上間常正 @モード

欧米ファッションブランドによるコロナ感染阻止 今、ファッションがすべきこと

新型コロナウイルスの感染が広がり、先の見えない鬱陶(うっとう)しい生活が続いている。感染拡大を防ぐためには人との接触をなるべく減らすことがまず大事で、それが多数の命を救うことになると言われている。この説はデータを基に複雑な統計的処理をした結論なのだろうが、多くの人にとって実感としてはあまりピンとこないだろう。それよりも、いま困っている人たちを助けるためにはどうすればいいのかを考え、実際に行動することの方がより効果的なのではないか、と感じている人も多いと思う。

そうした中で、世界の多くのファッションブランドは、コロナ汚染の最前線で闘う医療従事者のための大規模な支援策を次々と打ち出している。

欧米ファッションブランドによるコロナ感染阻止 今、ファッションがすべきこと

ルイ・ヴィトンの医療用ガウン ©Piotr Stoklosa

例えば代表的なビッグブランドの一つルイ・ヴィトンは4月10日、本社があるパリのプレタポルタのアトリエで医療用ガウン(防護服)の製作を始めたと発表した。アトリエの職人20人がボランティアで数千枚規模を手作りして、パリ公立医療センター(AP-HP)の六つの病院に届ける予定という。AP-HPは全体で39の病院の診療や救急体制、計画入院、在宅医療などを機能的に動けるように統括している。このような体制を新型コロナウイルスの特徴に合わせてさらに調整していけば、感染を食い止める大きな力になるだろう。

欧米ファッションブランドによるコロナ感染阻止 今、ファッションがすべきこと

ルイ・ヴィトンはマスクも製造中 ©David Gallard

ルイ・ヴィトンが属するLVMHグループのライバル、ケリング・グループはすでに医療用マスク300万枚を中国から輸入し、フランス国内の医療機関に提供している。また、パストゥール研究所に資金援助してパンデミックへの永続的な対応への研究を助けるほか、中国湖北省の赤十字団体に多額の寄付をするという。グループ傘下のバレンシアガやサンローランも、マスクなどの医療用品をフランス国内で生産する予定。

同じ傘下のグッチは、イタリア・トスカーナ州の医療機関にマスク110万枚、防護ガウン5万5千着を4月中にも寄付する。また計200万ユーロを目指した二つのクラウドファンディング(資金募集)を実施。一つはグッチの本拠地イタリア国内で主に集中治療病床の新設のため、もう一つは世界に向けて国境を越えた世界保健機関(WHO)の活動を支援する基金のためだという。

欧米ファッションブランドによるコロナ感染阻止 今、ファッションがすべきこと

グッチのキャンペーン用ロゴマーク

シャネルは、5万枚以上のマスクをフランスの医療機関や消防団、警察などに提供したほか、AP-HPやジョルジュ・ポンピドゥー基金、公的医療サービス(SAMU)の3団体に計120万ユーロの寄付を決定。また医療用マスクと防護服を開発中でフランス当局の承認を受ければ生産を開始する。

コロナ感染の広がりが急速だったイタリアでは、特に多くのブランドの活動が目立つ。プラダはトスカーナ州の求めに応じ、防護服8万着、マスク11万枚を3月末から毎日順次発送している。ヴァレンティノはグッチと同様に、イタリアの国家市民保護局の活動支援のため、もう一つはWHOの活動を支援するCOVID-19連帯対応基金のためのフェイスブックによるマッチングキャンペーンを通じて、計200万ユーロの資金集めをすでに展開している。

アルマーニグループも3月はじめに計200万ユーロの感染阻止のための基金を国内の各関係機関に配分し、また国内の自社工場で医療従事者を保護するための使い捨て医療用ガウンの製造を始めた。また、ゼニアグループはイタリア全土の医師や看護師、科学者、ボランティアの活動資金として計300万ユーロを提供。さらにイタリアとスイスの工場で医療従事者のためのマスクと白衣の製造を開始している。ドルチェ&ガッバーナはすでに2月に、イタリアの医療機関の研究費のために寄付している。

ブルガリは、香水部門の専門知識を生かして、イタリアのICR社の消毒剤とコラボしたハンドクレンジングジェル数十万本を生産し、国内の各関係機関へ提供している。

欧米ファッションブランドによるコロナ感染阻止 今、ファッションがすべきこと

ブルガリのハンドクレンジングジェル

ヨーロッパのビッグブランドの動きと比べると、日本のブランドの活動は影が薄いように思える。小さなブランドでマスク作りを始めた例もあるが、医療現場の感染阻止のためとしては大きな効果は期待できない。大手アパレルならなんとかなりそうな気もするのだが、アパレル不振が言われて久しい各社は、したくてもそこまで手が回らないというのが現状だと思う。

アメリカも含めて欧米ブランドのコロナ感染阻止への動きが急なのは、国や自治体からの要請があったことが背景にある。ファッション産業の規模が大きいことと、ファッションが文化産業であることへの理解が日本より深いことも原因となっているだろう。いずれにしても、新型コロナ感染の嵐で殻に閉じこもっていたのに、嵐が終わった後に大事だったものが何も残っていなかったでは済まされないのだ。

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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