#ステイホーム with 花のない花屋

#17 大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて

おうち時間に花束を――。

 

おうちにいる時間が増えている方が多いと思います。花を部屋に飾ることで沈みがちな気分が明るくなったり、水をあげることで心が落ち着いたり……。おうち時間を少しでも楽しく心身ともに穏やかに過ごせますように。
いま、“わたし”に贈る花束を。

 

心に大きな不安がのしかかっているこんなときだからこそ、花から伝わるメッセージを多くの読者の方に受け取って、感じてもらいたい!という思いを込めて。フラワーアーティスト東信さんが、5月26日から6日間連続で6人の方の気持ちに寄り添った花束をお届けします。

 

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。今回はその一環として、ご協力いただきました。

#17
高橋加奈子さん(仮名) 45歳 女性
東京都江戸川区 無職

     ◇

2019年末、仕事を辞め、地方から東京の実家に帰ってきました。
仕事が忙しすぎて体調を崩してしまったのです。
4月くらいには、新しい仕事が始められるといいなと考えていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になり、かないませんでした。
後ろめたさとふがいなさが心の中で渦巻きながら、毎日家の中で過ごしています。

実家で生活するのは、20代半ばに就職して離れて以来のことです。

戻ってきて最も驚いたのは、自宅の中が蘭(らん)の花で埋め尽くされていたこと。
どうやら、今年70歳になる母が育て始めたようで、私が帰ってきて1~2カ月の間に、次々と開花し大輪の花を咲かせました。
いまは花の時期も終わってしまったようで、母はベランダでせっせと植え替えをしたり、日当たり具合を見て鉢を移動したりと、こまごまと世話をしています。

昔から口数も少なく、控えめで、何を考えているのだかいま一つわからない母でした。
今回も、私に「しばらくゆっくりしたら?」と言ったきり、他に何も言いません。

そんな母が、蘭の花が好きで、育てることも出来たなんて、今まで知りませんでした。

考えてみたら、今までは自分の勉強や仕事に明け暮れて、母とゆっくり花を見たり、一緒に料理をしたりする時間なんて、持ったことがありませんでした。
実家は自営業なのですが、私が子供の頃は母も忙しく、朝から晩まで仕事の手伝いや家事をしているか、さもなくば疲れてぐったり寝ている姿しか思い出せません。私も手伝いをあまりする方ではありませんでしたから……。

幸か不幸か、実家に帰ってきた今、もたらされたゆっくりとした時間。

今では子供の頃の時間を取り戻すかのように、母と一緒に料理を作ったり、家事をしたりしながら過ごしています。
大人になってから母親と何かを一緒にするのも、いいものですね。

何を考えているか分からなかった母の、意外な一面を見つけることが出来て、思いがけずうれしい気持ちになることができました。

この時間が長くは続かないことは分かっています。緊急事態宣言が解除され、徐々に社会生活が動き出したら、私も自立に向けて一歩を踏み出さねば。

大輪の花を咲かせた母のように、私もまたいつか自分の中に力が満ちる時が来ると、信じたい。そんな気持ちになれるような花束をお願いします。

花束を受け取って……

#17  大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて

花束が届いて、まずそのボリュームに圧倒されました。どの方向からも見どころのある花束で、時々向きを変えながら楽しんでいます。とても珍しい種類の花の姿に、やはり、私より母がまず先に見入っていました。
私の中の母のイメージで、なんとなく黄色の花を、とお願いしていました。届いたお花を眺めていると、黄色はとてもエネルギーのある色ですね。視覚から、弾けるような刺激を感じます。自分の体の中の滞ったエネルギーが、さあ動け動け、とせっつかれているようです。
花束の中にアジサイがありました。「それを、あとでちょうだいね」と母が言います。「挿し木して育ててみるわ」とのこと。我が家の玄関先に茂っている花やハーブは、すべて彼女が挿し木で増やしたものだそうです。やはり彼女はすぐれたグリーンハンドの持ち主であったようです。来年の梅雨時には、新たにアジサイが見られることと思います。

 

花束を作った東さんのコメント

今回は黄色の花々で全体的に明るい印象となる花束を作りました。
淡いライトイエローのマリーゴールドや、少し濃いイエローのエピデンドラムなどを中心にしながら、今はまだ蕾(つぼみ)の状態のホウチャクソウや、飛び出るように入れている独特な形状のブラッシア(ラン)などを、軽やかで動きが出るように束ねました。新たな道を模索中ということで、少しでも花からエネルギーを感じて前を向いてもらえたらという思いを込めています。

 

#17  大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて

《花材》マリーゴールド、ブラッシア(ラン)、エピデンドラム、アジサイ、ホウチャクソウ、カポック

(文・&編集部 大賀有紀子/写真・椎木俊介)

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  • >>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    #17  大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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