鎌倉から、ものがたり。

人と人とのつながりを届けます 「北鎌倉 morozumi」

北鎌倉駅から、てくてくと歩いて8分。風格ある邸宅が並ぶ住宅街の山の中腹に、両角香織さん(36)、啓さん(36)夫妻が営む、衣服と生活道具の店、「北鎌倉 morozumi」がある。

(→前編からつづきます)

店に並ぶのは、シンプルなラインのシャツ、ワンピースをはじめ、ストール、ラグ、ブランケット、靴下、さまざまな形のカゴ……と、暮らしをやさしく彩るものたち。どの品も丁寧な手仕事を感じさせ、年月を経た木造の空間にぴったりとはまっている。

雑貨店の仕入れは、メーカーや作り手たちが一堂に集まる展示会で買い付けることが通常だ。関係者はそこで流行や売れ筋を確認し、利益の源となる情報を交換する。しかし、「北鎌倉 morozumi」で品選びを担う香織さんは、そのような展示会に足を運ぶことは少ないという。

「この店を開くときに、もの選びの基準を『自分たちが心地よく使い続けてきたもの』にすると決めました。それらのものが、つくり手やディストリビューター(流通の担い手)との新たな出会いを生み、ものと人、人と人をつなげてくれています。この店は、そのつながりを私たちからお客さまに届ける場所なのです」

もの選びの原点となった品がある。齋藤由清乃さんが主宰する「Suno & Morrison(スノアンドモリソン)」がつくった、オーガニックコットンの「ガラ紡」によるストールだ。

「『ガラ紡』って、耳になじみがないですよね。明治時代に日本で考案された、最も古い日本製の紡績機で紡いだ糸のことなのですが、糸を紡ぐスピードが大変ゆっくりなため、今では日本に数台しか残っていません。でも、そのゆるやかさが、空気を含んだような風合いを出すのです。スノアンドモリソンのストールは、オーガニックコットンの落ち綿(糸になりきれなかった繊維)を使うことで、さらに柔らかさを増しています。肌の弱い私が首に巻いて、まったくストレスを感じなかった品なんです」

スノアンドモリソンの齋藤さんは、実は香織さんの高校時代からの友人でもある。齋藤さんは日本だけでなく、ベトナムやインドなどアジアに伝わる手仕事を丹念に探し出し、みずからが実際に使って納得をした素材で、ものづくりを行っている。香織さんは、齋藤さんとの20年来のつきあいの中で、彼女の創造性、ものづくりの姿勢を信頼し続けてきた。

「Kameli apartment(カメリアパートメント)」を主宰する安倍麻樹さんも、同じく香織さんが信頼するひとり。安倍さんはリトアニア、ラトビア、フィンランドの手仕事に精通した人で、彼女を通して、ラトビアのおばあちゃんが編むアシのバスケットなど、日本ではめずらしい品を店で紹介する。

「自分の店を持つ」という夢が、香織さんの胸に芽ばえたのは20代のときだった。

「そこから形になるまでに、行きつ、戻りつがあり、寄り道もしたりと、少し時間がかかりました。でも、その時間があったからこそ、自分が大事にしてきたことを、見つけられたのだと思います。とにかく私は、自分が心動かされたもの、ことを伝えたかった。でも、文章にしたり、絵を描いたりすることはできないので、『場所』をつくることで、夢を実現しようと思ったのです」

一軒家の店は、訪ねるのに少し勇気がいる。中に入ったら、何かを買わねば悪くはないだろうか……。そんな、ささいな心配も抱いてしまう。しかし、香織さんも、啓さんも、客を迎える姿勢はおっとりとしている。

「知り合いからは『人、来るの?』なんて心配されています。確かになかなか来ない。でも、まあ、楽しんでいます」

啓さんは、そう笑って続ける。 

「ここは、カリスマ店主がいる店ではありません。僕たちが好きな庭を、一緒に『いいね』といってくださるだけで、僕たちはうれしいんです。先日は、お客さんが庭先でうたたねされていて、よしっ、と思いました。それは、何かを買う前に、ここが気持ちいい場所だと感じていただけたからですよね」

香織さんも、言葉を添える。

「ものを買う優先順位は低くていいんです。まず、この場所を訪ねて、ゆっくりとした時間を感じていただければ。そうやって、ときどきに足を運ばれる中で、『今度、あれを使ってみたいな』と、気に入った品を見つけて、長く使っていただければ、それが私たちのよろこびにつながっていきます」

そんなふたりは、客を送り出すときの笑顔も、明るくて、やさしい。

morozumi
神奈川県鎌倉市山ノ内917
電話番号:090-7230-1021
※新型コロナウイルスの影響により、当面の間、来店には電話またはメールでの予約が必要となります。
詳しくはこちらのページをご覧ください。

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    PROFILE

    • 清野由美

      ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

    • 猪俣博史(写真)

      1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

    “お庭番”のいる景色自慢の生活道具店「北鎌倉 morozumi」

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    姉妹でいつか、語り合った夢のカフェを 海が見渡せる逗子の「N邸 N-Café」

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