鎌倉から、ものがたり。

古い邸宅街に生まれた、「公共」というオアシス カフェ&ショップ「SUMIYOSHIYA」

建長寺、円覚寺、浄智寺と、禅宗の名刹(めいさつ)が集まる北鎌倉。森閑とした雰囲気の中に、陽光あふれる海側とはまた違った、古都ならではの落ち着きが宿る。

鎌倉市山ノ内の「SUMIYOSHIYA」は、そんな邸宅街にあるカフェ&雑貨ショップだ。週末を中心に、週2日ほどの頻度で不定期に店を開いている。(編集部注:営業日は店のInstagramやお電話にてお問い合わせください)

立地は山際の路地に面した、広いお屋敷の一画。門柱が立派で、敷地に入ることを、一瞬ためらってしまうが、敷地内のゆるい坂を上がっていくと、そこで迎えてくれるのは、温かさに包まれた建物。テラスと中庭の開放的な雰囲気にも、ほっとする。

SUMIYOSHIYAは、鎌倉に暮らす村田一博さん(37)、佳奈さん(37)夫妻が2015年にオープンした、さまざまな機能を持つライフスタイルショップだ。機能のひとつは、1級建築士である一博さんの設計事務所「ATELIER SUMIYOSHI」のオフィス。もうひとつは、一博さんとともにチームを組む家具職人やガーデナーの仕事も含めた、建築空間のショールーム。そこに、地域内外の人たちを迎えるカフェ&雑貨店が加わる、というわけだ。

「北鎌倉駅から鶴岡八幡宮に抜ける観光ルートとは逆の方角にあって、営業形態も変則的。最初はお客さまから、『ここって何なの? 事務所? カフェ?』と、よく聞かれました」。一博さんが笑いながら話す。

彼が建築家を志したベースには、生まれ育った北鎌倉への愛着があった。

「北鎌倉は鎌倉駅前の中心地に比べると、格段にのどかな場所です。それでも、宅地開発が進むにつれて、昔ながらの雰囲気が壊れていくようになった。子どものころから、そのことを惜しんでいたんです。じゃあ、自分は何ができるか。そう考えたときに、好きな建築で取り組んでいければいいな、と」

大学の建築学科を卒業し、東京の建築事務所での勤務を経て、その思いはより強まった。

「東京での仕事は、もちろん面白かったのですが、忙しいサイクルの中で時間に追われて、通勤でもいっぱいいっぱい。そんな自分が、どうやって人に豊かさを提案できるんだ、と矛盾を感じていました。建築設計はどこで取り組んでも、基本的に忙しい仕事です。だったら、職住近接で地元に根ざすべきじゃないかと、タイミングを狙っていました」

東京から少しの距離を置いて眺めた鎌倉には、寺社があらわす深い歴史の上に、山、海の風景、ゆっくりした生活と、都内にはない魅力的なカルチャーがあった。ミレニアル世代の村田さんは、その資産を新しいスタイルで継承していきたいと願った。

「継承には『更新』が必要です。僕は料理も服も好き。日々の暮らしの中で、そういう身近な衣食住を大事にする空間をつくることを、建築家としてのスタンスにしています。それを形にするキーワードが、昔の建物を『公共』の場として更新していくことだと考えました」

「公共(パブリック)」は「ご近所、近隣(ネイバーフッド)」とともに、ゼロ年代から世界のまちづくりと建築シーンで重視されるようになった概念だ。環境に負荷をかけて、ピカピカの建物を新築し、独占的に所有するよりも、昔からある建物をリノベートして、そこを人々の交流の場にすることで、新しい価値を乗せていく。

敷地は祖父がかつて暮らしていた家。店の空間は、読書好きだった祖父が書庫として使っていた元・倉庫。長い間、使われないで、ボロボロになっていたが、祖父の思い出と、地元への愛着とともに、1年以上をかけて自らの手で改装した。

カフェは料理好きの一博さんが、飲み物やスナックなどメニューの開発を全面的に担当する。人気メニューのひとつ、「スミヨシホットドッグ」は、細長いパンにソーセージという、おなじみの形ではなく、ホットサンドという変化球。しかも、ソーセージが真ん中ではなく、ちょっと脇に寄って三角の切り口をつくっている。

「よく気づいていただけました。これ、この建物の屋根をイメージしているんです!」

歴史が重層する鎌倉は、敷居も高い。とりわけ、古い邸宅街はそうだ。その中にあって、SUMIYOSHIYAは、オアシスのような場所なのである。

→後編に続きます

SUMIYOSHIYA
神奈川県鎌倉市山ノ内819
電話番号:080-3394-4810

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    PROFILE

    • 清野由美

      ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

    • 猪俣博史(写真)

      1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

    生きている実感が湧いてくるサンドイッチとスープを食す ベーカリー&カフェ「kamakura 24sekki」

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