ほんやのほん

シャツ一枚でもおしゃれに見せる。服装迷子を救うプロの仕事

シャツ一枚でもおしゃれに見せる。服装迷子を救うプロの仕事

撮影/馬場磨貴 (撮影協力/RELIFE STUDIO FUTAKO)

『着せる女』

ネットで目に付く表紙を見つける。モノトーンの背広のイラストに、「着せる女」というタイトル。どこかで聞いたような……と思いながらも、“出来る男は服装が○割”的な着こなしノウハウ本かとチェックする。著者は『捨てる女』の内澤旬子さんであった。はて、スタイリストもされているのかと、発売を楽しみにマイリストに入れた。

装丁はとても素敵で、表紙折り返し部分に描いてあるメジャーのイラストがお気に入り。帯や本体カバーの色味は中身を読むと意味が分かる。読み始めると、“出来る男の着こなし術本”ではなかった。著者の周りにいる、スーツにあまり縁のない作家や編集者たちの介添えをし、その人と、用途にあった買い物を一緒にしていく内容だ。

内澤さんは、“立派な仕事をしているのに、服装では残念な男性たち”をスタイリッシュに変貌(へんぼう)させていく。某高級百貨店のスーツ・ソムリエなる方も文中に登場するのだが、やはりその人に合ったものを提案できるのがプロの仕事だなと思った。

オシャレな人は自分のサイズ感を分かっている

本書は『本の雑誌』に連載されたもので、短編に分かれている。巻頭はいきなり、迷える子羊たちのビフォー・アフター写真から始まる。モデルではないが、アフターのスーツ姿は皆さま格好よく、雑誌モデルのそれより説得力がある。「うんうん、これがこのジャケットか」という感じで分かりやすく楽しめるし、何度も前ページの写真を見ながら読んだ。

服装のキメすぎも苦手だが、無頓着すぎても困る。好みだけでなく、やはり体形にサイズがきちんと合っているか、そこが大切なようだ。オシャレな人は自分のサイズ感を分かっていると、聞いたことがある。先日、ワイシャツのオーダーイベントに携わる機会があったのだが、よく見ると体形にフィットしたシャツを着ている男性ってほとんどいないことに気づいた。シャツ一枚でおしゃれにみせるって、厚化粧してナチュラルメイクにみせるくらい大変なのだと思った。少し違うか……。

「ハンサムとお洒落(しゃれ)は違う」とも文中にあった(p.123)。なるほど、親の人脈と仕事のスキル、みたいなものだろうか。これも少し違うか……。勘違いしやすいけれど、両方あったとしたら最強なやつだ。仕事のスキルが高くても、清潔感に欠けると人間関係が築けない。

先日のイベントに来られたゲストのスタイリストさんは、企業の福利厚生で服装術のセミナーを行っているそうだ。いろんなサービス業があるのだなと改めて思う。それだけ需要があるということなのだろう。

「いいもの」を学ぶこと

最近はプロのスタイリストが同行してくれるサービスもあるという。プロに頼めなくても、買い方が分からない方にとって、内澤さんのように高級百貨店へ一緒に挑んでくれる存在はありがたい。この本は、具体的な着こなしが分かるものではないけれど、無頓着な男性、もしくはその近辺におられる方に気づきのきっかけを楽しく与えてくれる。

時折、服装のポリシーを版元のカラーに例えてみたり、着物を上製本の装丁に例えてみたりと出版業界ならではの内容も楽しめ、軽快な内澤マジックの文章がいちいちはまった。

内澤さんご自身の服装選びの悩みも書かれ、女性が読んでももちろん面白い。「服飾更年期」や「女性のスーツはPTAになりがち」など、同じ思いを感じた。私の職場は制服なので、正直いつまでこれを着て許されるものかと常に考える。

「いいもの」が分かる人と分からない人、というよりはそこに執着を持つか持たないかということだろう。「いいもの」はどうしても値がはるので難しい。

最近はファストファッションのあり方も見直されてきて、長く使える物を重視する傾向の波が再び来ている。環境学と服育はつながっていて、副教科に入れていくべき大切なことではないのかと思うこともある。「いいもの」に価値をつけていくことの意味を、服に限らず考えていく必要があることを改めて考えさせられた一冊であった。

(文・岩佐さかえ)


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    岩佐さかえ(いわさ・さかえ)

    女性向けフィットネスジムにて健康・美容相談を受けながら、様々なイベントやフェアを企画。自身がそうであったように、書籍を通して要望にお応えできたらと思い、蔦屋家電のBOOKコンシェルジュに。「心と体の健康=美」をモットーに勉強の日々。

    いつの間にか、小説の思惑通りに…… 未知の感覚を味わう一冊

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    「わかりあえない」人と働くために。“隔たり”をなくす方法は

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