上間常正 @モード

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

高級ファッションの値段がますます高くなって手が届かなくなり、それ以外のファッション製品は安くなる傾向がもうずっと前から続いている。安くなること自体は悪くないのだが、低価格化に伴うデザイン性や品質の低下は、ファッションの場合は無視できない悩ましい問題だと言わなければいけないだろう。

日本経済が絶好調だった1980年代から90年代はじめ頃は、欧米の高級ブランドでも円高のせいもあって、ちょっと無理すれば買えた。そして普通に買えた大手アパレルの服も、時代に敏感なデザイン感覚ときちんとしたクオリティーがあって、ヴィヴィッドなファッション感覚を楽しむことができたのだ。

そんな感覚を享受できるのは、もう世界でもごく一部の超富裕層に限られてしまうのか。より多くの人たちが楽しめるファッション製品の作り方やビジネスの仕方があるのではないのだろうか? 今月はじめに東京のベルサール渋谷で開かれた展示会「モード・イン・フランス展」は、なかなか示唆に富む内容だった。

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

展示会「モード・イン・フランス展」の会場(2月5日~7日)

展示会はフランス婦人プレタポルテ連盟(本部・パリ)の主催で、フランスの中間的な価格帯のファッション製品を作っている多くの企業がこの連盟に加盟している。今回の展示会では、日本での販路促進を目指して約50社が出展。若い世代向けの軽快でポップなカジュアル着やルームウェアなども目を引くが、会場全体からフランスならではの落ち着いたシックな感覚が通奏低音のように伝わってくるのが印象的だった。

会場の大ホールを入ってすぐ、まず目に付いたのは「BE PARISIAN」(ビー・パリジャン)というスカーフのブランド。温もりのある有機的な柄、そしてそれとは反対の幾何学的な抽象柄の二本立てだが、シックな色使いがフランスらしい伝統を感じさせる。

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「BE PARISIAN」のデザイナー、エマニュエル・ルガヴルさん

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

「BE PARISIAN」 有機的な柄模様

デザイナーのエマニュエル・ルガヴルさんは、ブルターニュ生まれ。「私のスカーフは、現代のパリを別な国の伝統で見直して批判的に組み直したアート作品です」と語る。

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

「BE PARISIAN」 幾何学的な構成の抽象柄

ブルターニュはフランス北西部に突き出た大きな半島のような地域で、かつて一つの独立王国だった頃からの独自文化が色濃く生き続けている。ルガヴルさんは現代都市としてのパリに憧れ、19歳の時にパリに出て、無機的素材を使った造形アートに取り組んだ。だが、パリの現代性への様々な疑問がやがて募るようになり、逆にブルターニュへの思いが湧き起こったという。

そして数年前から自然素材の絹を使って、現代のパリと伝統のブルターニュが交差するスカーフ作品をデザインするようになった。絹はリヨン製の最高級素材で「エルメスのスカーフにも劣らない」という。それでいて価格は90センチ四方で180ユーロ(約2万2千円)、エルメスよりはるかに安い。

利幅は薄くなるが「ビジネスとしてはなんとかやっていける」とのこと。図柄のデザイン性でも、ブランドの伝統的なアイコンを使ったエルメスのデザインに優るとも劣らないだろう。こんなやり方もあるのだ。

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

「イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュ・パリ」のブース

イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュといえば、シャネルのミューズとしてのモデル、そして自ら設立した同名のブランドのデザイナーとして知る人が多いだろう。このブランドは経営上の問題で彼女が離れてしまったことで、ブランドの人気は下火になってしまった。しかし彼女がデザイン協力したユニクロの限定ラインは、発売してすぐ完売になるほどの人気が続いている。

今回、出展されたこのブランドの服を見ると、思っていた以上にイネスらしさが感じとれる。ユニクロのラインと比べてアイテムの数も多いし、素材のクオリティーもやや高いようだ。それでいてシンプルなジャケットなら約7万円とかなり安め。これなら〝買うという選択肢〟は十分にあるだろう。

もう一つ。「PIPOLAKI」(ピポラキ)というニット帽子のブランドもユニークだ。日本ではほとんど知られていないが、フランスのかつての有名スキー選手が1962年に設立した帽子の有力ブランドだ。実用的な機能性がありながらも、デザインも優れていて、トップファッションの世界でもよく登場している。

それでいて、デザインは同じでも、価格は素材によって最上級のアンゴラでも90ユーロ、下は20ユーロと幅広い。海外への出展は初めてだが、日本でもかなり売れる可能性がありそうだ。

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「ピポラキ」

ファッションの値段が二極化する今、フランス中堅アパレルの試みは?

1972年の札幌冬季五輪で優勝した選手も、「ピポラキ」を着用していた

今回の展示会は、今でも世界のファッションの中心としてのパリの利点を生かした、フランスならではのアパレル企業の試みといえる。それなら、日本や東京ならではの利点は何で、どう生かせばよいのか? そんなことを考えるためには大いに参考になると思う。

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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