高山都の日々、うつわ。

#20 いつかのピクニックのために。

#20 いつかのピクニックのために。

やっと巡ってきた気持ちのいい季節。
いつもの今頃なら、時間があれば外へ出て
太陽の光をいっぱいに浴びているはずなのに
今年はちょっと事情が違っている。

街を美しい桃色に染めた桜も
立ち止まって見上げるような心の余裕もなくて
気づけば葉桜になってしまっていた。

休日、友人とお弁当を持ち寄って公園へ行く。
何をするともなく近況報告をしたり
おにぎりやサンドイッチを食べたり
そんなささやかな幸せが、今は懐かしくて恋しい。
同時に「自分はとても恵まれていたんだ」と強く思う。

誰にも会えない週末。
なぜだか急に「おいなりさんを作ろう!」と思い立った。
作ったこともないのに、なんで急に? 
思わず自分でも突っ込みを入れそうになったけれど、
とにかく作ってみたくなったのだからしょうがない。

#20 いつかのピクニックのために。

#20 いつかのピクニックのために。

小さな頃、おいなりさんが登場するのは決まって
家族で出かけるお墓参りの日だった。

母が作るおいなりさんはごく平凡なたたずまいだったけれど、
頰張るとお揚げさんからじゅわっと甘いつゆがあふれて
すごくすごく、おいしかった。

なぜ母はお墓参りの日においなりさんを作ったのだろう。
油抜きした油揚げを甘く煮含めながら、ぼんやり思った。
酢飯を作るのも手間だし、小さなお揚げさんの袋に
せっせと酢飯を詰めていく作業の難しいこと!

おいなりさんを作り進めていくにつれて、
「墓参りいなり」の謎はいっそう深くなっていく。

難関の酢飯の詰め作業を終えて、ひと息。
少し不格好なものがあるのは初挑戦の証しだ。
それに少々形が悪くても、おいなりさんを
ひっくり返して盛り付ければ気にならない。

#20 いつかのピクニックのために。

#20 いつかのピクニックのために。

これは料理家の友人に教えてもらった技で、
おいなりさんの口をしっかりとじず、
酢飯が見える部分を上に。
そこに野菜や錦糸(きんし)卵を飾ると、鮮やかな飾りいなりになる。

今日は昆布締めにした菜の花と錦糸卵、赤カブの酢漬け。
パッと華やかなおいなりさんは、今の季節にぴったりだ。

母がそうしていたようにお重風の器に盛り付けたら
今すぐにでも誰かを誘って、外で頰張りたくなる。

もしかしたら母も、
家族での外出を少しでも楽しいものにしたい。
そんな思いで、おいなりを作っていたのかもしれない。
お重に並んだ愛らしいおいなりさんを見て、
さっきまでの謎がすとん、と解けた気がした。

初めて作ったおいなりさん。
次は必ず、大好きな人たちと一緒に食べよう。
すがすがしい風を感じて、深呼吸をして。
いつかのピクニックのために、もっともっと練習しよう。

#20 いつかのピクニックのために。

今日のうつわ

鴨工房の角鉢

長野県の茅野市に工房を構える鴨瑞久さんの角鉢は、グレーと黒の中間のような色味がシックで、素朴なお料理を盛ってもよそいきの雰囲気に。陶器なのでピクニックには持っていけませんが、お重のようなたたずまいで、家の中でも外ごはん気分を味わえるのが好き。色とりどりの生菓子をのせてもすてきそうです。

    ◇

写真 相馬ミナ 構成 小林百合子

PROFILE

高山都

モデル 1982年、大阪府生まれ。モデルやドラマ、舞台の出演、ラジオ番組のパーソナリティなど幅広い分野で活躍。フルマラソンを3時間台で完走するなどアクティブな一面も。最近は料理の分野でも注目を集め、2作目となる著書『高山都の美 食 姿2』では、背伸びせずに作る家ごはんレシピを提案。その自然体なライフスタイルが同世代の女性の共感を呼んでいる。

高山都の日々、うつわ。

丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・俳優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何げない日常を紡ぐ連載コラム。

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〈特別編 〉#21 ひとつの器から物語が生まれる。

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