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百貨店の階段にアンモナイトが。街角の石から知る「東京」

百貨店の階段にアンモナイトが。街角の石から知る「東京」

撮影/馬場磨貴

『東京「街角」地質学』

百貨店の階段には、アンモナイトなど古代生物の化石が埋まっている。そんな情報を図鑑か何かで知ってから、親に連れられて行った日本橋の百貨店で、頑張って渦巻き模様を探した経験がある。発見したときは、小学生の自分と何億年も前に生きたアンモナイトの時代とがつながり、うっとりしたことを覚えている。『東京「街角」地質学』を読んで、あの静かな興奮を思い出した。

東京は実に石に囲まれた都市だ。建物に使われるだけでなく、銀座の石畳や、駅の柱。江戸城の石垣もそうだ。意識して観察してみると、様々な石があり、それぞれ美しいことに気が付くだろう。では、その石はどこでどのようにしてできたのだろうか。なぜこの建物のこの部分に、その石が使われているのだろうか。本書は石を通して、東京の異なった見方を教えてくれる。

例えば、石(特に、建物の材料としての石材)がどのように使われてきたかを観察すると、東京の歴史が見えてくる。

荒川河口の湿地帯である東京は、元来採石はできないので、どこからか石を運んでくるしかなかった。江戸城の石垣に使われたのは、真鶴(神奈川)や伊豆半島(静岡)から運んできたものである。

時代が進み、明治期の近代化では、欧米の石造建築にならって国産の石材の需要が高まり、国の威信を示すような規模の大きい建築に多く使われた。高度経済成長期には、流通手段も発達し、海外が原産の大理石が使用されるようになったそうだ。1990年ころからはアジア産の大理石が普及したという。

石の移り変わりは、日本の社会と経済の歴史を反映している。逆に、使われている石から建てられた年代を考察することもできる。

本書はまた、石がどうやってできたのか、素材としての歴史も解き明かす。

先にあげたアンモナイトの例でいえば、「ジュラマーブル」や「ゾルンホーフェン」などの石材のなかに多く見つけることができる。およそ1億7千万年前から1億5千万年前の海の底にたまった、イタリアやドイツの地層を切り出してきた石灰岩だそうだ。

つまり、人類が生まれるはるか昔、もしかすると日本列島がまだ形をなしていないころからの長い地球の歴史の中で生まれたあらゆる石たちが、世界中から集められ、今の東京で静かにたたずんでいる。それぞれの歴史を思うと、夜空に輝く何万光年も離れた星のように、美しくロマンチックではないだろうか。

(文・嵯峨山瑛)


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    二子玉川 蔦屋家電、建築・インテリアコンシェルジュ。
    大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
    大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
    卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。

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