#ステイホーム with 花のない花屋

#15 ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛

おうち時間に花束を――。

 

おうちにいる時間が増えている方が多いと思います。花を部屋に飾ることで沈みがちな気分が明るくなったり、水をあげることで心が落ち着いたり……。おうち時間を少しでも楽しく心身ともに穏やかに過ごせますように。
いま、“わたし”に贈る花束を。

 

心に大きな不安がのしかかっているこんなときだからこそ、花から伝わるメッセージを多くの読者の方に受け取って、感じてもらいたい!という思いを込めて。フラワーアーティスト東信さんが、5月26日から6日間連続で6人の方の気持ちに寄り添った花束をお届けします。

 

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。今回はその一環として、ご協力いただきました。

#15
桃田香織さん(仮名) 33歳 女性
東京都足立区 会社員 

     ◇

いつの間にか夏の気配を感じる季節となり、近所で牡丹(ボタン)の花を見かけるようになりました。そんなとき、必ず思い出す、幸せな記憶があります。

4年前のゴールデンウィーク、今は結婚して夫になった彼が、私の実家に結婚のあいさつにやって来ました。このときまで、彼を両親に会わせたことも、詳しい話をしたこともなく、私たちふたりはとても緊張して実家の門をくぐりました。

客間に通されふと顔を上げると、床の間に飾られた白い牡丹の花が3輪、目に入りました。実家の庭には季節ごとに様々な花が咲き誇るのですが、母が庭に咲いた牡丹を生けてくれたようです。

客間には普段、花が生けてあることはありません。娘の私と、これから夫となる彼のために生けてくれた牡丹。それは今まで見た花の中で一番美しく感じました。まるで私たちの結婚を祝福してくれているようで、母の心遣いが本当にうれしかったのを覚えています。

それからは私にとって牡丹は、母の愛を象徴する花になりました。

私は今、消毒剤や注射器など、様々な医療商材を扱う会社で営業事務として働いています。中には、新型コロナウイルスによる院内感染が起きてしまっている病院へ納品に向かう社員もいます。社内でひとりでも感染者が出てしまったら、納品することが出来なくなる。そんな緊張感の中、商品の問い合わせや納期の確認などで毎日がめまぐるしく過ぎていくギリギリの状況で仕事をしています。

こんな時、ふと会いたくなるのは母。母は日々のたわいのない出来事を、面白おかしく話して笑いに変えてくれます。仕事で嫌なことがあった時、つらいことがあった時――、母の話に何度腹を抱えて笑い、救われたことか。

母に会いたい。実家は電車1本で帰ることが出来ます。1、2カ月に一度、夫を置いて帰ることもあるくらい、実家は私にとって大切な場所。

もちろん母とは電話もしますしLINEもします。先日はサボテンに花が咲いたと、連絡が来ました。
しかしどんなに技術が発達し、スマホを通してつながることが出来ても、実際に会って、同じ空間で同じ空気を吸いながらともに過ごすことに勝るものはありません。

でも今は会わない。大事な母を、そして家族を守るため。

けれど、今だからこそ、牡丹を見かけるたびに母の優しさに触れたくなる。
どうか母を感じることの出来るような花束を、お願いしたいです。

花束を受け取って……

#15  ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛

花束を一目見た時、雨上がりの実家の庭を思い出しました。華やかな花もあれば、楚々(そそ)とした花、木の実もあり……思わず久方ぶりに深呼吸をしてしまいました。
出来ることなら、母にも味わってもらいたかったです。
まだつぼみの花もあるので、これから花束がどのように変わっていくのか、家で変化を楽しみたいです。
一刻も早く世界中の人々が自分の大切な人と、心置きなく過ごせるようになることを願っています。

 

花束を作った東さんのコメント

牡丹の花は時期的に手に入らなかったため、代わりに芍薬(シャクヤク)をメインに束ねました。
淡いピンクと濃いピンクがミックスしている複色の美しい芍薬です。周りにはサンキライやスズランの木など、お母さんのお庭を感じさせるような、初夏の涼やかな枝ものを合わせました。
離れていてより一層感じるお母さんのあたたかさを、ご自身の力に変えて、今のこの状況を乗り切ってほしいなと思います。

#15  ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛

《花材》シャクヤク、クルクマ、スズランの木、サンキライ

(文・&編集部 大賀有紀子/写真・椎木俊介)

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  • >>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    #15  ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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