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皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

東京都現代美術館で開催中の「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」は、1995年の設立から会期中の2020年に25周年を迎えるブランドと、デザイナー・皆川明さんの創作を余すことなく伝える展示。流行に左右されることなく、独特の創作姿勢で国内外に多くのファンを得てきた彼らのもの作りはどんな背景の上に成り立っているのだろう? 展覧会に込めた思いとは? 皆川さんご本人にお話を聞くことができました。

    ◇

―― 「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展は、プレビューから多くのプレスが詰めかけ大盛況の開会となりました。大規模個展を開かれてみて、改めてのご感想をお聞かせください。

皆川明(以下皆川) 実際に展示が仕上がってみて、自分たちが年月をかけてこんなに多くのものを生み出してこられたんだなあ! という喜びが改めて押し寄せました。同時に、それぞれを生み出す過程で関わってくださった人々の多さを思ってありがたいことだなあと再認識しましたね。

―― 展示は、「種」「森」「風」「根」など自然のエレメントの名前のついた8つの部屋に分かれている。それぞれに、ブランドや皆川さんの個性が発揮されていました。仔細に拝見していくと、皆川さんの中に、優しさと厳しさ、大らかさと細やかさ……という相反する個性があることを発見できました。

皆川 おっしゃる通り、僕自身の性格はカオスです(笑)。周囲が理解できないほど細かいことにこだわるかと思えば全く感知しない領域もありますし。自分でも自分がどういう人間か理解できない部分もあって、それに付き合う人たちの苦労をはかることもできません(笑)。

「種」の部屋にもあるのですが、四角い枠のなかにいくつものドットが並ぶミナ ペルホネンのロゴは、さまざまな個性の集合が一人の人をつくるという意味合いを込めています。極端さの度合いはさておき、誰しもアンビバレントな面を持っていて、その時、その環境に合った「自分」が出てくるものだと思うんです。個性や性格って相対的なもの。そのひとつが僕たちのモノづくりに共感してくれるといいなと思っているんです。

皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

―― 周囲が大変とご謙遜されますが、実際には現在の「ミナ ペルホネン」は100人以上のチームです。チームを動かすことにコツはありますか?

皆川 頼ることですね。その人の能力を信じること。僕にはできないことがたくさんあるので、その部分は頼る。僕はひたすら、皆にとってのよい絵を描いたりものをつくったりという、動きのきっかけをつくるという感じです。

―― 本展には、新聞の連載の挿画など、皆川さん個人名義での作品も展示されています。チームとしての創作と個人での創作に違いはありますか。

皆川 “潜り方”が明らかに違いますね。チームの場合は、周囲の様子を伺いながら自分がやるべきことをやる。一方、たとえば自分で絵を描く場合には、ただ自分が自分の頭の中に入ってしまえばいい。目の前の現実世界がなくなって、そこに入り込む感じです。だから、展示している連載の挿画なども、どうやって描いたかうろ覚えのことがほとんどです。

皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

建築家・田根剛さん

―― 本展の会場構成を手がけたのは、今や大忙しの建築家・田根剛さん。もう15年以上のお付き合いだとお聞きしました。また創立メンバーの長江青さんもデザイナーとして、絵本作家として活動の場を広げている。皆川さんの周囲にいる若い世代のクリエイターが、どんどん活躍をし始めるのには何か秘密があるのですか?

皆川 そう言っていただくとありがたいけれど(笑)、僕は決してその中心にいるわけではないんです。素晴らしい才能を持っている人たちと自分とが、お互いに影響し合えるのがいい状態だとは思っています。そういう意味で、縁には恵まれているなと思いますね。

僕自身、ブランドを立ち上げた時には周囲のいろんな人にずいぶんお世話になりました。また、今回の展示のグラフィックデザインを担当してくださった葛西薫さんもとてもお世話になり続けている一人です。自分が歳を重ねてきた今、「恩返し」はもちろんなのだけど、「恩送り」をしたいという気持ちは確かにあります。自分がしてもらったことを次の世代にパスを出すような感じ。

最初のところで、ほんのちょっとだけ力を添えただけで、すっと先へ先へ走っていけるエネルギーを感じる若い人たちがたくさんいるなあと感じます。

皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

―― &wの読者のなかにも、「ミナ ペルホネン」の服に憧れを持ち、考え抜いて買った服を大切に着ている、という人がたくさんいるはずです。生地から丁寧につくられる「ミナ ペルホネン」は、ものに愛着を持つことの真の意味を教えてくれる。ものを大切に使っていくそのような方向性は、皆川さんが昔から持たれていたものですか?

皆川 僕が20代を過ごしている頃はバブル期でブランドを始める頃にはバブルが崩壊し、世界は不景気の真っ最中。その時に僕は、何かを変えるとてもいいチャンスだとも思ったんです。ものづくりのやり方も、使う側の考え方も変わることができるんじゃないかと。

こういう時代にファッションブランドを立ち上げるからには、そのタイミングでやるべきことをやりたいと考えました。その時点で「せめて100年つづくブランドに」という思いを持っていたのですが、100年後の未来が見えていたわけでは決してなくて。こうあるべきだという理想像はあるけれど、そこに至るにはとても僕の持ち時間では足りそうもない。だから次の人、その次の人に託したいという気持ちですね。

―― 「ミナ ペルホネン」のものづくりも皆川さんご自身の創作も、有機的で自然をモチーフにとったものがとても多いと感じます。それらを生み出す皆川さんの原風景とはどんなものですか?

皆川 僕の生まれ育ちは京浜工業地帯の蒲田。自然とは程遠い環境なんです(笑)。でも、だからこそいつまでも想像が止まらない気もしています。幼い頃の記憶のなかに自然の姿があれば、そこを描くようになるかもしれないけれど、僕の場合はそれがないから、空想が生まれやすいのかもしれません。自然に憧れているというのでもなくて、頭のなかにその世界ができてからは、そこへ行けば自分だけの自然があるという感じです。

皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

―― 本展では、皆川さんのアイデアをもとに中村好文さんが設計された“簡素で心地よい宿”のプロトタイプ、「シェルハウス」も展示されていました。プランがフィボナッチ数列の図形がベースになっている一軒家、ありそうでないアイデアでした。ブランドの25周年を目前に、皆川さんと「ミナ ペルホネン」は、さらにその先へどのように進んでいかれるのでしょうか?

皆川 「シェルハウス」は柱のない構造体で、巻貝状に外壁がそのまま内壁になっていく。既存の方法では構造計算ができないらしいのですが、構造体としての完璧さはすでに自然界でわかっていること。単に今までこういう建築がほとんどなかったということでしょうか。

今後も建築をやりたい、家具をつくりたい、というのとは違って、実はつくるものはお菓子だって建築だっていいんです。そのジャンルで今までにはほとんどなかったけれど、整合性はあるアプローチを探し出し、ものをつくっていくことが楽しい。これからもそれは変わらないと思います。

皆川明さん「 いつまでも想像が止まらない気がしています」

(文・阿久根佐和子 皆川明さん写真・在本彌生 田根剛さん、会場写真・林紗記)

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」フォトギャラリーはこちら

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