ほんやのほん

占いにのめり込む女たち 100年前も、お悩みは変わらない

占いにのめり込む女たち 100年前も、お悩みは変わらない

撮影/馬場磨貴

『占』

木内昇さんの『占』(うら)の舞台は大正時代。それぞれの事情で占いや霊的なあれこれにのめりこんでいく女たちの7編が収録されており、どれも面白かった。

第1話の主人公は、優秀な女性翻訳家だ。時代の最先端の職業に就いた彼女が、ひょんなことから大工の弟子と男女の仲になる。ところが彼にはほかに想い人がいた。年上の彼女がやきもちなど焼いたら大人げなく、かといって平気だなんてとうてい思えない。

若い男は翻訳家の前で、その女との思い出がいかに大切か、会ったら何をしてやりたいかをせつせつと語る。一方、彼が翻訳家のたどってきた道や、未来をどうしたいかを聞くことはない。これが男の無邪気な甘えなのか、関係をひっぱる狡猾(こうかつ)な手口なのか、読んでいてわからないのが悩ましい。読者でこうなんだから、主人公はいてもたってもいられない。そんなある日、彼女は占いの館を見つける。

出てきた初老の女に悩みを言い当てられて驚き、聞きたかった一言をもらって心が軽くなったが、そのあと男とこじれた。再び同じ占師を訪ねると、返ってきたのは望んだ言葉ではなかった。こうして翻訳家の「占師のはしご」が始まる。

痛ましいのは、主人公がなにも信じられなくなっていくことだ。いい結果は話がうますぎないかと疑い、悪いお告げには気持ちが暗くなる。そして、いろんな占い師がいろんな方法で告げたいろんな助言には、共通するものがあった。それは……。

このお話は「そうなりますかー」と歯がゆいような、くやしいような、放心してしまう終わり方をする。ただ作者・木内昇さん自身、翻訳家を放っておけないと思ったのか、第2話には「千里眼」と評判を取るが、客である女たちにあきれたりうんざりしたりの19歳の娘がでてくる。

第1話を心の中で振り返りながら読むと、若い子ならではのズバズバした分析に気分爽快。さらに第3話には、翻訳家の亡き関係者に一目ぼれし、この男性と話がしたいと「いたこ」的人物に会いにいくお嬢さんが登場。お話の中で翻訳家に意外な見守り人がいることがわかり、ほっとする人も多いだろう。

「大正って、平成、昭和のその前?! 古いわね」と思うかもしれないが、令和になった、新時代だと騒いでいる今と、本書に登場する女たちのお悩み、置かれている状況、男中心の世の中でうまくやっていくことの困難は、ぜんぜん変わっていない、と心に刺さった。

木内さん独特のユーモアもあり、深い読み味と軽快さを同時にお約束する大傑作!

(文・間室道子)


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