花のない花屋

「生きる意味をくれてありがとう」元気で明るい母へ

〈依頼人プロフィール〉
加藤めぐみさん 41歳 女性
名古屋市在住
看護師

    ◇

体調に異変を感じたのは、一昨年くらいのことです。たまたま胸のしこりを見つけ、「あれ?」と思っていたものの、忙しさからなかなか検診を受けられず……。昨年には不安が確信に変わり、勤め先の病院の体制が変わったのを機に、診察を受けました。予感はそのまま的中、やはり乳がんでした。

告知されたときは、仕事柄心の準備はできていたので、ショックというよりは、「ああ、やっぱり」という気持ちと、「母にどう伝えよう」「勤務先にどう伝えよう」という周りへのフォローでいっぱいいっぱいでした。

私は結婚もしていませんし、子どももいないので、正直、母がいなければ抗がん剤治療を受けるつもりはありませんでした。費用もそれなりにかかってきますし、副作用によるダメージもよくわかっていたからです。それらを天秤(てんびん)にかけると、私自身はなんとなく「積極的治療よりは、緩和ケアのみで人生を全うするのもよいかも……」という考えを持っていました。

でも、母に「そんなの嫌だよ! 私の最後を看取(みと)ってくれる人がいないと!」と言われ、それもそうだな、とまだ一人じゃなかったんだと思い直しました。

今は病院で働き続けながら、闘病生活を続けています。抗がん剤の影響で体調が不安定になったり、味覚障害で食べられるものが限られてしまったりしますが、そんな中で同居していた母はあれやこれやと私につくし、私を支えてくれていました。

しかし……今度はそんな母が脳梗塞(こうそく)を起こし、3月頭に入院してしまいました。それほど症状はひどくないものの、今年で70歳です。

母は私が5歳のときに父と別れ、それ以降は女手一つで3人の子どもを育てながら両親の面倒を見てきました。子どもの手が離れ、両親を看取り、自分の時間ができてホッとしたのもつかの間、私の病気が発覚し、今度は自分まで……。

そこで、病気で少し落ち込んでしまっている母が少しでも元気になれるよう、明るい花束を作っていただけないでしょうか。「私に生きる意味を与えてくれてありがとう」「ともに歩んでくれてありがとう」「落ち着いたら、おいしいものを食べにいったり、旅行にいったりしましょうね」というメッセージを込めて。

母はふだんは元気で明るく、少々短気でもあります(笑)。とてもアクティブな人で、ウォーキングに趣味の歩き遍路、卓球、フォークダンスなど、いつもいろいろなことをして楽しんでいました。お花を見て、またそんな元気を取り戻してくれますように。

「生きる意味をくれてありがとう」元気で明るい母へ

花束を作った東さんのコメント

「元気で明るく、少々短気」というお母様へ、パンチのきいたパワフルな花束を作りました。

使用したのは個性的な色と形の植物ばかりです。ウツボカズラ、プロテア、パフィオペディラム、ゼンマイ、アロエ、グズマニア、緑色のアンスリウム、ノーブルリリー、オバレイ、グリーンスパイク……。中でも珍しいのは、フリチラリア。この花は花弁の中に水晶のような、水滴のようなものがついていてとてもきれいです。アロエは植え替えられるので、お花が終わったらぜひ育ててみてください。

これらの個性的な花の間にはダリア、カーネーション、ガーベラ、チューリップ、ラナンキュラス、フリージア、エピデンドラム、ナデシコ、ランなどおなじみの花をたっぷりと。周りはハランの葉で囲みました。いろいろな種類の花を使っているので、見るたびに何か発見があるかもしれません。

花器を四角くしたのは、パンチのきいたイメージを作るため。丸いアレンジとはまたひと味違った印象になったのではないでしょうか。

「生きる意味をくれてありがとう」元気で明るい母へ

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(&編集部/写真・椎木俊介)

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    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    「生きる意味をくれてありがとう」元気で明るい母へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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