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「わかりあえない」人と働くために。“隔たり”をなくす方法は

「わかりあえない」人と働くために。“隔たり”をなくす方法は

撮影/馬場磨貴

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』

100年前も100年後も、洋の東西を問わず、私たちにとって普遍的な事実をあえて言葉にしてみる。「私」は自分以外の「他者」とともに働く必要があること。そして「私」と「他者」は、しばしば互いをわかりあうのに苦労すること。

何を当たり前のことをという感じだが、私たちは日々この当たり前のことに悩んだり苦しんだりしている。「自分」と「他者」、「私」と「あなた」の間に存在する隔たりは、ときに手の打ちようのない距離に感じることもあるだろう。

今回ご紹介する『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』は、まさにその普遍的なテーマに、現代の時代背景を踏まえたうえで鋭く(それでいて優しく)切り込んだ一冊である。本質をすっとすくい上げたような「他者と働く」というシンプルなタイトルは、それこそ100年後の本屋に並んでいてもおかしくない潔さを感じる。

そして、「適応課題」だけが残った

本書で中心的に語られるのは「対話」の実践である。

前提として筆者は、世の中に存在する問題を二つに分類する。一つは、既存の方法で解決可能な「技術的問題」。のどが渇いたら水を飲めばいいというような、知識さえあれば解決できるような問題を指す。そしてもう一つが、既存の方法では解決できない「適応課題」と呼ばれるもの。

例えば、あなたの職場でもこういうことがないだろうか。あなたが会議で新サービスの導入を提案し、他部署の人から「それにはこんなリスクがある」と言われるとき。そのリスクは回避できると論理的に説明しても別の理由で否定されるときに、それは「適応課題」といえる。

否定する人は一見リスクの話をしているが、実は複雑で他者からは見えづらい固有の文脈があり、それが彼に否定をさせているのだ(そのサービスを導入すると彼の部署の作業が増えて面倒など)。つまり「適応課題」を解決するためには、「見えていないこと」「語られていないこと」にまなざしを向ける必要があり、知識だけでは解決に導くことが難しい。

わかりあえない「私」と「あなた」の間にある目に見えない溝に、いかに橋を架けるか(それを、対話を通して行うというのが本書の主題である)というのは、ナイーブな話のように聞こえるが、「適応課題」を解決する最重要アプローチの一つと言う。

そして目を背けてはいけないのは、知識が簡単に共有されるいまの時代、「技術的問題」は次々と気の利いた人が解決していて、残されたのは「適応課題」、つまり“都合のわるい問題”ばかりという事実なのだ。

「あなた」は「私」になりうる

「人の立場に立って考えなさい」と昔からよく言われるが、まさにそれが対話のスタート地点。対話は、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことだと筆者は言う。そのときに重要になってくるのが「ナラティヴ」という概念だ。ここでいうナラティヴは、立場・役割・専門性などから生まれる解釈の枠組みのこと。例えば、上司は部下を指導するもの、部下は上司に従順に従うものという暗黙の了解も、一つのナラティヴである。

知らず知らずのうちに、私たちは自分が置かれた環境で一般常識のような固有のナラティヴから物事を眺めている。だから、こちら側のナラティヴから相手を見ると、相手が間違って見えることがある。しかし、相手のナラティヴからこちら側を見ると、こちら側が間違って見えていることもある。それが「私」と「あなた」の間にある隔たり(=ナラティヴの溝)である。

この溝を認めて、そこに橋を架ける作業が対話である。自分のナラティヴを捨てるでもなく、相手のナラティヴを否定するでもなく、橋を架けるのだ。

SNSなどを眺めていると絶望的な気分になることがある。「私」が「あなた」になりうること、「あなた」は「私」になりうることへの想像力が、そこに一切感じられないときがある。

溝の向こう側に橋を架けることを諦めたら、こちら側とあちら側という分断が生まれる。「私」と「他者」は、違いに橋を橋を架けるような痛みを伴うかもしれない対話を、この先もできるだろうか。そんなことを考えていた時に本書のタイトルが目に止まった。ページを開いたら一気に読んでしまった。

テレワークなど「働き方の形式」が日々変化して、ニュースをにぎわしている。対して、人と人、組織と組織の関係性の中で働くことは、きっとこの先も当分変わらないだろう。

しかし、「他者との働き方」としてのワークスタイルという一見普遍的なテーマも、時代の変化に合わせてアップデートを迫られているのかもしれない。「適応課題」に挑むための対話の実践。「わかりあえない」から始めることは、絶望ではなく希望だと思う。本書は、その一歩目をやさしく照らす一冊である。

(文・中田達大)


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