朝日新聞ファッションニュース

コロナ以後、「おしゃれ」の行方は

新型コロナウイルスの感染拡大は、ファッション業界に大きな影響を与えている。店舗営業を自粛したり、外出が減って服を買わなくなったり、「おしゃれ」は不要不急なのか。今後、人々の消費行動や考え方が変わる可能性もある。コロナ以後のファッションについて、佐藤亜都さん、皆川明さん、柚木治さんの3人に聞いた。

トレンド追う消費、見つめ直す人も 佐藤亜都さん(ファッションメディア「ROBE」編集長)

コロナ以後、「おしゃれ」の行方は

さとう・あづ 1992年生まれ。セレクトショップで販売を担当後、2016年に「ROBE」を立ち上げ、国内外のコレクション情報などをSNSで発信している。

いつもSNS上で「ファッションは心を支えてくれる」なんて書き込んでいる私。ところが外出自粛が続く今、自宅ではどうしようもない格好をしています。

なぜおしゃれをしないのか。今まで人の目を意識していたわけではないと思っていたものの、結局は誰かに見られている状況や、街やオフィスで、どう自分を見せたいか、どんな気分でいたいか、をふまえて服を選んでいたと気づいた。社会とどう接するかを考えた時に、表面である服が大事なんだろうな、と。

外出自粛によって、トレンドを求めて服を買い替えていた人が立ち止まり、「そんなに服を買わなくてもよかった」と感じることも多いのでは。サステイナブル(持続可能)の認識が広まっていた中で、自分にとっての服の存在を考え直す。それほど買わなくてもいい人は買わなくなり、気分を高めたり落ち着かせたりするためであれば、そうした役割の服をちゃんと選ぶようになるでしょう。

オンラインストアでの買い物は、限度があると思います。詳しい人は、画像や動画だけでも素材など何となくわかるけど、それは多くの服を着たり触ったりしてきた経験から。ウェブでいかに立体的に、質感が似たように再現されても、人それぞれの経験値によって伝わるものが違う。「五感格差」が広がるのではないでしょうか。だからこそ、伝える側が気をつける必要がありそうです。

現在、開催できないショーをオンラインで行う動きがありますが、今後、完全にデジタル化はせず、従来の形も残るのでは。ショー全体の雰囲気や来場者の層で、ブランドが発信することが伝わってくるので、リアルの意味がある。デジタルで消費者も見られるのは良いことですが、メディアが解釈し、かみ砕いて発信することがより大事になります。

服を作る側は、これまで以上に、デザインの格好良さだけでなく、時代と消費者が何を求めているのかを読む必要があるでしょう。寄り添いすぎても憧れにはならず、ブランディングとの線引きが難しいでしょうが、良い距離感を作れるところがうまくやっていけるのではないかと思います。

感覚研ぎ澄まされ、求める心地良さ 皆川明さん(「ミナ ペルホネン」デザイナー)

コロナ以後、「おしゃれ」の行方は

みながわ・あきら 67年、東京都生まれ。文化服装学院を経て、95年に自身のブランドを設立し、04年から東京とパリで新作を発表している。独自の創作生地や詩的なデザインが人気。

コロナ以後も、人々のファッションへの関心はあまり変わらないと思います。ただ、それぞれの暮らしの中でどれほど大切な物になるかを判断基準に、選ぶハードルは上がるのではないでしょうか。

体と心に服がどう訴えかけるか、それを着ることで喜びがあるか、素材が心地良いか、そんな服しかいらないという価値観が今後さらに強くなるのでは。特定の目的のための衣料は別にして、単に安いからとか、何か買いたいという漠然とした衝動による購買は少なくなると思う。

そして、本当に必要な物を作らないと淘汰(とうた)されてしまうという意識が、ファッションのクリエーション全体のレベルを上げていく。それはとてもいいことです。

パリ・コレクションなどで年に2回、新作を発表するという現在のファッションシステムにとっては、別の方法を見つける、何十年かに一度のいい機会。コロナの影響で人の移動が制限され、一つの場に集まって情報を共有することが難しい。そんな中で、ブランドやバイヤー、報道陣はもっと多様化した発信の方法を探るでしょう。

ネット配信や通販でこぼれ落ちるのは、服の触感や重み。一方でネットでは、現実には見えない生地の細密な部分も拡大して見られる。バーチャルで見た服が人の感覚に影響して、新しい実感につながっていくかもしれない。そうなれば、店舗は単に物を買う場というより、服にフォーカスした劇場のような実体験の場になっていく。販売員との、より個人的な会話も含めて、言葉がファッションを膨らませていく大切なものになっていくでしょう。

最近、服って人間が入る一番小さな空間だなと改めて感じる。移動制限によって自分が居る場所に対する感覚が研ぎ澄まされる中で、「この服の中に自分が気持ちよく居るんだ」という自身の存在感が、新たな価値を生むかもしれない。外側のシェイプや内側の生地や仕様も含めて、どこまで心地良い状況を作れるのか。そんな意識を持って、服作りを続けたい。

よりエシカルに、協力して効率良く 柚木治さん(ジーユー社長)

コロナ以後、「おしゃれ」の行方は

ゆのき・おさむ 65年生まれ。伊藤忠商事などを経て、99年ファーストリテイリング入社。野菜事業のエフアール・フーズ社長を務めた。10年から現職。

新型コロナは、ファッション業界を直撃しました。お店が大量に閉まり、外出が減っているので例年より服を買わないですよね。

コロナを経て、おしゃれを避ける傾向は進むかもしれません。際立つことがファッションだったのに、今は悪目立ちしたくない。

一方、一般の人がSNSで着こなしを披露し、ファッションは歴史上、最高に盛り上がっているとも言える。トレンドカラーのバカ売れは、時代の空気をまといたいという思いがなくならない証拠。チープにうまく着こなすことがかっこいい時代です。そこにミニマルでサステイナブル、エシカル(倫理的)な消費が「かけ算」されてくるのでは。

ジーユーは昨年12月に、生活者、生産者、地球との「3つのコネクト宣言」を掲げました。ファッション性と実用性を兼ね備えるのが生活者視点。地球環境問題に配慮したサステイナブルな取り組みも強化します。消費者の意識が高まり、企業の姿勢も見られています。服を廃棄しないための需給の調整や、再生素材を使い、不用になった服を回収するなどです。

新型コロナの感染拡大は予測しえませんでしたが、コネクト宣言は大きな時代の流れをとらえて作ったので、コロナ以後も方向性は変わらないと考えます。

ファッションは時代を背負いながら変化するし、クリエーションが求められるのは変わらない。ただ、コロナで様々な無駄が浮き彫りにされたように、今まで服を作りすぎていたならおのずと正され、ブランドや工場など業界の淘汰が起きうる。

そんな中で大事なのは、時代や人々に本当に求められるものを、自社だけでなく協力して作ること。コロナで、自分たちだけでは何もできないということを思い知らされた。自国、自社、自分ファーストが通用しないことが明らかになった。働き方や物作り、届け方などが変わるかもしれない中で、人や世の中とつながり、効率良く作ることが鍵だと思いますね。

(聞き手・高橋牧子、神宮桃子)

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