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《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

世界最大の映画の祭典・第92回アカデミー賞授賞式が日本時間2月10日、米国ハリウッドのドルビー・シアターで開かれました。実力伯仲の作品が並ぶなか、頂点を極めたのはポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。外国語映画では史上初となる作品賞など最多4冠を獲得し、アカデミー賞の歴史を塗り替えました。

「パラサイト」は半地下の安アパートに暮らす無職の4人家族が、身分を偽って高台の豪邸に寄生していく物語。「スノーピアサー」「オクジャ」と国際共同製作の大作が続いたポン監督が「海外受けなど考えずに撮った韓国ローカルな家族劇」は、昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞を皮切りに、世界各地でヒットを記録。字幕嫌いが多いとされるアカデミー会員の心もつかみました。

作品賞にノミネートされた外国語映画は、2013年の「愛、アムール」(ミヒャエル・ハネケ監督)や昨年の「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)などに次いで11本目。ポン監督と撮影スタッフのハン・ジンウォンは脚本賞も獲得。こちらは外国語映画としては03年の「トーク・トゥ・ハー」(ペドロ・アルモドバル監督、スペイン)以来の受賞でした。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

「パラサイト」のポン・ジュノ監督 Reuters

ポン監督は、監督賞の受賞スピーチで学生時代から大切にしてきた「最も個人的なことが最もクリエーティブなのだ」という言葉を紹介。「これはマーティン・スコセッシ監督の言葉です。尊敬する監督と一緒に候補入りしただけでも光栄だったので、受賞までするとは信じられません」。会場は「ブラボー!」の声とともに総立ちになり、壇上のポン監督と客席のスコセッシ監督の双方に熱い拍手が贈られました。

社会の矛盾を見据えながら、先の読めない物語を繰り出す作劇術は、デビュー作「ほえる犬は嚙(か)まない」以来のもの。多国籍チームを率いた経験も、作品にさらなるスケールと奥行きを与えました。経済格差という世界に共通する問題を背景に、笑いとスリルに満ちたドラマを展開する手腕をハリウッドが放っておくはずはなく、早くも「パラサイト」のテレビシリーズ化も決まっています。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

「半地下」と「高台」の家族がそろってポーズ。レッドカーペットでセルフィーを撮る「パラサイト」の出演者 Reuters

監督やソン・ガンホら出演者は昨年8月末のテルライド映画祭を皮切りに全米各地を回り、米大統領選さながらのキャンペーンを続けてきました。映画好きならではのエピソードを交えた軽妙なスピーチやサービス精神たっぷりのファン対応は各地で評判に。「半地下」一家の娘が偽の身分を暗唱する「ジェシカ、一人っ子、(出身地は)イリノイ、シカゴ…」というフレーズは、英米の映画好きの間で流行語になりました。外国語映画を小難しいものと敬遠していた層を引き込んだ実績は、これからの映画界の流れを変えるかもしれません。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

脚色賞を受賞した「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティ監督 Reuters

「パラサイト」と賞レースを競ったサム・メンデス監督の「1917 命をかけた伝令」は、撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3冠。第1次世界大戦の激戦をリアルタイムで体感させた技術力が高く評価されました。脚色賞はナチス政権下のユダヤ人弾圧という重い主題を軽妙なタッチで描いた「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティ監督。マオリ族とロシア系ユダヤ人の血を引くニュージーランド出身の監督は「この賞を、何かアートがしたい、自分の物語を語りたいと願う世界の先住民の子供たちに捧げたい」と語りました。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

「ジョーカー」で主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスとパートナーのルーニー・マーラ Reuters

演技部門は、前評判の高かった4人がそろって賞を手にしました。

主演男優賞は「ジョーカー」で気弱なピエロが悪のカリスマに変貌(へんぼう)する様を圧倒的な存在感で演じ切ったホアキン・フェニックス。前哨戦の映画賞と同様に、受賞スピーチでは環境破壊や人種・ジェンダー差別など、人間のエゴがもたらす様々な社会問題に言及。

「僕も自分勝手で冷酷で付き合いにくい奴だった。ここにいる多くの方が2度目のチャンスをくれたことに感謝します。助け合い、教え合い、お互いを救済へと導く。それが人間性の最善の部分です」。兄の故リバー・フェニックスが遺した「愛と共に救済に急げ。そうすれば平和が付いて来る」という歌詞の引用でスピーチを締めくくると、大きな拍手が沸きました。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で助演男優賞を受賞したブラッド・ピット Reuters

助演男優賞は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のブラッド・ピット。映画制作会社Plan Bエンターテインメントを率い、「それでも夜は明ける」(2013年)などのプロデューサーとして作品賞のオスカーを獲得していますが、俳優としてのオスカー受賞は初めて。トム・ハンクス、アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノ、ジョー・ペシという大ベテランのオスカー俳優が候補に並ぶなかでの受賞は、ひときわ重いものだったかもしれません。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

主演女優賞のレネー・ゼルウィガー(右)と助演女優賞のローラ・ダーン Reuters

主演女優賞は「ジュディ 虹の彼方(かなた)に」のレネー・ゼルウィガーが候補3回目で初受賞。「ブリジット・ジョーンズの日記」(01年)で世界的な人気を博し、「コールド マウンテン」(03年)でオスカー助演女優賞を獲得したものの、2000年代後半は出演作に恵まれず、16年に「ブリジット・ジョーンズ」の3作目に出演するまで6年近い休業状態に追い込まれていました。

今回の受賞作は、「オズの魔法使い」のドロシー役で一世を風靡(ふうび)しながら、薬物依存や私生活のトラブルで悲劇的な人生を送ったジュディ・ガーランドの伝記映画。ゼルウィガーは全編の歌も吹き替え無しでこなし、見事な復活を遂げました。助演女優賞は「マリッジ・ストーリー」で離婚専門の腕利き弁護士を演じたローラ・ダーンでした。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

「スキャンダル」の特殊メイクアップで2度目のオスカーを手にしたKazu Hiro(中央) Reuters

メイクアップ&ヘアスタイリング賞では「スキャンダル」でシャーリーズ・セロンやニコール・キッドマンを著名キャスターに変身させた京都市出身の特殊メイクアップアーティストのKazu Hiro(辻一弘)さんが「ウィンストン・チャーチル」(17年)に続く2度目の受賞を果たしました。また、歌曲賞候補のパフォーマンスでは、松たか子さんがタイ、ロシア、スペインなど各国のエルサ役とともに「アナと雪の女王2」の主題歌「イントゥ・ジ・アンノウン」を歌い上げました。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

歌曲賞候補作のパフォーマンスでは、「アナと雪の女王2」の松たか子が、世界のエルサ役とともに主題歌を歌った Reuters

監督賞は女性不在だった今年ですが、ドキュメンタリー部門では女性監督が関わった映画の受賞が相次ぎました。候補作5本のうち4本が女性監督(共同監督を含む)作品だった長編部門は、中国系企業に買収されたオハイオの自動車工場の労働者を追ったNetflix作品「アメリカン・ファクトリー」(スティーブン・ボグナー&ジュリア・ライカート共同監督)が受賞。オバマ前米国大統領夫妻が設立した製作会社が手掛けた最初の作品です。

短編部門ではアフガニスタンの少女たちの自立支援活動を描いた「Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)」が選ばれました。

《2020アカデミー賞授賞式編》作品賞に「パラサイト」、外国語映画で史上初の快挙

18歳でグラミー賞主要4部門を最年少で独占したビリー・アイリッシュ。授賞式の惜別コーナーで、「イエスタデイ」をしっとりと歌い上げた Reuters

各部門の受賞結果は以下の通りです。レッドカーペットの模様や受賞者の声も引き続きお届けします。お楽しみに!

     ◇

■作品賞
「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督、公開中)

■監督賞
ポン・ジュノ 「パラサイト 半地下の家族」

■主演女優賞
レネー・ゼルウィガー 「ジュディ 虹の彼方に」

■主演男優賞
ホアキン・フェニックス「ジョーカー」

■助演女優賞
ローラ・ダーン 「マリッジ・ストーリー」

■助演男優賞
ブラッド・ピット 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

■国際長編映画賞
「パラサイト 半地下の家族」(韓国、ポン・ジュノ監督)

■長編アニメーション賞
「トイ・ストーリー4」
 
■長編ドキュメンタリー賞
「アメリカン・ファクトリー」

■短編アニメーション賞
「Hair Love」

■短編実写映画賞
「向かいの窓」

■短編ドキュメンタリー賞
「Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)」

■撮影賞
ロジャー・ディーキンス 「1917 命をかけた伝令」

■編集賞
「フォードvsフェラーリ」

■脚本賞
ポン・ジュノ&ハン・ジンウォン 「パラサイト 半地下の家族」

■脚色賞
タイカ・ワイティティ 「ジョジョ・ラビット」

■作曲賞
ヒドゥル・グーナドッティル 「ジョーカー」

■歌曲賞
『(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン』「ロケットマン」

■視覚効果賞
「1917 命をかけた伝令」

■美術賞
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

■衣装デザイン賞
ジャクリーン・デュラン「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」

■メイクアップ&ヘアスタイリング賞
「スキャンダル」

■音響編集賞
「フォードvsフェラーリ」

■録音賞
「1917 命をかけた伝令」

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