花のない花屋

「母のように生きていきたい」 就活で語った娘へ

〈依頼人プロフィール〉
安井ゆかりさん 55歳 女性
新潟県在住
会社員

     ◇

親元を離れて関西の大学に進学した一人娘が、今年の春から社会人になります。無事に就職活動を乗り越え、ありがたいことにいくつか内定をいただいた末、人とのつながりを大事にしたいと営業職につくことになりました。

就職活動は誰にとっても大変かとは思いますが、娘の場合は特につらかったことだろうと思います。というのも、娘が大学生のとき、私は離婚に向けて動いていたのです。

最初からすべてを娘に逐一報告していた私は、ときおり娘に愚痴ってしまうこともありました。どうしてそんなことをしたのかと悔やまれますが、大事な時期に娘も精神的に落ち込んでしまい、そのうち私に対しても反発してくるようになりました。今思えば、彼女も追い詰められ、私以外にはけ口がなかったのでしょう。

本来なら私が娘の就活の相談にのってあげるべきだったのに、私は離婚へのことで頭がいっぱい。心身ともに疲弊して体調も崩してしまいました。仲の良かった娘との関係も悪くなり、もう修復はできないかもしれない……と落ち込み、車を運転しながら、「対向車がこっちに突っ込んでくれたらいいのに」と思うときもありました。

ところが離婚すると、娘の心境も変わってきたようでした。就職先が決まるとすっかり落ち着きを取り戻し、2人で会うこともできるように。そして、ようやく就活の話をゆっくり聞かせてもらったとき、私は号泣してしまいました。

就活の面接で「尊敬する人は?」と聞かれるたび、娘は「母です」と答えていたと言うのです。理由を問われると、女性として母のように生きていきたいという思いを語ったそうです。

それまで私はずっと自責の念に駆られていました。母親である私はどれだけ娘をフォローしてあげられただろうか。この選択は娘にとっていいものだったのだろうか。偽りの家庭であっても、離婚はせずにそのままやっていくこともできたのではないか……いろいろな思いが渦巻き、自分に自信が持てませんでした。

そんな中で聞いた娘の言葉です。「ウソでしょ?! そんなことを言ったの」と思わず叫びながら、涙があふれてきました。母親にとってそれ以上の言葉はありません。つらかったことが、娘の一言ですべて吹っ飛んでいきました。

そんな娘へ、今までありがとう、これからも新しい世界で頑張って!という気持ちを込めて応援の花束を作っていただけないでしょうか。明るい色の花で、力強くこれから花開くイメージのアレンジをお願いいたします。

「母のように生きていきたい」 就活で語った娘へ

花束を作った東さんのコメント

社会人として新たな一歩を踏み出す娘さんへ、春の芽吹きをイメージしてまとめました。

使用したのは、スイセン、スイートピー、バラ、ラナンキュラス、ヒペリカム、カーネーションなど。ピンクとイエローで春らんまんという雰囲気です。

見えにくいかもしれませんが、フリージアのつぼみもあちこちに隠れているので、咲き始めるとさらにいい香りが広がるはず。ところどころに入っている風船のような丸いグリーンの植物は、グリーンベル。この丸いつぼみの中からも白い花が咲きます。

そして「春の芽吹き」の花束に勢いをつけているのが、こぼれ落ちそうなミモザ。ボリュームたっぷりに入れたので、いっそう広がりが出たかと思います。

この花束が社会人となる娘さんの人生の節目に寄り添い、未来を明るく照らすものになりますように。

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(&編集部/写真・椎木俊介)

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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    「母のように生きていきたい」 就活で語った娘へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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