花のない花屋

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

〈依頼人プロフィール〉
吉岡拓耶さん 29歳 男性
東京都在住
会社員

     ◇

妻と付き合い始めたのは2015年11月のこと。大学時代の共通の友人を通して知り合い、彼女の明るく何事にも前向きに取り組む姿勢にひかれました。当時から一緒にいると楽しくて、同時に自分自身も落ち着くことができる貴重な存在でした。

しかし、1年半ほど経ったとき、思わぬことが起こりました。当時僕はとても疲れやすく、高熱が出て腰が痛くなる……というのを毎週のように繰り返していました。それが1カ月ほど続き、さすがに「何かおかしいぞ」と思って病院へ行くと、「すぐに大学病院へ行くように」とのこと。言われた通り大学病院で検査を受けると、「精巣腫瘍(しゅよう)」と診断されました。

病気の詳細、治療の方針、仕事復帰の目安など一通り説明を受けると、さっそくその日の夜にでも手術をするとのこと。主治医は、「しっかり治療すれば根治する病気だ」と言ってくれましたが、いま起こっている現実についていけず、当時まだ27歳だった僕は途方にくれました。

そして手術を終えて麻酔が切れると、目に入ってきたのは、病室にきてくれていた両親と彼女でした。その日、僕は彼女と結婚しようと決めました。「治ったら、結婚しよう」。気づけば僕は彼女にそう言っていました。

その日から僕の闘病生活が始まりました。しばらく入退院を繰り返すことになったため、彼女は一人暮らしだった僕の家に引っ越し、家にいるときは全力で僕をサポートしてくれました。入院中は、仕事が終わった後に1時間半もかけて病院までお見舞いにきてくれました。抗がん剤治療の副作用による吐き気、食欲減退など想像以上にハードな日々を乗り越えられたのは、「治ったら彼女と結婚する」という目標があったからです。

そして18年2月、とうとう病気は無事に完治し、退院することができました。妻と入籍したのはその2カ月後です。とはいえ、今でもたまに妻は「ちゃんとプロポーズされてない。いつかプロポーズを改めて欲しいなあ~」と冗談交じりにつぶやいています。僕としては病気が宣告されたあの日、プロポーズをしていたつもりでしたが、妻はそうだとは気づいていなかったようです。

そこで、入籍から2年が経ってしまいましたが、妻がこの連載の大ファンなので、この場を借りて、東さんに改めてプロポーズの花束を作っていただけないでしょうか。これまでの感謝の気持ちと、これからもよろしくという気持ちを込め、摘んできたばかりのようなナチュラルで、力強さとかわいらしさのある花束を作っていただけるとうれしいです。

妻は学生時代フィリピンに留学したこともあり、英語が得意。いまは外国人コンサルタントをサポートする仕事をしています。とても社交的で誰とでも仲良くできる明るい人です。

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

花束を作った東さんのコメント

闘病を支えてくれた奥様へ、これまでの感謝の気持ちを込めた「2年越しのプロポーズ」の花束です。

スイセン、フリージア、スイートピー、チューリップなど香りのよい花と、色とりどりの花を使って春らんまんのアレンジに仕上げました。

主な花材はエピデンドラム、ルピナス、スカビオサ、ラナンキュラス、ガーベラ、デルフィニウム、アルストロメリア、トルコキキョウ、サイネリア、ブバルディア、シンビジウムなど。大きさも色もなるべくいろいろなものを選びました。

リーフワークの代わりに、黄色いふんわりとしたカーネーションをたくさん挿したのは、ボリュームを出すため。全体的に丸く、優しい印象の花束になりました。

トップに挿した紫のトケイソウはアクセントに。エッジの利いた強い色のトケイソウは、淡い色合いの花々の中でも目を引きます。やわらかい花の中にこういった個性的な花があったり、これから芽吹くフリージアのつぼみがあったり……全体的なやわらかい印象の中にも、生命の強さやみずみずしさ、春の息吹が感じられるのではないでしょうか。

この花束の中に、奥様のかわいらしさと力強さを感じてもらえたらうれしいです。

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

(&編集部/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み


  •    


       

       

    あっという間に逝ってしまった父へ 言えなかった「ありがとう」を込めて


       


  •    

    不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ
       

       

    不遇に見えていた次男 希望をかなえて社会へ


       


  •    


       

       

    彼がいなければつぶれていた。私を支えてくれる太陽みたいなパートナー


       

  •      ◇

    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    「治ったら彼女と結婚する」 闘病支えてくれた妻へ改めてプロポーズ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


    あっという間に逝ってしまった父へ 言えなかった「ありがとう」を込めて

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