猫が教える、人間のトリセツ

飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

人間を思うがままに操る、飼い猫たちの実例集「猫が教える、人間のトリセツ」。
月に1回、「猫と暮らすニューヨーク」の筆者、仁平綾さんと、イラストレーターのPeter Arkle(ピーター・アークル)さんでお届けします。

     ◇

猫の話が、お互いに止まらない。何時間でも猫の話ができそう……。猫好きさんと出合うと、そんなことが多々ある私。歌舞伎役者の中村橋吾(なかむら・はしご)さんと仕事で一緒になった時もそうでした。橋吾さんが以前飼っていたのは、ちゃちゃまるという名のオス猫。橋吾さんは、ちゃちゃまるから、とある大役を仰せつかっていたと言います。


歌舞伎役者の中村橋吾さんが猫を迎えたのは、山形の実家で両親と暮らしていた16歳の時のこと。

「母が大の猫好き。でも私はアレルギー持ち。子どもの頃アレルギーがひどく、飼い猫をお嫁に出したことがあったんです。16歳になり、私の体も強くなったので猫を再び迎えることにしました」

“ちゃちゃまる”と名づけたその猫は、馬のように走り回り、抱っこしてもすぐにもぞもぞ動いて逃げ出す、やんちゃなオス猫。「甘えん坊で、おなかを撫(な)でられるのが大好き。おなかを出し、喉(のど)を鳴らして猛烈に“撫でて”アピールをするんです」

18歳で単身上京、20歳で歌舞伎役者となり、毎日稽古に明け暮れていた橋吾さん。たまに実家に帰ると、必ずちゃちゃまるが玄関に迎えに出て、すぐにおなかをごろん。「ひたすら撫でてあげるのが、ちゃちゃまるの至福であり、私の癒やしでもありました」

飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

“んーーーーニャッ”という独特の鳴き声で甘える、ちゃちゃまる。橋吾さんが歌舞伎の稽古をしていると、指導者のようにじっと見つめてくることも

大事件が発生したのは、ちゃちゃまるが5歳の時。玄関の隙間から脱走し、1週間行方不明になってしまったそう。当時、橋吾さんは東京で一人暮らし。実家のご両親が、連日ちゃちゃまるの名前を呼びながら、実家の周辺を捜索したものの姿は見つからず……。ところが1週間後、ちゃちゃまるが自力で帰還。ぐったりとした姿で、左目には大けが。すぐに動物病院で大手術を受けることに。ちゃちゃまるは、以来隻眼の猫となったのでした。

飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

虫を捕まえては、橋吾さんの枕元に届けるのがちゃちゃまるの特技(というか嫌がらせ?)。「スズメを捕まえてきたこともあります」

両親が東京へ移住し、再び家族3人&ちゃちゃまるの暮らしがスタート。

朝は、橋吾さんの顔を優しく踏みつけ起こす。トイレをしたら鳴いて知らせ、すぐに掃除をさせる。「すぐにきれいにしないと、トイレの横にウンチをするんです」。歌舞伎の台本を広げれば、上に乗っかりっぱなし。テレビを見ようとすれば、テレビの前に陣取り邪魔をする。やりたい放題なちゃちゃまる様の、最大の趣味といえば“外遊び”。

橋吾さんが玄関を開けてあげると、玄関先の道路までこわごわ、匍匐(ほふく)前進のようにして移動。“だるまさんが転んだ”さながらに、途中何度も振り返り、ちゃんと人間が見張っているかチェック。そうやって人間をボディーガードにして楽しむ外遊びが、ちゃちゃまる様の日課だったとか。

ちなみに、他人の気配があったり、大きな音がしたりすると、一目散に自宅に逃げ帰るのが常。ある時、見張り役の橋吾さんがこっそり玄関ドアに姿を隠したところ、振り返ったちゃちゃまるはパニックに。「ダッシュで家の中に駆け込みました(笑)。怖いくせに外に行きたくて仕方ない。その矛盾した姿が、たまらなく愛(いと)しいんです」

飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

外遊びの時は、ちゃちゃまるに必ずリードをつけ、玄関のドアは全開にし、家族の誰かが見張るようにしていたそう

そんなちゃちゃまるとの日々が17年続いた、夏のある日。舞台での大けがのため、3カ月の入院を余儀なくされた橋吾さんが退院し、自宅に帰りついた時のことでした。

「玄関を開けると、いつも通りちゃちゃまるのお出迎えがありました。3カ月ぶりに会うちゃちゃまるは、かなり痩せた印象。でも“おなか撫でて”アピールを激しくするので、存分に撫でてあげました。少しして外出先から戻った母にその話をすると、母がびっくり。ちゃちゃまるは一週間食事をとらず、動ける状態ではなかったと言うのです」

お別れの日は、それから間もなくのこと。ちゃちゃまるは8月14日のお盆の日に、天国へと旅立ちました。享年17歳。

「今でも毎年お盆になると、ちゃちゃまるの写真の前に、大好物のちくわをお供えするのが我が家の習わしです。すると、“んーーーーニャッ”というちゃちゃまるの鳴き声が、聞こえてくる気がします」


飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

中村橋吾
歌舞伎俳優。屋号は「成駒屋」。一般家庭から歌舞伎の世界に入るため、国立劇場第 15 期歌舞伎俳優研修生となった後、中村橋之助(現・ 中村芝翫)に入門。歌舞伎座を中心に全国の劇場、海外公演にて活躍。振り付け、たて師としても活動。書籍『なりきり歌舞伎体操』(湯浅景元監修・ポプラ社)のモデルを務めるほか、「歌舞伎」や 「和」からの学びをテーマにした体験型ワークショップの講師として全国で活動。大手企業の社内研修をはじめ、学校での講演、様々な文化的イベントにも出演している。カリフォルニアプルーン初代ブランドアンバサダー。現在「なりきり歌舞伎体操」をSNSで拡散中。ハッシュタグは#歌舞伎体操チャレンジ
なりきり歌舞伎体操(前編) 
なりきり歌舞伎体操(後編)

飼い主はボディガード。byちゃちゃまる(飼い主・中村橋吾)

ブログ:中村橋吾の橋吾談  http://ameblo.jp/hashigo/
インスタグラム https://www.instagram.com/nakamurahashigo/
Twitter @ha_shigo

次回は、4月下旬の配信予定です。

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  • 『猫と暮らすニューヨーク』が本になりました!!

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    『ニューヨークの猫は、なぜしあわせなの?
    75匹の猫と飼い主のリアルな暮らし』

    仁平 綾 (著) 朝日新聞出版

    猫と暮らすニューヨーク』として連載していたものから、
    “猫の飼いかた”の部分に注目し、さまざまなアイデアや実践をセレクト、再編集した一冊。
    個性豊かで愛らしい、NYの猫たちの写真が満載で、猫好き必読の書。

    1760円(税込み)

    >>「猫と暮らすニューヨーク」まとめ読みはこちら

    PROFILE

    • 仁平綾

      編集者・ライター
      ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
      http://www.bestofbrooklynbook.com

    • Peter Arkle(イラスト)

      ピーター・アークル スコットランド出身、ニューヨーク在住のイラストレーター。The New Yorker、New York Magazine、The New York Times、Newsweek、Timeなど雑誌や書籍、広告で幅広く活躍。著書に『All Black Cats Are Not Alike』(http://allblackcats.com/)がある。

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