このパンがすごい!

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

みどり豊かな里山の中に、「ここはドイツ?」という木造の建物。中に入ると、大型のパンが棚に並んでいる。この光景、まるで映画『魔女の宅急便』に出てくる「グーチョキパン店」ではないか。
(*トップ写真はカイザーゼンメル チーズサンド)

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

外観

奥に目を向けると、窓の向こうにテラスが見えていた。テラスから広がるのは、うつくしい里山の光景。目の前に雄大な山、眼下にニワトリ……ニワトリ!?
ちょっと不思議だが、とにかくパンを食べよう。私はリンゴとレーズン入りのパン「アプフェルブロートヒェン」に齧(かじ)りつく。

奈良漬けをもっとフルーティーにしたような甘い香りに引き込まれた。かさこそと気持ちよい感触とともに皮が割れ、中身はふさふさふにゅふにゅとした噛(か)み心地。小麦の香りは木のようなあたたかみをもっておだやかに。噛み進むと、麦の香りはもうひと伸びし、クリアなでんぷん質の風味となった。

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

アプフェルブロートヒェン

「アプフェルブロートは原点です」

とシェフである寺園紗也さんは言う。ドイツでパン屋を巡る旅をしたとき、最後の目的地であるリューベックでこのパンを食べて感動し、作り手である「ダス・フライバックハウス」で働きたいと、マイスターに手紙を書いた。そんな思い出のパンを、リンゴとレーズンから起こした発酵種で再現する。

紗也さんが目指すのは、修業先同様の「噛めば噛むほど麦が味わえるパン」。アプフェルブロートには八風農園が無農薬で栽培するディンケル小麦(小麦の原生種)を100%使用。あのかぐわしさは、パンにする直前に自家製粉するからこそだった。

白い粉で作る菓子パンだと私が思いこんでいた「ベルリーナ」(ジャムをはさんだ揚げパン)にも20%のディンケル小麦をブレンド。ほわほわふにふにとした生地から飛びだす、ラズベリーの甘酸っぱさは、そこに麦の香ばしさが付け加えられることで、より滋味深いものに変わるのだ。

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

ベルリーナ

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

ベルリーナ断面

実は八風農園は、紗也さんの夫である寺園風さんが営んでいる。テラスから見えていたあのニワトリも八風農園が飼育しているもの。かって八風農園の小麦畑を訪ねたことがあるのだが、とても心地いい気にあふれていた。あの畑でとれた麦を使っているのだから、パンがおいしいのもうなずける。

サンドイッチで使う野菜にも八風農園のものが使われている。ロースハムをはさんだ「メアコルンバウアルンサンド」には、この日、レタスと、紅菜苔(コウサイタイ)を。この紅菜苔、菜の花に似た、花芽を食べる野菜。茎の中からちゅるんと甘い汁が、ほのかな苦味と野花の香りとともに飛びだしてきた。

パンは八風農園のライ麦50%とディンケル小麦25%使用した「メアコルンブロート」。硬く見えてとても歯切れがいい。皮がぼりぼり、ヒマワリやカボチャの種はばりばり。ライ麦は甘く、やさしく、ゴマのような香ばしさがある。自家培養したサワー種からは、ほのかな酸味、梅干しに似たさわやかな香りがほとばしる。

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

メアコルンバウアルンサンド

「紅菜苔は、ニンニクと塩だけで味付けしています。野菜自体が甘いので、シンプルに。少し前まではカブを塩もみしてはさんでいました。もう少ししたら(風さんが)『キャベツならあるよ』というので、ザワークラウトにしようと思っています。以前は『サンドイッチには冬でもキュウリ』みたいに考えていましたが、いまはその季節にあるもので作ろうと思っています」

ここはどこ? かむほどに小麦の滋味深まる「アプフェルブロート」に「メアコルンブロート」/フライベッカーサヤ

店内風景

2年前まで、6年間名古屋でパン屋を営業した。2人目の出産を機に、家族いっしょに暮らしながらパン屋を営むことを選択。昨年暮れ、風さんの畑のあるいなべ市に新店をオープンさせた。自然の中で、夫の作る素材を使って、妻がパンを作る。最高の役割分担だと思う。
「なるべく近くのものを利用してパンを作りたいな。メアコルンブロートに使う材料も、いまはオーガニックのものをよそから買っていますが、ゴマ、カボチャ、ヒマワリ作りに挑戦してくれている。いつか100%八風農園のものを使うのが夢です」

フライベッカーサヤ
三重県いなべ市藤原町下野尻946−3
11:00~17:00
日~水休み
0594-37-5301
https://matsukazecompany.com/saya

>>店内やパンの写真をもっと見る ※写真をクリックすると、拡大表示されます

こんなお店もおすすめ

  • ここはパリ!? 店舗にパンに、あふれるフランス愛/ぱぴ・ぱん

    ここはパリ!? 店舗にパンに、あふれるフランス愛/ぱぴ・ぱん


    愛知県・名古屋市

  • 予約は1カ月待ち、神業シェフの口溶けとろとろ食パン/プーフレカンテ

    予約は1カ月待ち、神業シェフの口溶けとろとろ食パン/プーフレカンテ


    愛知県・名古屋市

  • 先駆者の志を受け継ぐ「石臼挽き」/バゲットラビット

    先駆者の志を受け継ぐ「石臼挽き」/バゲットラビット


    愛知県・名古屋市

  • 3時間かけて250個のぶどうの皮をむく……こだわりのフルーツサンド/円居

    3時間かけて250個のぶどうの皮をむく……こだわりのフルーツサンド/円居


    岐阜県・岐阜市

  • たったひとりでパン、ケーキ、焼き菓子、ジャムを見事なうつくしさで作る岐阜の鉄人/ワイ クニエダ

    たったひとりでパン、ケーキ、焼き菓子、ジャムを見事なうつくしさで作る岐阜の鉄人/ワイ クニエダ


    岐阜県・大垣市

  • >>まとめて食べたい!「このパンがすごい!」記事一覧

    >>地図で見る

    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

    DNAが欲しがる甘み。「あと3%」をくれる“秘密兵器”/涼太郎

    一覧へ戻る

    凝り性シェフの“問題作” 川のようにバター滴る「ジュワッサン」/なんすかぱんすか

    RECOMMENDおすすめの記事