私のファミリーレシピ

2人の相違を“違い”だとは思わない

「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。前回「朝食のバナナブレッドを、ヴィーガンで」に続く、ジェシー&ジョイ夫妻のお話です。(文と写真:仁平綾)

    ◇

ジェシー&ジョイ夫妻のヴィーガンバナナブレッドが、焼き上がった。

まだほんのり温かなうちに、厚切りにして皿に乗せ、バターをふんだんにトッピングして食べる。ちなみにバターは植物由来のヴィーガンバター。「高級マーガリンみたいなもの」と2人。バナナブレッドはもちろん、人生初のヴィーガンバターにも興味津津。

2人の相違を“違い”だとは思わない

刻んだクルミ、砂糖、ヴィーガンバターを混ぜたものをトッピングし、オーブンでさらに10分焼く。竹串を刺して、生地が付いてこなければ焼き上がっている証拠

バナナブレッドをひと口食べると、濃厚なバナナの香りがふわんと漂った。しっとり、ふかふかのテクスチャーを、かりっと香ばしい外側の食感が賑やかす。溶けだしたバターの油分とコクが加わって、ヴィーガンであることを忘れてしまうほど。(卵やバターを使わずに、おいしいバナナブレッドなんてできるわけない)。そんな風に懐疑的だった自分を猛省。新しい味はいつだって、思い込みの向こう側で生まれるのだ。

2人の相違を“違い”だとは思わない

10分ほど置いて粗熱をとったら、厚切りにして温かいうちに食べる。ヴィーガンバターやヴィーガンクリームチーズを乗せて食べるのが2人流

3人でバナナブレッドを頰張りながら、家族の話で盛り上がる。

ジェシーの祖母ジーンさんは1919年にミシガン州で生まれ、第2次世界大戦から帰還した祖父アレンさんと結婚。カリフォルニアへ移り住んだ。秘書の仕事に就き、タイプライターを巧みに操っていたというジーンさんは、「ファンキーでエネルギッシュ、威勢の良い女性だった」という。

ちなみにジーンさんは、ジェシーのヴィーガンに対し理解は示していたものの、ジェシーお手製のヴィーガン料理はお気に召さなかったようだ。ある時、卵を豆腐で代用した“スクランブル豆腐”を食卓に出したジェシー。晩年、視力が低下したジーンさんに「卵だよ」と噓(うそ)をついたら、ジーンさん、黙ってはいなかった。

「『こんなの卵じゃないよ! 変な豆腐料理を私に寄こさないで!』ってね(笑)」

2人の相違を“違い”だとは思わない

ジェシーのパソコンに保存されている、祖母ジーンさんの写真。古い写真をスキャンしたもので、1960年代当時の雰囲気が伝わってくる

一方のジョイさんは、フィリピン生まれ。「当時フィリピンはとても貧しい国。海外で仕事を得ることができれば、良い暮らしができるし、フィリピンに残る家族に仕送りをすることもできた」と言い、エンジニアだった父親がアフリカのナイジェリアで職を得たのを機に一家で移住。3歳までナイジェリアで過ごした後、アメリカのシアトルへ移り住んだ。

ジョイが慣れ親しんだ味は、母のメリーさんが作るフィリピン料理。中でも一番思い出深い家庭の味は、「セネガンと呼ばれる魚のスープ」だという。フィリピン料理は甘みと酸味を効かせた料理が多く、肉や魚を必ず使う。「ベジタリアン向けの料理はほぼナシ。だからジェシーは食べられない(笑)」。そんなわけで、2人の食卓にフィリピン料理が並ぶことはほぼないらしい。

2人の相違を“違い”だとは思わない

大学でアジアの歴史を専攻し、江戸時代以降の日本文化に興味を持ったというジェシー。日本語を学ぶため日本で暮らした経験アリ。日本語も少し話せます

そもそもヴィーガンとペスカタリアンでは、食べるものが違う。「2人はどんな食生活を送っているの?」という私の問いに、「例えば朝ごはんにアボカドトーストを作れば、ジョイはそこに卵を乗せる。パスタを作れば、ジョイはチーズをかけるといった具合だね」とジェシー。基本はヴィーガン。トッピングやサイドメニューで折り合いをつけているという。

生まれ育った環境も、食の嗜好(しこう)も違う2人。でも「それを“違い”だとは思わないかな。“OK、それがあなたのやり方だよね”。ただそれだけ」とジョイ。

だからケンカもしない。「仕事は大事だけれど、人生のすべてではないとか、家族は大切だけれど、個々は自立していたいとか。常にクリエーティブであること、好奇心をもって学ぶことをやめないこと。2人がそういう同じモチベーションで生きているのも大きいと思う」

2人の相違を“違い”だとは思わない

読書が好きな2人。日本人作家にも詳しい。ジョイの好きな作家は、吉本ばなな。ジェシーの最近のお気に入りは、河野多惠子

ジョイは現在、妊娠中。2月末には赤ちゃんが生まれる。「子どもが生まれて子育てが始まると、もしかしたらぶつかることがあるかもしれない」と2人。「でも何が起こるかわからないのが人生。常にパーフェクトなんてあり得ない」とジョイ。

「とにかく人生を楽しむこと、そのためにできることをすればいい。うまく行かなければ別の方法を試すまで!」

その言葉は、朗らかで強い。これから先、バナナブレッドを食べるたびにその言葉を思い出し、嚙(か)みしめるだろう。芳醇(ほうじゅん)なバナナの香りと共に。

2人の相違を“違い”だとは思わない

ジェシーが制作したステッカー。中指を立てるファンキーなおばあちゃんは、もちろん祖母のジーンさん。NYの街中に貼ってあるため、見かけることがあるかも?

2人の相違を“違い”だとは思わない

大小の鍋が、棚からぶら下がるキッチン。お酒が好きな2人だけあって、ウイスキーなどのボトルがずらり並んでいる

ジェシー・ワイルズさんのウェブサイト https://www.jessewhiles.com/

■ヴィーガンバナナブレッド(約12㎝×23㎝の型1台分)

・材料
小麦粉 1 3/4カップ
ベーキングパウダー 小さじ1 1/4
ベーキングソーダ 小さじ1/2
塩 小さじ3/4
砂糖(ブラウンシュガーを半量混ぜると良い) 2/3カップ
キャノーラオイル(またはココナツオイル) 1/3カップ
ヴィーガンミルク(豆乳クリ―マーを使用) 大さじ2
熟れたバナナ 1カップ分(3本以上)
シナモン(パウダー) 小さじ1
カルダモン(パウダー) 適量
クルミ 1/4カップ

・作り方

1 ふるった小麦粉と、ベーキングパウダー、ベーキングソーダ、塩を合わせておく。
2 ボウルに砂糖とオイルを入れて混ぜ、ヴィーガンミルクを加え、なめらかになるまで混ぜる。
3 2のボウルに1 の粉類、つぶしたバナナを加えて混ぜる。混ぜ過ぎに注意。シナモンとカルダモン、刻んだクルミも加える。
4 生地を型に流し入れ、約180度のオーブンで50~55分焼く。
5 刻んだクルミ、砂糖、ヴィーガンバター(いずれも分量外・適量)を加え混ぜたものを、バナナブレッドの上に乗せる。さらに10分焼いたら完成。

(おわり。次回は4月公開予定)

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  • PROFILE

    仁平綾

    編集者・ライター
    ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
    http://www.bestofbrooklynbook.com

    朝食のバナナブレッドを、ヴィーガンで

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