないようにとその場でメモに書いたんです」

<130>本好きが本の話を楽しむ酒場 「Bar Bookshelff」

 早速読んでみて、すっかり伊坂作品のファンになった金澤さんは、後日、店員さんに御礼を言おうと再び店を訪れたが、再会はかなわなかった。その5年後、ふと思い出してツイッターで店員さんの名前を検索したところ、本人らしきアカウントを発見した。DM(ダイレクトメッセージ)を送ろうかと思ったが、「いつか本の話ができるバーをオープンできた時に連絡しよう」と心に決めた。

「お店ができて1カ月後に恐る恐る、『あなたのおかげでこんなお店ができました』とDMを送ったら、『うれしいです!』と返事を下さり、お店にも来てくださったんです。ミュージシャンの方で、開店のお祝いに2曲演奏していただきました」

 金澤さんが店で書き留めたメモ用紙は、今も大切にお守り代わりに財布に入れている。

 ここは本好きが集まり、自由に本の話ができる空間である以前に、さまざまなお酒を揃える立派なバーである。

「この店がバーであるということは大切にしています。バーによく行かれる方が来られた時に、店に並べているお酒を見て『ただ本があるだけじゃない』と感じていただけると思っていますし、バーに行ったことがない人にとっては、この店がバーの入口になったらいいなという思いもあります」

<130>本好きが本の話を楽しむ酒場 「Bar Bookshelff」

 店にはメニューがないため、初来店した客が戸惑うことも少なくないが、酒のプロである金澤さんが好みなどを丁寧に引き出し、おすすめの酒を出してくれる。適正な価格で提供しているので、安心して飲んでほしいという。特にスコッチウイスキーが充実しているため、ウイスキーに興味がある人は、金澤さんに教えてもらうのも楽しそうだ。

 カウンターの中にいるのは金澤さんのみ。一人で接客できる人数を考えて8席にしたが、たまたまオーダーが重なってしまったり、他の客と本について話していたりして、充分な対応ができない場面もある。そんな時、助けになるのは本だという。

「本があれば、それを手にとってお待ちいただけますし、誰かがある作家さんについて話をしているのが聞こえたら、自分は会話に入っていなくても、すっとその人の本を出したりすることもあります。なので、本はもうひとりの“店員”みたいな感じです」

 たまたま隣り合った客同士で会話が始まり、おすすめの本を教えあったり、時には面白くなかった本の話題でヒートアップしたりすることもしばしば。そんな様子をカウンターの内側から俯瞰(ふかん)でながめている瞬間が大好きだという金澤さん。

「『そうそう、これがやりたかった』って想像していた通りになっている。だから今、すごく幸せですね」

<130>本好きが本の話を楽しむ酒場 「Bar Bookshelff」

■おすすめの3冊

『美しい知の遺産 世界の図書館』(著/ジェームズ・W・P・キャンベル、写真/ウィル・プライス、日本語版監修/桂英史)
古代メソポタミアから現代日本の最新図書館まで、5400年にわたる世界の図書館188館を総覧。「もともと図書館の写真を見るのが大好きで。この本は世界各国のすごい図書館の写真がばーっと並べられていて、ある意味“中二心”がうずくというか……。判型が大判なので、実際に行くことはできなくてもその図書館の世界観に浸れるところがいいんです」

『ウイスキーは楽しい!』(著/ミカエル・ギド、訳/河清美)
イラストを交えた解説が分かりやすいと、フランスでベストセラーの実用書シリーズ。製造方法、ウイスキーの選び方、料理の合わせ方などウイスキーの楽しみ方が凝縮された一冊。「ウイスキーの本ってどれも真面目なものばかりなんだけど、これはいい意味でふざけています。フランスの本だからかユーモアがあって。味が悪くてどうしようもないものはどうしたらいい? という質問に『おいしいウイスキーとまぜろ!』って答えていたりするんです。それでいて、内容はウイスキーについてしっかり書かれている。絵がたくさんあるので、見ているだけでも面白いですよ」

『重力ピエロ』(著/伊坂幸太郎)
仙台の街で起こる連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアート。過去に辛い記憶を抱える2人の兄弟が謎解きに乗り出す。グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。その先に見えてくるものとは――。「これは思い出の一冊でもあるので。伊坂さんの作品は、布石がいっぱい散りばめられていて、その謎が最後にきれいに解決されるものが多く、そこがまたいいんですよね」

    ◇

Bar Bookshelff
東京都台東区東上野4-3-11 オリエント上野ビル3F
https://barbookshelff.com/

(写真・山本倫子)

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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