花のない花屋

50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

〈依頼人プロフィール〉
松本はつ枝さん 50歳 女性
茨城県在住
事務パート

     ◇

夫はもともとシステムエンジニアとして働いていました。仕事はとても忙しく、朝は7時には家を出て、帰宅するのは終電。平日はほとんど顔を合わせることもなく、妻の私は知り合いや友人もほとんどいない土地でいつも1人でした。

夫が働いている間、私は午前中だけパートをして、午後は絵を描いたりキルトをしたり、美術鑑賞、買い物などをしたり。周りからみるとのんびり優雅に暮らしていたと思います。でも、祖父母同居のにぎやかな家で育った私は寂しさを抱え、夫の前でも黙り込んで無表情だったり、突然涙が出たり……不機嫌なときも多々ありました。

そんな日々でも、夫は早く帰れた日にはケーキを買ってきてくれたり、やっと取れた休日には旅行に連れて行ってくれたり。いつも不機嫌だった私をどうしてこんなに大切にしてくれるのかな、と不思議に思うほど気にかけてくれました。

その夫が3年ほど前、52歳で早期退職。私たちは田舎に引っ越して新しい家を建て、新生活を始めることになりました。退職したのは、会社内の事情と夫の体調不良が理由です。あまりの忙しさにとうとうメンタルに支障が出てしまったのです。私も、いつか夫が過労死するのではないかと心配していましたが、とはいえ定年退職が当然と思い込んでいましたので、突然の退職は寝耳に水でした。

これまでぜいたくをさせてもらった分、今後は私も働こうと決意をしたものの、現実問題として仕事に役立つスキルがありません。就職には四苦八苦しました。でも今は、運よくフルタイムのパートの事務職を見つけ、苦手なPCを学びながら働いています。

夫も50代の転職ということで大変な思いをしましたが、「どんな仕事でもする」という言葉通り、高校の公仕を2年、自動車メーカーの清掃を3カ月、そして昨年夏からは園芸専門学校の広報職員を務めています。

しかし新しい仕事について4カ月ほど経った頃、突然「辞めたい」と言い出しました。夢中で頑張ってきて、少し疲れがでてきたようです。おそらく環境や職種が大きく変わったうえ、周りより年上なのに新人状態で思うように貢献できず、はがゆさを感じているのでしょう。また、なかなか本来の自分を出せず、これまでの蓄積を生かせていないと思っているのかもしれません。

そこで、50代後半になって新しい仕事に挑戦している夫へ、心からのエールを込めて花束を贈りたいです。仕事柄、先生が作った花束、学生が育てた野菜をいただいてくることがあります。いまの園芸専門学校で生き生きと働き続けられることを願って、「花、実、野菜」を使った花束を作っていただけないでしょうか。黄色やオレンジなどが多い、カラフルで心が温かくなるような雰囲気だとうれしいです。

50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

花束を作った東さんのコメント

花、野菜、実を使った花束をとのリクエストに応え、今回のアレンジにはたくさんの野菜を潜ませました。ミニトマト、ラディッシュ、芽キャベツ、ピーマン、タマネギ、ナス……意外とまわりとなじんでいて、見つけにくいかもしれません。

野菜と花という、一見難しそうな組み合わせがうまくいっているのは、ムスカリやグズマニア、ピンクッションなど個性的な花をメインに選んでいるから。その間を埋めるようにスカビオサ、ルピナス、カーネーション、ヒヤシンス、ストック、ガーベラといった色とりどりの花を挿していきました。ボトムにはビバーナム、ヒペリカム、ミモザを使用しています。

また、今回は造形的にも色彩的にも多様なアレンジを引き締めるため、この連載では初めて黒い花器を使いました。これにより全体が引き締まり、花や野菜がより一層引き立っています。

野菜を先に食べて、お花だけを楽しむこともできますよ。

50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

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(&編集部/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み


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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    50代で転職した夫へ、生き生きと働けることを願って

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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