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《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

世界の映画ファンが注目する第92回アカデミー賞授賞式が日本時間2月10日、ロサンゼルスで開かれます。通常より開催時期が半月近く繰り上がり、短期決戦となった今回は例年以上の混戦模様。主要部門の候補作には日本でも見られる映画も多く、実際に見た上で予想を楽しめる年になりました。(構成・文 深津純子)

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

アカデミー賞の公式昼食会に集まった今年の候補者たち (c)A.M.P.A.S.

今年の作品賞候補は9本。「パラサイト」と「マリッジ・ストーリー」以外は過去を舞台にした作品が並びました。ノミネート数は、日本でも大ヒットした「ジョーカー」が11件で最多。続いて「アイリッシュマン」「1917 命をかけた伝令」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が各10件、「ジョジョ・ラビット」「マリッジ・ストーリー」「パラサイト」「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」が各6件、「フォードvsフェラーリ」が4件。候補数が二桁の作品が5本も並ぶのは異例のことです。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

監督賞の候補。左からマーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、ポン・ジュノ、サム・メンデス、トッド・フィリップス Reuters

このうち監督賞でもノミネートされた5本が頂点を競うのがオスカーのセオリー。特に有力視されているのがサム・メンデス監督の「1917」です。英国軍の若き伝令兵の決死のミッションをまるでワンシーンのように描いた撮影も大きな話題になっています。候補作のなかでは最も遅い公開でしたが、ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の作品賞に選ばれ、オスカーとの一致率が高い全米製作者組合賞や全米監督組合賞、英国アカデミー賞作品賞も獲得。快進撃でフロントランナーに躍り出ました。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

全米映画俳優組合賞の最高賞を手にした「パラサイト」の出演者 Reuters

強力なライバルが、昨年のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト」。格差社会を背景にしたジャンル横断の風刺劇は、字幕嫌いと言われる米国で異例の大ヒットに。全米映画俳優組合賞では最高賞のキャスト賞を射止めました。同賞の授賞式では候補者紹介でソン・ガンホら出演者が登壇しただけで、スタンディングオベーションが起こる人気。オスカー会員の最大派閥である俳優の心をつかんだことは大きな追い風になりそうです。

主催者によると、作品賞にノミネートされた外国語映画はこれまでに10本。「ライフ・イズ・ビューティフル」(1998年)、「グリーン・デスティニー」(2000年)、昨年の「ROMA/ローマ」などが選ばれたものの、受賞はゼロ。「パラサイト」は監督賞や国際長編映画賞(外国語映画賞を今年から改称)だけでなく、脚本や編集、美術賞でも米国映画に伍して候補入りしており、頂点を狙う資格は十分。オスカーの歴史を書き換えるかが注目されています。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

アカデミー賞候補発表をホテルで見守り、6部門ノミネートを喜ぶ「パラサイト」のソン・ガンホ(SNS向け動画から) Courtesy of NEON/Social Media via REUTERS

クエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」も、前哨戦のゴールデン・グローブ賞やクリティクス・チョイス賞の作品賞を受賞。往年のハリウッドの舞台裏を描いた作品だけに、根強いファンをつかんでいます。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞の「ジョーカー」は、ダークな世界観に賛否が割れる可能性も。マーティン・スコセッシ監督が米国の裏面史を描いた「アイリッシュマン」は、3時間半という長さとNetflix作品への抵抗感がネックになっています。

俳優賞はスピーチも注目

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

主演女優賞の候補。左からシャーリーズ・セロン、レネー・ゼルウィガー、スカーレット・ヨハンソン、シンシア・エリヴォ、シアーシャ・ローナン Reuters

作品賞の混戦とは対照的に、演技部門は同じ顔触れが前哨戦で受賞を重ねています。主演女優賞は「ジュディ 虹の彼方に」でミュージカル俳優ジュディ・ガーランドの後半生を演じたレネー・ゼルウィガーが大きくリード。キャリアの不振を乗り越えての復活に支持が集まっています。助演女優賞は「マリッジ・ストーリー」で弁護士を演じたローラ・ダーンが有力視されています。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

主演男優賞の候補。左からアダム・ドライバー、レオナルド・ディカプリオ、ホアキン・フェニックス、アントニオ・バンデラス、ジョナサン・プライス Reuters

主演男優賞の本命は「ジョーカー」で圧倒的な存在感を見せたホアキン・フェニックス。環境保護活動にも熱心で、ゴールデン・グローブ賞のディナーがヴィーガンメニューになったのは彼の進言によるものとか。英国アカデミー賞の受賞スピーチでは、「同じように頑張ってきた有色人種の俳優仲間はこの恩恵を受けられない。『あなた方は歓迎されていない』と言っているのも同然だ。この問題に加担する一人として、本当に恥ずかしい」と映画業界の白人中心主義を指摘。真摯(しんし)な言葉が共感を呼びました。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

助演男優賞候補のブラッド・ピット。映画俳優組合賞の受賞スピーチでも、自身の離婚などをネタにした自虐ギャグで会場を沸かせた Reuters

シリアスなホアキンとは対照的に、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で初のオスカー助演男優賞が期待されるブラッド・ピットは、各地で自虐ネタ交じりの軽妙なスピーチを披露。授賞式を欠席した英国アカデミー賞では共演のマーゴット・ロビーが彼の受賞の言葉を代読。のっけから「やぁ、イギリス。シングルに戻った気分はどう? 離婚調停がうまくいくといいね」とブレグジットをネタにし、締めは「この賞を『ハリー』と名付けたい。米国に連れて来るのが楽しみです」と王室離脱を発表したハリー王子絡みのジョーク。「誰がスピーチライターなの?」と思わぬ方向でも話題になっています。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

2度目のオスカー受賞が期待されるKazu Hiroさん (c)A.M.P.A.S.

技術部門では、「ウィンストン・チャーチル」の特殊メイクで2018年のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したKazu Hiro(辻一弘)さんが「スキャンダル」で再び同賞の有力候補に。今回はシャーリーズ・セロンやニコール・キッドマンを実在の著名ニュースキャスターに変身させています。

オスカーの「多様化」は本物か

アカデミー賞の主催団体は「高齢の白人男性が中心」と言われる会員を多様化させるため、2015年から女性や有色人種、外国人や若年層の新規招待を続けています。この5年間の招待者は約2700人。会員構成の変化が賞の行方にどう影響するのかも注目ポイントです。

《2020アカデミー賞ノミネート編》「1917」「パラサイト」が激突 もうすぐアカデミー賞

「ストーリー・オブ・マイライフ」のグレタ・ガーウィグ監督。パートナーのノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」も作品賞にノミネート Reuters

しかし、今年は「ハリエット」で主演女優賞候補のシンシア・エルヴォ以外、演技部門の候補はすべて白人。#OscarsSoWhite(白すぎるオスカー)の批判を跳ね返すには至っていません。作品賞にグレタ・ガーウィグ監督の「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」がノミネートされたものの、監督賞候補は全員男性。「フェアウェル」「ハスラーズ」「ハリエット」など女性監督の秀作が多かった年だけに、ガラスの天井の厚さを印象付けることになりました。

こうした現実を映画人たちはどうとらえているのか。受賞結果やスピーチからその一端がうかがえるかもしれません。良くも悪くも現実を映すのがオスカー。だからこそ、目が離せないイベントなのでしょう。

    ◇

主なノミネートは以下の通りです。

■作品賞
「フォードvsフェラーリ」(公開中)
「アイリッシュマン」(配信中)
「ジョジョ・ラビット」(公開中)
「ジョーカー」(公開中)
「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」(3月27日公開)
「マリッジ・ストーリー」(配信中)
「1917 命をかけた伝令」(2月14日公開)
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(公開済み)
「パラサイト 半地下の家族」(公開中)

■監督賞
マーティン・スコセッシ 「アイリッシュマン」
トッド・フィリップス 「ジョーカー」)
サム・メンデス 「1917 命をかけた伝令」
クエンティン・タランティーノ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
ポン・ジュノ 「パラサイト 半地下の家族」

■主演女優賞
シンシア・エリヴォ 「ハリエット」
スカーレット・ヨハンソン 「マリッジ・ストーリー」
シアーシャ・ローナン 「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」
シャーリーズ・セロン 「スキャンダル」
レネー・ゼルウィガー 「ジュディ 虹の彼方に」

■主演男優賞
アントニオ・バンデラス 「ペイン・アンド・グローリー」
レオナルド・ディカプリオ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
アダム・ドライバー 「マリッジ・ストーリー」
ホアキン・フェニックス 「ジョーカー」
ジョナサン・プライス 「2人のローマ教皇」

■助演女優賞
キャシー・ベイツ 「リチャード・ジュエル」
ローラ・ダーン 「マリッジ・ストーリー」
スカーレット・ヨハンソン 「ジョジョ・ラビット」
フローレンス・ピュー 「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」
マーゴット・ロビー 「スキャンダル」

■助演男優賞
トム・ハンクス 「A Beautiful Day in the Neighborhood」
アンソニー・ホプキンス 「2人のローマ教皇」
アル・パチーノ 「アイリッシュマン」
ジョー・ペシ 「アイリッシュマン」
ブラッド・ピット 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

■国際長編映画賞
「Corpus Christi(英題)」(ポーランド)
「ハニーランド 永遠の谷」(北マケドニア)
「レ・ミゼラブル」(フランス)
「ペイン・アンド・グローリー」(スペイン)
「パラサイト 半地下の家族」(韓国)

■長編アニメーション賞
「トイ・ストーリー4」
「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」
「失くした体」
「クロース」
「Missing Link(原題)」

■長編ドキュメンタリー賞
「アメリカン・ファクトリー」
「The Cave」
「ブラジル 消えゆく民主主義」
「娘は戦場で生まれた」
「ハニーランド 永遠の谷」

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