鎌倉から、ものがたり。

浄明寺エリア、イェンス・イェンセンさんの縁でつながる地域の新拠点(2)

鎌倉に住み、デンマーク流のライフスタイルを日本に紹介する著述家、編集者のイェンス・イェンセンさん(42=写真)は、その暮らしぶりにファンが多い。奥さんと小学生の息子さん2人の家族4人で暮らす家は、大町にある古い民家をDIYでリノベートしたもの。

「デンマークではDIYで自分の家を整えていくことが、日常に溶け込んでいます。学校では算数と同じように木工の授業時間があって、子どものころから自分たちの手を使っていくことに親しんでいくんですね。あ、日本でも、図工と家庭科がありますよね。そこはちょっと似ているかな」

 そう語るイェンセンさんは夫妻そろっての「物件好き」。あるとき、浄明寺のひっそりとした住宅街に、味わいのある木造の元商店を見つけた。イェンセンさんはピンと来た。
「絵美先生の学童の拠点に、いいのではないか」

 絵美先生とは、前回に登場した元小学校教諭の末原絵美さん(37)。2019年1月にNPO法人「マナビノキ」を設立した末原さんは、当初、月2回の野外活動で「探究型プログラム」の取り組みをスタートしていた。そのプログラムには、イェンセンさんの息子さんたちも元気いっぱいに参加していた。

「山で草木染めのワークショップをしたり、戸外で大工さんと机をつくったりと、野外活動を楽しんでいたのですが、拠点となる屋内の施設はやっぱり必要だなと、ずっと思っていました」(末原さん)

 イェンセンさんはこの物件情報を末原さんに伝えるときに、魅惑的な提案も加えた。
「この木造の家をみんなでDIYすれば、それが子どもたちの体験にもなって、面白い教育になるんじゃない?」

 話が決まり、スクールの関係者だけでなく、鎌倉の友人知人がDIYに参加してくれる中で、隣の酒屋兼よろず屋さんが店を閉めることを聞いた。ここでもまたイェンセンさんのアンテナが動いた。
「僕の頭にすぐ思い浮かんだのが、ジュンペイさんの顔」

 ジュンペイさんとは、「鎌倉から、ものがたり。」の連載第1回に登場した鎌倉レンバイ内のパン屋さん&カフェ「パラダイスアレイ ブレッドカンパニー」の店主、勝見淳平さん(45)のことだ。イェンセンさん一家の暮らす家は、淳平さんの実家がある大町に位置する。つまりご近所同士。その縁で、家族ぐるみのつきあいをしている。

「大町といっても市街地ではなく、草深い山の方。ご近所といっても、けっこう離れているんですが」と、笑いながらイェンセンさんが話す淳平さんとの出会いが、またユニークだ。
「勝見さん一家と知り合う前から、レンバイにヘンなパン屋さんがあることは、気になっていました。僕が東京から鎌倉に引っ越してすぐのころ、大町の裏山を散歩していたら、ガサゴソと草をかきわけて誰かが来る。普段、人が入ってこない山なので、びっくりしましたが、その彼がずいぶんのんびりした雰囲気の人で、挨拶がわりに『はい』って差し出してくれたのが、パラダイスアレイのあんぱんだったんです」

 名刺代わりに、あんぱん。いい話ではないか。

 その淳平さんは、逗子にパン工房を借りていたが、昨年に建物の取り壊しが決まり、新たな場所を探している最中だった。

 1軒を末原さん、1軒を淳平さん。ふたりに託すことで、いまの並びのまま、木造の民家を残すことができれば、地域への貢献にもなるのではないか。それぞれの大家さんに打診すると、「古い建物がそれで生きるなら」と、快諾してくれた。

 浄明寺には、コミュニティを守る近隣のルールがある。「ここで店を開く人は、建物内に住むこと」というものだ。昭和時代の商店街はみな、1階に店舗を構えたら、その奥や2階で家族が暮らしていた。それによって、地域のつながりが保てていたのである。

 末原さんはいう。
「同じ建物で生活をしながら、学童を受け入れることで、プライバシーは大丈夫? と、聞かれることもありますが、子どもたちがここに来るのは学校が終わってから。午前は自分の時間ですし、それ以上にひとつ屋根の下で、子どもたち、仲間たちと大きな家族のように過ごせることが、私には喜びです」

 マナビノキでは、いま、夏に向けてウッドテラスをつくっている最中。子どもたちがのびのびと過ごす建物の隣は、毎日おいしいパンを焼き上げるパン工房。イェンセンさんが取り持つめぐりあわせである。

第3回に続きます

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    PROFILE

    • 清野由美

      ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

    • 猪俣博史(写真)

      1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

    浄明寺エリア、イェンス・イェンセンさんの縁でつながる地域の新拠点(1)「マナビノキ」

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    浄明寺エリアに生まれた、パラダイスアレイの新工房「今此処(イマココ)商店」

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