このパンがすごい!

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

開店してほどなく「涼太郎」を訪れたとき。看板は手書き、がらんとした店に置かれているのは、古い机。それらを指さして「これはもらいもの、これは2千円」と渡邉涼太郎シェフは笑いながら教えてくれた。丸刈り頭に、人を溶かしてしまうような、あたたかい笑顔がトレードマーク。

「宣伝もなにもしてないから、お客さんが来なくて(笑)。今度来るときが、取材のタイミングだと思いますよ」

あれから2年、充実の時を迎えている。狭い店内には行列ができ、身動きができないほど。パンはブラッシュアップされ、新アイテムも増えた。たったひとりで50種類も作る。「製パン講習会に出たり、食事に行ったりするたびに、インスピレーションが頭の中を駆け巡って、作りたくてたまらなくて(笑)」

勉強家の涼太郎シェフ。最新の技術を取り入れて自分のパンへ昇華させている。キーワードは、高加水、熟成、小麦。

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

クロワッサンアンティーク

クロワッサンアンティークは「名古屋中食べ歩いて、他の店でやっていないようなものを作りました」。一層が分厚く、層と層の間に空間ができるほど浮いている。超絶ばりばり感。薄いラング・ド・シャを重ねたような、焼き菓子的な食感、甘さ。濃密で、かつやさしいバターの風味が不思議だった。どうして柑橘(かんきつ)のようにフローラルに香るのだろう。

「バゲットにバターをすーっと塗って食べてるような。いちばん最初にクロワッサンを作った人の『試作品』をイメージしています」

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

内外のさまざまな小麦を使いこなす

小麦の風味を引き出すため、じゅうぶんに熟成させたバゲット生地に少しの砂糖とオリーブオイルを加えたものを、当日の朝に折り込む(通常は前日か数日前に折り込んで冷凍庫で寝かせる)。

「折り込んでから時間が経つと、バターが生地にしみこんでやわらかくなるんです(ばりばり感が出ない)。朝一でやると仕事量が増えちゃうんですけど(笑)」

オリーブオイルのオレイン酸のおかげでバターは酸化しにくい。濃厚でありながらしつこくなく、柑橘の香りがするのはオリーブオイルのおかげだった。

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

食パン

「なんだこれは?」という衝撃作なのは「食パン」も同様。パウンドケーキのような濃い甘さと、長い熟成を示すショウガのようなさわやかな香りが両立。少しかりかりとして甘くにじむ耳に陶然となる。中身はさらに衝撃的で、ぷるぷるかつエアリー。気泡の網目が心地よく舌に触れるや、ちゅわーんと溶けて、ミルキーな小麦の溶け味を感じ、さらにでんぷん質の香りと、麦のうまみがあふれだす。

食パン、クロワッサンに使用される、涼太郎シェフの秘密兵器が、地元・愛知県西尾市のみやもと麹(こうじ)店の麦麹。麹が小麦デンプンを糖に分解する並外れた力を期待してのこと。

「砂糖でいうと、人間は5%で甘さを感じはじめ、8%でおいしいと思うといわれます。僕は砂糖は少なめに5%ぐらいにして、残りの3%分を麹の力でもっていきたい。(麹で作る)しょうゆやみそって、海外に行くと食べたくなりますよね。麹は、日本人のDNAが欲する甘みにしてくれる」

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

じゃがぱん

食パンの生地にジャガイモを合わせて作る「じゃがぱん」。衝撃的ふにゃふにゃ感だ。まるではんぺんのようなやわらかさ、みずみずしさ。口に入ると一気におかゆになり、さつまいものような輝かしい甘さを発する。

涼太郎シェフはもともと、ジャガイモのパンには思い入れがあった。あるパン屋さんのジャガイモパンに魅せられ、何度も通い詰める一方、3年間ずっと試作しつづけたという。そんなとき、「渥美半島にある吉田園さんが、すごくおいしいジャガイモを送ってくれた。これをどうにかしてパンにしたいと思って。愛知県は農家さんがすごくて、無農薬などで作っている人も多いんです」

涼太郎シェフはフットワークが軽い。気になる人がいればすぐに会いにいく。生産者と消費者、あるいはレストランなど他の業種をつなぐ橋渡しをしたい、というのが「涼太郎」をオープンした理由のひとつだ。

「パン屋として、お客さんが笑顔になるお手伝いをしたい」

なにせ厨房(ちゅうぼう)と売り場を分けている境は机だけ。あの笑顔で迎えてもらい、人柄そのままのパンを食べれば、思わず笑いが漏れることはまちがいない。

DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

渡邉涼太郎シェフ

涼太郎
名古屋市瑞穂区彌富町字茨山21-1
10:00~18:00(売り切れ次第終了)
月・火休(不定休あり)

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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