「美は #競争ではない」のか? 元女子五輪ボート選手(IOC委員)デフランツさん

「美は #競争ではない」のか? 元女子五輪ボート選手(IOC委員)デフランツさん

写真左から、デルフィーヌ・バティンさん、アニタ・デフランツさん、チャン・ヨージンさん、サンディープ・セスさん、ケイシー・メイ・オライリーさん

石川佳純さんほか、日本のトップアスリートたちが2月13日、SNSで宣言した「#NOCOMPETITION 美は #競争ではない」。驚いた方も多いと思います。最も厳しい競争の頂点であるオリンピックを組織するIOC(国際オリンピック委員会)が、なぜSK-Ⅱのメッセージに賛同しているのか。なぜそのメッセージが、「美は #競争ではない」なのか? IOC委員のアニタ・デフランツさんと、SK-Ⅱワールドワイドのサンディープ・セスCEO、そしてSK-Ⅱブランド 主要リーダーの女性たちに聞きました。(&w編集部)
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アニタ・デフランツさんは、1976年のモントリオール五輪に出場し、97年に女性初のIOC副会長に就任。現在もIOC委員として、オリンピック活動を続けている。
「SK-Ⅱのメッセージは、とてもgrateful(=ありがたいこと)です。特に、美は競争ではないという、女性にとってはもはや言葉にしようとさえ思っていなかったことについて、語り合うチャンスを作ってくれました」

オリンピックに女性が参加すること。それはとても細くて長い道のりだった。1896年の第1回大会(アテネ)は男性のみ、1900年の第2回大会(パリ)からは女性の参加も認められたが、競技はテニスとゴルフだけ。1904年にアーチェリーが、1908年にスケートが加わり……そして14個め、1976年に女性の参加が初めて認められたボート競技で、デフランツさんは、米国代表として女子エイトの銅メダルに輝いた。

「そのときが実質的にチームとしては初めての公式レースで、もっと前にいくつかレースを経験しておくべきだと思いましたね(笑)。ゴールしたあと、ああ、まだ生きてる、と思ったくらい。本当に苦しかった」

「美は #競争ではない」のか? 元女子五輪ボート選手(IOC委員)デフランツさん

1976年、モントリオール五輪女子ボート競技エイトで銅メダルを獲得したデフランツさん(前から2番目) / Getty Images

モントリオール五輪後、弁護士を経てオリンピック活動の道に。33歳でアフリカ系女性初のIOC委員に選ばれ、1997年、45歳で女性初のIOC副会長に就任した。就任後も、IOC「女性とスポーツ作業部会」議長をつとめるなど、女性のスポーツへの進出について、ずっと行動し続けてきた人だ。原点には、自分がアフリカ系女性として生まれ育ったことがあるという。

「アメリカでこの半世紀を生きてきた経験から言うと、アメリカでまず見られるのは、肌の色。次に性別。最後に、あなたがどんな人であるか、という話になります。もちろん、やりたいことを成し遂げる前には、様々な壁があります。でも私の親は、自分が進みたい道に進みなさいと言ってくれた。何か壁があると知る前から、私は自分の道を阻むものは何もないと思っていました。そしてオリンピックの選手村での経験は、生涯記憶に残るすばらしいものでした。世界中から異なる背景を持つ人々が集まり、競争をして、そして仲良くなる。私も76年からいまだに連絡を取り合っている友達がいます。これからオリンピック、東京に行くすべての選手に、その喜びを伝えたいのです」

「帰れ。君はここには所属していない。帰るんだ!」

#NOCOMPETITIONでは、トップアスリートたちがSNSを通じて、それぞれの「望まない競争」についてメッセージを発信している。デフランツさんにも、望まない競争はありましたか?と聞くと、大学でボートを始めた頃の話になった。

デフランツさんが、大学でボート部に入り、練習を始めてすぐの頃。男性が怒りながら近づいてきて言ったという。「帰れ。君はここには所属していない。帰るんだ!」。驚きながらもデフランツさんは、「どういう意味ですか? 私は帰りません」、そう答えた。

「中身はそれぞれ違っても、女性なら皆、同じような経験をしていますよね。その男性は黒人女性がそこにいるのが嫌だったのでしょう。でもそれから30年後、たまたま何かの会で同席した彼は、私のところにやってきて謝りました。言ったほうにも嫌な気持ちが残っている。両方の立場に立って考えることは大切です」

「美は #競争ではない」のか? 元女子五輪ボート選手(IOC委員)デフランツさん

「日本の女性の皆さん、あなたはとても美しく、そして強い。自分を信じて、自分を押しとどめるものをすべて頭の中から消してください。そしてゲームを楽しんで!」と、デフランツさん

それにしても、大胆だと思う。SK-Ⅱは、美肌を追求するスキンケアブランドなのに、なぜ「美は #競争ではない」のか? デフランツさんも、「最初はわからなくて紙に書いてみて、それをもう一度読んだら意味がよくわかりました。世界に贈るすばらしいギフトだと思います」と笑う。  

SK-ⅡワールドワイドCEOのサンディープ・セスさんは言う。
「私たちとしては、それほど大胆とは思っていません。美の競争は、毒を持つことがあります。ビューティーブランドの責任として、ポジティブなものを発信していきたい。世界中の女性たちにスキンケアの習慣について聞いていくうち、彼女たちの美に対する意識が、どれほど社会の影響を受けているか、単なるスキンケアを超え、“完全な女性”にならなくてはと、どれほどプレッシャーを受けているかということに気づいたのです。#NOCOMPETITIONが、そういう押しつけられた美のステレオタイプから脱して自分のストーリーを語ること、会話のきっかけになれば」

それぞれの「望まない競争」

聞いてみると、SK-Ⅱブランドのチームメンバーたち自身も、確かにみなそれぞれ「望まない競争」の経験を持っていた。
韓国出身で、ルーマニア、南アフリカでも暮らした経験を持つSK-Ⅱアジアディレクターのチャン・ヨージンさんは、
「特に韓国は美に対する執着が強い国。高校生の時からいろいろな人に、“修正”すれば“正しい”顔になると言われるうちに、私もあごの線を直して“よく”しようと思ったこともありました。いまはまったくそんなことは考えませんが、その経験が私を強くしましたし、そういう個人的な話を語っていくことが、他の人に力を与えることも知ったのです」と話す。

「美は #競争ではない」のか? 元女子五輪ボート選手(IOC委員)デフランツさん

チャン・ヨージンさんは、米国で開かれた「ザ・メーカーズ・カンファレンス」でキャンペーンの開始を発表。「女性がかかえる悩みは、地域や人種を問わず共有できることを強く感じました」

今回のキャンペーン設計を担当したSK-Ⅱグローバルブランドディレクター、デルフィーヌ・バティンさんは、10代の頃、新体操をしていたときのことを思い出したという。
「背が高くて体が細くてといった、いわゆるステレオタイプな一定の外見に合わせなくてはならず、私はその基準に当てはまっていませんでした。競技は大好きでしたが、試合では、ものすごく競い合うような視線でお互いの容姿を見るのがとても苦しかった。それが望まない競争だったということを、このキャンペーンに加わるまでは、考えてみたこともありませんでした」

SK-Ⅱ北米ブランド&ビジネスリーダーのケイシー・メイ・オライリーさんは、フィリピンで育った自分が幼い頃からさらされてきた「競争」を思い出した。
「私の場合は、美しさの競争ではありませんでしたが、周りの人からいつも、とにかく成功しなくてはいけない、いい大学に行って、いい仕事について……と言われ続け、知らず知らずのうちに巻き込まれ、壁を乗り越え続けていく、いつもそういう競争のプレッシャーのもとにありました」

&w編集部内でも、「望まない競争」について話をしてみると、「仕事と外見」にまつわることだけでも、いろいろな話が上がった。はるか昔、最初に就職した会社の最終面接の時、重役に容姿をほめられたときの違和感、女性社員の制服姿をあれこれと比較されたときの不快感、仕事で相手にされないことを怖れてピンク色の服を着ないようにしていたこと、必要以上に年齢を気にしてしまうこと……。

セスさんは言う。
「日本では、こうするべき、ああするべきというような社会的規範が強く、特に日本の女性は結婚や年齢、容姿など、不要なプレッシャーを常に強く受けています。そしてその不要なプレッシャーは、世界中の女性が共通して抱えているものでもあります。私たちは世界中の女性たちに向けて、ロールモデルとなるような人の言葉、自分で自分のために選択ができるような声を届けたいと思っています」

確かにすべての女性たちが、様々な“望まない競争”を経験して、いまここにいる。 #NOCOMPETITION 美は #競争ではない。その言葉から呼び起こされる記憶を一人ひとりが言葉にしたとき、そこから新たな力が生まれていくのかもしれない。

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