このパンがすごい!

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

緊急事態宣言が発令された4月7日を境に、大大大好きなパン屋巡りができなくなった。私のライフワークに「不要不急」の烙印(らくいん)が押されたのだ。

4月6日、人生最後のパン巡りという気持ちで、秩父に出かけた(埼玉県にある自宅から、県境をまたがず行けるせいぜいの場所)。小さなパン屋に入ると、うららかな春の日差しがそう見せるのか、ショーケースに並んだパンはいつにもまして愛(いと)おしく映った。ひとつひとつ精いっぱいに手作りされたこのパンがわずか200円程度。地域の人においしいものを毎日食べてほしい、という愛情なくしてできないではないか。そう思うと、パン屋って涙が出るほど感動的でうつくしい仕事だと思えるのだった。

パン屋に行けないことに落ちこんでいたが、自分にできることをしようと考えはじめた。いまは出かけるのではなく、家にいることが、家族や地域を守るためにいちばん大切なことなのだ。パンを発信することを仕事にしているのなら、パンを買いに出かけなくても、家にいながらにして極上のパン生活を送れることを伝えるべきではないか、と。

私はそう思い至ると、やおら冷凍庫の奥底からいつ買ったか知れぬカンパーニュを取りだし、バターとともに「nel Craft Chocolate Tokyo」の「パンにかけるチョコレート」をかけて食べ、Instagramに投稿した。

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

「緊急事態宣言。
それでもパンを食べたい!
冷凍庫に溜(た)まりに溜まったパンを根こそぎ活用するときがやってきた!」

こうして毎日1ポストの「#巣篭(ご)もりパンオタクの冷凍&通販パン生活」がはじまって、現在まで40日あまりつづいている。その中から「いいね!」の数ベスト5と、番外としていちばんのお気に入りを紹介したい。

第5位 キャロットフムス

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サンフランシスコの「タルティーンベーカリー」で心をつかまれたキャロットフムス。ひよこ豆だけでなくニンジンも加えた、素敵に甘いフムスだ。カンパーニュの塊にスリットを入れる提供方法も「タルティーンベーカリー」に倣った。

第4位 アボカドチーズ

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カンパーニュにアボカドとチーズをのせてトースト。アボカドもチーズも溶けてとろとろ祭りとなる。白ワインにやたら合う、夜のごちそうが苦もなく完成。

第3位 焼き鳥レバーペースト

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

「ライ麦パンにはレバーペーストがよく合います」という定説。事実ではあるが、「そんなの家でいちいち作れないよ!」となる。そこで、繰り出す秘技。焼き鳥屋でレバー(タレでも塩でもOK)を買い、スプーンで潰し、ライ麦パンにのせる。するとどうだろう。「ライ麦パンのおいしさってこういうことだったのね!」と納得してもらえるはずだ。パンは幅1センチ以下に切り、クリームチーズかバター、サワークリームなど乳製品をひと塗りするのがドイツのお作法。

第2位 ジャガイモチーズ

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

薄めに切ったライ麦パンに、スライスしたじゃがいもとチーズをのせてトースト。熱々を頰張ればまちがいない組み合わせだ。

第1位 パンの自動販売機

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

2歳の子供に「パンの自動販売機ちょーだい」と言われた妻が制作。おはじきを入れ、ボタンを押すと、バナナとピーナツペースト、ジャムのサンドイッチが出てくる。自動販売機の後ろにパパかママが潜んでいるのは、気にしないでほしい。子供の思いつきに付き合わされるほうは大変だと嘆息しつつ、順調にパン好きに育っていることを確認し、ほくそ笑む。

番外 はらぺこあおむし

「はらぺこあおむし」にサンドイッチ食べられちゃった~! と子供に言いたいがために制作。絵本『はらぺこあおむし』は、子供にせがまれ幾度読み聞かせたか知れない。あおむしが次々と食べ物を平らげ、その印にりんごやいちご、チョコレートケーキにサラミと次々穴が開いていく物語。おいしそうな食べ物を見るのが子供は好きなのだ。その中にパンが入っていないのが残念でならなかったのだが、ついに我が家にあおむしが来て、パンを食べてったんだ(と妄想する)。

エリック・カールの絵を使用したラベルがかわいすぎる「HARAPEKO Fruit Jam Apple」。薄く切ったライ麦パンにクリームチーズを塗り、りんごジャム(なんでもOK)を塗る。サワー種の酸味とりんごの酸味・甘さがかみ合い、この組み合わせは本当においしい。

〈特別コラム〉店巡りを封印。果てしないパン欲と、40日間の「冷凍&通販パン生活」

私は、いままで食べたことのない、ものすごいおいしいパンが食べたいと思って、日本中旅をしてきた。次へ次へとパン欲は果てしない。遠くに行かなければ食べられないと思っていたが、家の中にいても自分で作りだすことはできる。そうコロナが気づかせてくれた。写真を見てのとおり、私は料理が上手でも器用でもないが、買ってきたものを食べるだけでなく、試行錯誤することにも楽しさはあったのだ。

コロナが来ようが、なにが来ようが、パンは不滅。と、自分がずーっと言ってきたことの本当の意味をいま嚙(か)み締めている。人間が生きるところにパンは必ずあるものだから。

     ◇

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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