このパンがすごい!

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

市ヶ谷の駅前から麹町へ向かって伸びる日本テレビ通り。日テレといえばチャンネルは4、町名は四番町。そこに、その名も「No.4」というベーカリーカフェがある。

パンは幅広い。マニアも納得のハード系から、塩パン、クリームパンとファミリー向けアイテムまで。だが食べてみると、食感は常識離れ、4次元的なのである。

「塩パン」は、いわば溶けるテニスボール。もちのようにやわらかく沈みながら、もうとろけている。下手をしたらびよーんと糸を引く。内部の空洞が、よつ葉発酵バターの泉が湧きでる溜め池。液体とろり、じゅわーんと甘さが広がっていくとき、快楽の鐘が鳴り響く。噛(か)めば噛むほど、北海道産小麦のやさしい甘さとバターが混ざり合い、表面の香ばしいぱりぱりともあいまって、バタートースト的な幸福感へと上り詰めていく。

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

塩パン、きのこの焼きカレーパン断面

ベーカリーシェフの川原司さんは、湯種の魔術師。湯種とは、小麦粉をお湯で練る種を作ることで、もちもち感や、甘さ、保存性を与える技法。食パンに使われることが普通だが、その可能性を大胆に拡張する。

塩パンに使用される「リーン食パン生地」には、湯種とともに、24時間にわたって粉に水をたっぷり吸わせる「オートリーズ」という手法も用いる。これがもちもちを超えた異次元の口溶けと、甘み、旨味を作りだす。

西海岸発で世界的流行を見せるサワードウも、驚くべき作り方。湯種とオートリーズを合わせた「お湯リーズ」とも呼ぶべき新手法を用いる。

「でんぷんを糖化し、タンパク質をアミノ酸にするオートリーズ。もっと水和(水を小麦粉にしみこませること)させるには、お湯の力を借りたほうがいい。高温だとタンパク質が壊れてパンにならないけど、ぎりぎりタンパク質が失われない70℃台のお湯で行います」

川原シェフの故郷である北海道で作られる「春よ恋」などと、ドイツ産ライ麦をブレンドした「サワードウブレッド」。ライ麦パンなのにぷるんぷるん跳ねる。不思議なのは、酸味のある香りを鼻で感じているのに、舌はたしかに甘さを感じていること。ライ麦の甘さの最上級は、旨味とココアの香りを同時に含み込んで、口の奥のほうにチョコレートの像を結ばせるのだ。

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

サワードウブレッド、ホールウィートブレッドオリーブ

「クリームパン」も、圧倒的口溶け。皮は香ばしく、中身は淡麗。ふわんふわんで、しゅるっと溶けて早々に退散していくゆえに、バニラ濃厚、卵も活きたカスタードの風味がいやが上にも引き立つ。

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

エッグタルト、クリームパン

クリームパンに使用されるパンオレ生地には、川原さんが「バター種」と呼ぶものを使用。お湯と小麦粉を合わせるのが湯種と先述したが、これはホワイトソースのように、粉とバターをいっしょに炊く。

「吸水が多くなり、歯切れのよさが生まれます。湯種だと引き(グルテンのつながり)の強さが生まれますが、バターは油分なのでむしろ歯切れがよくなります」

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

店内風景

これは湯種は関係ないが、「パン・オ・ショコラ」にも腰を抜かした。見事に一枚一枚が独立して浮きまくり、めくれ、波打った、クロワッサン生地の層。食べれば、ポテトチップ並みのぱりぱり感。内部はカルピスバターのしめり。フランス・カオカ社のオーガニックチョコは濃厚、酸味やヘーゼルナッツに似た香りがバターとびんびん響き合う。

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

パン・オ・ショコラ

こんな湯種もあったのか!と驚く湯種のマジック。川原さんは言う。
「みんなもっとお湯を使ったパン作りすればいいのに!って思います」

No.4のまわりは広場になっている。ありがたいことに今年は暖冬。暖かい日には外にパンを持ち出し、お湯が作り出す異次元の食感を楽しむのが吉だ。

塩パンにサワードウ、クリームパン……四番町でかみしめる幸福感/No.4

No.4
東京都千代田区四番町5-9
03-3234-4440
8:00~22:00(LO 21:00)
無休
https://www.tysons.jp/no4/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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