ほんやのほん

植物の本に癒やされる。いつもと変わらない自然の営み

植物の本に癒やされる。いつもと変わらない自然の営み

撮影/猪俣博史

世界がグレー一色に見えた3月でしたが、気が付けば家々の庭先や花屋にはカラフルなお花たち、そしてスーパーにも「春」や「新」のつく野菜たちが並んでいます。いつもと変わらない自然の営みに力をもらい、植物のありがたみを感じる今、植物を楽しむ本、そして植物の進化をたどる本をご紹介します。

『みんなの園芸店 春夏秋冬を楽しむ庭づくり』

1冊目は、造園家でイラストレーターでもある大野八生さんの『みんなの園芸店』です。園芸の入門書と紹介されているように、土の選び方や剪定(せんてい)の仕方といった基本知識はもちろん、コンポストや花屋のバックヤードについての豆知識、植木屋さんの一日に至るまで、園芸に関することならほぼ全て網羅しています。

「本格的な園芸、庭仕事、盆栽……。できたらいいけど、日々忙しくてそんな余裕はないわ」と嘆くなかれ。たとえばキッチンで切り落とした野菜の頭や根元を育てることも立派な園芸(豆苗の根っこ、捨てられませんよね。万能ねぎの根元も育ちます)。食後の果物の種も、植えることができるそうです。「こんな果物も?」と驚くようなものも、この本では知ることができます。

内容は立派な専門書ですが、可愛らしいイラストと大野さんの遊び心満載の文で、読んでいるだけで楽しい気持ちになります。大野さんは昨年、植物博士・牧野富太郎さんの伝記絵本『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)を手がけています。そんな大野さんの描く植物の多様さは、まるで現代に牧野先生がよみがえったかのよう。植物図鑑的な要素に加え、育てる、咲かせる、食す、香りを楽しむ、飾るなど、植物との多様な触れ合い方も紹介しています。

この本の企画は、2011年に始まったとのこと。個人的な臆測だけれど、もしかして大野さんは震災の後、この本を作りたいと思ったのではないでしょうか。そして9年もの歳月をかけて出来あがった今、この本によってみんなの気持ちが元気になればと、きっと思っているような気がします。あとがきの大野さんの言葉も素敵です。「育てているようで、育てられている」。植物と触れ合うことは、心のセラピーにもなるはずです。

『もし地球に植物がなかったら?』

次にご紹介するのは、帯の「地球に、はじめて咲いた花を知っていますか?」という問いが印象的な科学絵本『もし地球に植物がなかったら?』。美しい色合いの版画で、太古からの植物の歴史を教えてくれます。版画を手がけた、きねふちなつみさんは、パリの学校でテキスタイルデザインを学んだとのこと。どのページも、まるで北欧ブランドを彷彿(ほうふつ)とさせるような、そのままファブリックに使用できそうな、明るくておしゃれな模様にあふれています。

植物は、生きものが生きていくためになくてはならない「酸素」と「栄養」をつくります。(31ページ)

植物は生きものに酸素をもたらしてくれます。40億年ぐらい前に海の中で生まれた「いのち」が光合成を始めたことで、酸素は生み出されました(酸素は最初、生きものにとって有毒だったそうです!)。やがて海の中に海藻があらわれ、酸素をたくさん生み出します。その酸素がオゾン層という地球の「覆い」になったことで、生きものはようやく地上へ進出できるようになったのです。もし地球に酸素がなかったら? 想像すらできませんよね。

海の水が引いて陸に取り残された海藻から最初にコケが生まれ、植物は初めて陸上に進出します。やがて茎を持ち、太陽に向かってどんどん背を伸ばし、森を作り、地球を緑色で覆っていきます。

植物は自分では動けませんが、哺乳類や、鳥類、昆虫に食べ物をあたえるかわりに「たね」や花粉を運んでもらって、どんどん仲間と種類を増やします。(26ページ)

植物は生きものたちに栄養も与えてくれます。花が生まれ、実がなる。生きものたちはその食べ方やライフスタイルを、植物に合わせて生きてきたのです。

植物はおおむかしからずっと、地球の生きものの「いのち」をささえてきました。(中略)わたしたち人間も同じです。(31ページ)

もし地球にお米がなかったら? 「だったらパンやパスタを食べればいいじゃない」? いえいえ、小麦だってもちろん植物。野菜、果物、しょうゆやみその原料となる大豆。こうした植物がなければ、私たちの食卓には一体何が並んでいるのだろう。

つい人間中心に考えてしまう日常生活だけど、植物の側からみたら、人間なんて何もできない存在なのかもしれません。どんな状況でも広い視野を持って、謙虚さを忘れずにいたいものです。

2冊とも、優しい包容力で好奇心を呼び起こしてくれる、先生のような本です。この本が皆さんの心に種を植えて、明るい花を咲かせますように。

(文・川村啓子)

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    蔦屋書店 コンシェルジュ

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    湘南 蔦屋書店 児童書・自然科学コンシェルジュ。
    読書といえば小説が主で大学も文学部、ずっと「人間のこと」ばかり考えてきましたが、このお仕事に出会ってからは「人間以外のこと」を思う時間が増えました。いま気になっているのは放散虫。「自然界は美しいものだらけです」。

    百貨店の階段にアンモナイトが。街角の石から知る「東京」

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