パリの外国ごはん

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回はフランスにいながらにして、昭和の懐かしさを感じる中華料理店を訪れます。黒々と大きな「獅子頭」。そのお味は?

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ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

この連載でも書いたことがあるが、アジア系の料理を食べに行くと、度々私は、体に支障を来す。いつしか保存料や着色料などに体が敏感になった。スープストックも自分たちでとり、ほとんどが手作りだとわかる店でも、頭痛や眠気、急激な脱力感に襲われて、既製品のしょうゆやソースなどの調味料に含まれているなにかしらの要素に反応しているのだな、と感じることが少なくない。味は好きなのに、そんなわけで、特に中華料理を食べに行くのには、構えるようになってしまった。

おかげで、逆に、ここは大丈夫そうだ!という店を察知するアンテナも敏感になったように思う。

パヴィヨン・オ・ピヴォワーヌ(Pavillon aux Pivoines=牡丹〈ぼたん〉の館)という、ベルヴィル(Belleville)の中華街からはちょっと外れたところにある家族経営らしい店を何かの記事で見て、ここはいいかもしれない!と手帳に名前を控えておいた。インスタグラムを見てみると、3人姉妹が店を手伝っているようだ。万央里ちゃんに「ここどうかな?」と送ると、「明子ちゃんの体が傾かなそう!」と返事が来た。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

中華街では見ることのない、間口の広い店構え

最寄り駅のクロンヌ(Couronnes)は、初めて降りる駅だった。そして、なだらかな坂道を上っていくと、左手に、店が見えた。間口がかなり広い。店に入ると、小さな橋がかかっていて、インテリアの趣になじみを覚えた。

「なんだか、子供の頃に行ってたような懐かしさがあるね」と先に着いていた万央里ちゃんに言うと、「ね、昔ってこうだったよね」と彼女も同じように感じていたようだ。テーブルの間隔はゆったり取られていて、テーブル自体も大きめだ。それに、椅子もしっかりしている。店はとても広く、テーブルが置かれていない空間もあった。

私たちは、奥のバーカウンターの前にある席に座った。窓際、壁際のテーブルにお客さんがいたが、話し声はほとんど聞こえてこない。距離があるのもそうだし、店内全体が落ち着いた雰囲気で、声が吸い込まれていくような感じさえした。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

店内も広々。装飾の多さに懐かしさを感じた

店のお母さんらしき女性は、着ている服が内装にぴったりで、そしてやっぱり、中華街にある店では見かけることがないような、動きが静かで控えめな雰囲気だ。

メニューをもらうと、3枚あった。料理が書かれたものと、ドリンク、そしてひと回り小さい紙は、用語集とある。料理の値段は一律らしい。前菜は5ユーロ、メインは12ユーロ。それぞれ7種ずつで、前菜はそのうち三つがスープだ。

用語集に、goutieという言葉があった。他の料理や素材はフランス語名が書かれているのだが、tofuとこれだけフランス語ではない。goutieは焼き餃子のことと説明にあるから、中国語の「焼き餃子」の発音をアルファベットで表記したものと思われた。goutieという言葉自体の意味をフランス語に訳すと、鍋にくっつく、という意味で、フライパンに餃子がくっついたら焼き上がりを指すことからの名前だそうだ。漢字だとどんな字があてがわれているのだろう。

前菜は2人で餃子をシェアすることにして、万央里ちゃんはメインにスモークした豆腐のヴィーガンプレートを取ると言った。私は、“煮込んでから揚げた”と書かれている鴨(かも)もも肉の五香粉風味と散々迷った末、ネーミングに惹(ひ)かれて、「ライオンの頭」とフランス語では記されている、漢字にしたらおそらく「獅子頭」となるのであろう料理を頼むことにした。豚ひき肉と生姜、シログワイ(白慈姑〈しろぐわい〉。英語でwater chestnutと言うらしい)の肉団子と説明されている。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

メニュー3種。GLOSSAIREは用語集

メインは付け合わせを選ぶようになっており、選択肢は白米、チャーハン、焼きそば、黒米のもち米、の4種。私は、例によって、焼きそば、とみるとどうしても食べたくなるので焼きそばを、万央里ちゃんは黒米のもち米をチョイスした。

ところが、万央里ちゃんが興味津々だったスモーク豆腐がないことが判明。代わりに、鶏胸肉のカレー風味をオーダーした。内装からすっかり昭和気分になっていた私たちは、中華料理店で食べるカレーの味を思い出して、この店のものも気になるね、と話していたのだ。

カウンターの中には、たまに若い女性が出てきて何か仕事をしている。そして、調理服に身を包んだ男性が奥から料理を運んできて、カウンター内の台に置いていくこともあった。厨房(ちゅうぼう)は店内からは見えない場所にあるようだ。

出てきた餃子は、なんと手作り感に満ちた表情をしていることか。皮は、思っていたほどに厚くはなく、軽やかにモチっとして、ぷっくら柔らかい。具も、空気を含めて包んでいる優しい餃子だった。焼き目の香ばしさも手伝って、食べやすくて、スルスルっとあっという間になくなった。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

ぷっくらとかわいらしい焼き餃子

続々と出ていく他のテーブルへのメイン料理の皿は、直径が30センチくらいありそうな大きなもので、そしてどれもボリューム満点だ。付け合わせが4種類から選べることで、どの皿も違う料理が盛られているように見えた。

期待を胸に待っていた私たちの元へも、メインが運ばれてきた。ワンプレート盛りって、ベトナム料理店では食べたことがあるけれど、中華料理では初体験かもしれない。お子様ランチとか、ミックスフライセットとか、ひと皿にいくつかの要素を盛りあわせた皿は、子供の頃から大好きだ。

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付け合わせを選べることで、セミオーダー気分のワンプレートごはん

黒々とした大きな肉団子がゴロゴロと並ぶ隣に、気前よく盛られた焼きそばは細麺で、ズッキーニ、セロリ、ねぎ、もやし、ニンジン、卵が満遍なく絡まっている。色からして肉団子の方が味が濃そうに思えたので、まず焼きそばからひと口。細いのだけれど一本一本がくっきり分かれて、麺の食感を楽しむことができた。チャーハンならば、お米が一粒ずつパラパラに、と表現するその仕上がりが、麺で実現されている感じだ。

「これって、乾麺を最初に蒸してるのかな? ゆでてはないよねぇ」と言うと「うん。蒸してるんだと思うよ」と万央里ちゃんも同意した。だとしても、こんなに細い麺がそれぞれ独立して仕上がるのは、そのあとの焼きのテクニックがあるからなのだろうなぁ。あぁ、こんな風に自分でも作れたらいいのに、と半ばため息をつきながら、味わった。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

ボリューム満点。でも、味は優しい。野菜もふんだん

付け合わせではなく、しっかり主役に思える焼きそばをしばし堪能してから肉団子にフォークを差し込むと、断面からは、すごく練られたような印象を受けた。食べてみると、軽い。

こんなにふわっと仕上がるってどうすれば……と考えて、中華だったら水を加えて練っているのかもしれない、と思った。どこにも硬さがなかった。色が黒いからゴツゴツしていそうだけれど、実は柔らかな肉団子で、しょうゆベースの味はしっかりとして生姜(しょうが)も利いているものの、濃厚ではない。これも、家で作りたい味だ。この日は焼きそばにしたけれど、ごはんにとても合いそうだ。チャーハンでもいい。この店はチャーハンもおいしいに違いない。

二つの主役の向こうに控えたサラダは、細長く千切りされたニンジン、レタス、ルッコラ、ラディッシュ、紫タマネギに紫キャベツ、アルファルファにゴマが散らされ、一般的な中華料理店でみるサラダとは、一線を画した繊細さだ。ごま油ベースのドレッシングにはレモンがたっぷりでそれもまた新鮮だった。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

マンゴーの向こうに見えるクリームの下には、クランブルが敷かれていた

こんなワンプレート中華があるなんて、もっと早くに知りたかった。大満足で、デザートまで頼むと、よく熟れたマンゴーにシャーベット、生姜とチョコ入りのケーキがオレンジを伴って登場した。ジャスミン茶になんども湯をつぎ足してもらい、手作りの味を最後まで楽しんだ。

ずっとサービスをしてくれていたのはやはりお母さんで、厨房で腕をふるっているのはお父さん、とお嬢さんが教えてくれた。この場所ですでに30年ほど店をやっているが、今のようなメニューにしてからは1年半ほどだそうだ。この店に行くには、私は地下鉄で3回乗り換えないといけないのだけれど、それでも今度は、チャーハンを付け合わせにして別の料理を食べに行きたいなぁと思っている。

ふわっと柔らか「獅子頭」の味。中華料理を食べて昭和に浸る/Pavillon aux Pivoines

テーブルの間隔が十分に取られているので、落ち着いて食事ができる

Pavillon aux Pivoines
21 Rue des Couronnes, 75020 Paris

*連載お休みのおしらせ
新型コロナウイルスの影響が広がり、取材が困難な状況になってしまったため、「パリの外国ごはん」はしばらく休みます。

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    PROFILE

    • 川村明子

      東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
      noteで定期講読マガジン「パリへの扉」始めました!

    • 室田万央里

      無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
      17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
      モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
      イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
      野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
      Instagram @maorimurota

    《パリの外国ごはん。ふたたび。》「昔、土曜のお昼にお母さんが作ってくれた」ベトナム焼きそばの秘密 /Fraternité

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