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小池栄子さん「すごく悔しい!小池栄子のまんまじゃない?と言われたら」

「いつか君をヒロインで撮ろうと思うんだ」

小池栄子さんが成島出監督からそんな手紙を受け取ったのは、映画「八日目の蟬」(2011年)を撮り終わった後のこと。彼女はその言葉を目標に、ひたすら俳優として走り続けてきた。

ついにその時がやって来た。成島監督から現在公開中の映画「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」のヒロイン・キヌ子に抜擢(ばってき)されたのだ。

舞台「グッドバイ」を映画化したい。成島監督の熱意

本作は太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を、舞台演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で創り上げた2015年の舞台劇「グッドバイ」を映画化したもの。この舞台を見た成島監督が舞台でもヒロインを務めた小池さんに「凄(すさ)まじい興奮具合で」電話をかけてきたという。

「その時は、いかに舞台に感動したかを、『落ち着いてください、落ち着いてください』と言いたくなるほどの勢いで話してくださいました(笑)」

そして成島監督は「絶対これ映画化したい」「小池さんを主役で撮りたい」と。「『私がヒロイン役で、賛同してくれる人がいるんですかね?』とお話ししました。成島監督の熱意は変わらず、実際にスタッフを集めて『どうにか形になりそうだよ』と、段階を踏むごとに連絡をくださいました」。

小池栄子さん「すごく悔しい!小池栄子のまんまじゃない?と言われたら」

同じ役を演じることへの恐れ

舞台は読売演劇大賞で最優秀作品賞に輝き、キヌ子を演じた小池さんも最優秀女優賞を獲得。小池さんにとっては当たり役となった。だが、映画とはいえ、同じ役を演じるのにはためらいもあったらしい。 

「私は終わったものは演じきったと思っていますし、最初を超える自信がないから……。同じ役を演じると、単純に役をなぞる芝居になりそうで抵抗があります。舞台を見てくださったお客様をがっかりさせずに同じ役ができるのか、しかも、映像でできるのか、と考えると怖かったですね」 

映画の舞台は戦後混乱期の東京。優柔不断だが、女性にはめっぽうモテる文芸誌編集長の田島(大泉洋)は、気付けば何人もの愛人を抱えて困り果てていた。そこで、金にがめつく大食いの担ぎ屋・キヌ子(小池)に「嘘(にせ)の妻を演じてくれ」と頼み込む。田島は女と別れるために、キヌ子は金のために「嘘夫婦」となって愛人たちを訪ね歩くのだが……。

この作品の魅力は何と言っても男女の駆け引きだ。舞台では仲村トオルさんと、映画では大泉洋さんが相手役となった。

小池栄子さん「すごく悔しい!小池栄子のまんまじゃない?と言われたら」

「舞台ではどちらかというと、キヌ子が田島(仲村さん)を振り回していましたが、映像では大泉さんが演じる田島の駄目男ぶりがすごくチャーミングで、結果、キヌ子が田島(大泉さん)に振り回されていたというのが新鮮でした」

難しいと思うのは「自分に近い役」

俳優という仕事を続ける中で、背中を押された言葉の一つが、ドラマ「スマイル」(09年 TBS系)で共演した大先輩・中井貴一さんの言葉だ。「俳優業を続けたいなら覚悟を見せなさい」と言われたと言う。

「それを聞いて『行くぞ』という気持ちになりました。徐々にバラエティーのお仕事を絞っていき、俳優の仕事の話が来たらそちらを優先しようという方向で進んできたんです。当時バラエティーはある程度経験を積み重ねてきていたので、自分の中ではちょっとした居心地のいい場所でした。そこを絞ることで『もう戻れないぞ』くらいの覚悟ができました」

それから10年。本作や「俺の話は長い」のようなコメディエンヌ的キャラクターはもちろん、「接吻(せっぷん)」で見せたような狂気をはらんだような女性役まで幅広い演技力で魅(み)せる。様々な女性像を演じる中で、難しいのは「自分に近い役」だと言う。

小池栄子さん「すごく悔しい!小池栄子のまんまじゃない?と言われたら」
 
「ハキハキ、サバサバした性格の役は、自分の日頃のテンポと変わらないから演じやすいですが、ハードルは高いですね。果たして視聴者が役として見てくれるのかということも気になります。『これ小池栄子のまんまじゃない?』と言われるのがすごく悔しい」

「それに、自分と似た役は、自分なのか役で演じているのかわからなくなる時があり、それで『楽をしているんじゃないか』と自己嫌悪に陥ることもあります。パブリックなイメージと正反対な役を演じているときの方が、素直に演じられているのかもしれません」 

終始笑顔で、力強く一生懸命説明してくれた小池さん。俳優という仕事が楽しくて仕方がないという気持ちがビシバシと伝わってきた。

「毎回、新しい自分を発見しています。キャラクターに共感できないことも、2カ月、3カ月と役を通して見ているうちに、いつの間にか感情が自分のものになっていることもあって。1作品をやるごとにすごく感情が豊かになっていると感じています。役に教えられることもあって、演じることが本当に楽しい。どこか旅に出ているかのような幸福感を味わうことができるんですよ」
(文・坂口さゆり 写真・山本倫子)

    ◇

小池栄子
こいけ・えいこ 1980年生まれ、東京都出身。主演映画「接吻」(08年)で、毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。主な映画出演作に、「パーマネント野ばら」(10年)、「乱暴と待機」(10年)、「北のカナリアたち」(12年)、「彼らが本気で編むときは、」(17年)、「空飛ぶタイヤ」(18年)、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(18年)、「記憶にございません!」(19年)など。成島出監督作品は、日本アカデミー賞を受賞した「八日目の蟬」(11年)他、「草原の椅子」(13年)、「ふしぎな岬の物語」(14年)、「ちょっと今から仕事やめてくる」(17年)に続き、「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」が5作品目となる。 

小池栄子さん「すごく悔しい!小池栄子のまんまじゃない?と言われたら」

グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~
女が放っておけないダメ男・田島(大泉洋)と人生の伴侶はお金というパワフルな女性・キヌ子(小池)。水と油のような二人が、わけあって嘘(ニセ)夫婦に。田島はキヌ子の協力を得て多くの愛人たちを切ることができるのか。キヌ子は田島からガッポリ金をいただくことができるのか。天涯孤独を苦にもせず「一人で生き抜いてきた」と胸を張るパワフルなキヌ子が、繊細すぎる田島と出会ったことで見出す“大切なもの”とは? 大人のための人生喜劇。

監督:成島出 原作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰治『グッド・バイ』より) 出演:大泉洋 小池栄子 水川あさみ 橋本愛 緒川たまき 木村多江 皆川猿時 田中要次 池谷のぶえ 犬山イヌコ 水澤紳吾/戸田恵子 濱田岳/松重豊 
(c)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

ヘアメイク:山口公一(スラング)/Koichi Yamaguchi (SLANG)
スタイリスト:えなみ眞理子/MARIKO ENAMI
 

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