#ステイホーム with 花のない花屋

#18 描いていた青写真のようにはいかなくても 支えてくれる妻へ

おうち時間に花束を――。

 

おうちにいる時間が増えている方が多いと思います。花を部屋に飾ることで沈みがちな気分が明るくなったり、水をあげることで心が落ち着いたり……。おうち時間を少しでも楽しく心身ともに穏やかに過ごせますように。
いま、“わたし”に贈る花束を。

 

心に大きな不安がのしかかっているこんなときだからこそ、花から伝わるメッセージを多くの読者の方に受け取って、感じてもらいたい!という思いを込めて。フラワーアーティスト東信さんが、5月26日から6日間連続で6人の方の気持ちに寄り添った花束をお届けします。

 

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。今回はその一環として、ご協力いただきました。

#18
鈴木涼介さん(仮名) 31歳 男性
東京都新宿区 会社員

     ◇

昨年結婚式を挙げたばかりの妻との、共同生活のはじまり。
それはいまのところ、思い描いていた青写真のようにはなっていません。

2018年夏に一緒に暮らし始め、9月に結婚。式は19年6月に挙げました。
結婚したら、仕事柄多かった深夜の飲み会は控え、夫婦ふたりでリズムを合わせ、地に足をつけた生活をしよう――。
そう、思っていました。

しかし以前から悩まされていた不眠の症状のため病院にかかったところ、式直前に適応障害と診断され、休職することに。
仕事の異動などで、働き方や責任の重さが大きく変わったことが原因だろう、とのことでした。

薬も処方されたことだし、1、2カ月で復帰できるだろうと高をくくり、友人らにも「すぐに戻れると思う」と話していました。

ところが1年経っても、医者からのゴーサインが出ませんでした。

妻は外出することも満足にできない私に不満も見せず、仕事をしながら気丈に支えてくれています。私はそれを励みに回復に努め、さすがに今年の春には……と思っていたのですが、医者からは「治すことに焦っている」と指摘され、またも復職は延期となってしまいました。

復職したら大きな仕事も任される予定だったので、余計に気落ちしてしまいました。

そして世間は新型コロナウイルス一色となり、妻も勤め先の方針で緊急事態宣言の前から早々と在宅勤務に。「自粛」のなか、ふたりでずっと過ごしていると、妻に対してよくない感情もときにわいてしまいます。

妻が目の前で仕事に打ち込む様子を見たり、「オンライン飲み会」で同僚や友人と盛り上がる声を聞いたりすると、唯一自分の現状を全て知っている妻と私だけの空間だった自宅にも、なんだか他人が入り込んできたようで、自分の居場所がなくなってしまったような感覚に陥ります。

自分は仕事の代わりに家事を完璧にこなすこともできず、また友人たちにはすぐ復職できると豪語してしまった手前、今の状態では会う気が起きないのに……、とふがいない気持ちになってしまいます。

そんなとき、こらえきれずにベランダに出るなど、妻に対してあからさまに不機嫌な態度をとって傷つけてしまうこともあります。

このコロナという苦境を乗り越えたときには、妻の趣味である旅行にたくさん出かけ、もっと明るく笑顔の絶えない生活にしていきたい。そして仕事を通じて、今回の経験も糧にしてもっと世の中に貢献したい。

妻にはわざわざ言葉にして伝えていませんが、そんな思いを胸に刻み込むようにして毎日を過ごしています。

実は東さんのお店「JARDINS des FLEURS」では、プロポーズのときも、結婚式のときも花束とボトルフラワーを作っていただきました。私たち夫婦にとって、特別な花屋です。

再スタートに向けた決意と、うまく表現できずにきた妻への感謝をかたちにするような花束をお願いできたら、とてもうれしいです。

花束を受け取って……

後日談

大輪の花々でつくられた美しい花束を飾ると、リビングの雰囲気がぱっと華やかになりました。夫婦で見とれては繰り返し感想を口に出し合っています。ふたりでゆっくりと話す場所と時間を演出してくれるような落ち着いた色合いで、とてもうれしかったです。
東さんやスタッフの皆さまが、季節の花から選(え)りすぐって作ってくださったこの花束を見ると、いま自分にあるものを大切にしよう、その中で自分も大輪の花を咲かせよう、という気持ちにさせてくれます。一歩一歩、前に進んでいけたらと思います。すてきな思い出をありがとうございました。

 

花束を作った東さんのコメント

再スタートの決意と感謝の気持ちということで、奥様がお好きだという芍薬(シャクヤク)をメインに、明るく鮮やかなピンクと赤の花を束ねました。
目のさえるようなビビッドなピンクと、周りには可愛らしいクルクマやエリカを添えています。流れるようなリキュウソウもこの季節の爽やかな印象となるかと思います。
ゆっくり一歩ずつ、焦らず自分のペースで、再スタートに向けて歩いてもらえたらと思っています。

 

#18  描いていた青写真のようにはいかなくても 支えてくれる妻へ

《花材》芍薬、エリカ、アンスリューム、コチョウラン、クルクマ、リキュウソウ

(文・&編集部 大賀有紀子/写真・椎木俊介)

もっと読みたい「#ステイホーム with 花のない花屋」


  •    

    #20  離れていても、花で思いよつながって
       

       

    #20 離れていても、花で思いよつながって


       


  •    

    #19  ゆっくり待つのも、悪くない日々
       

       

    #19 ゆっくり待つのも、悪くない日々


       


  •    

    #17  大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて
       

       

    #17 大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて


       


  •    

    #16  ステージ4と診断されて…… 息子に今、してあげられること全部
       

       

    #16 ステージ4と診断されて…… 息子に今、してあげられること全部


       


  •    

    #15 ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛
       

       

    #15 ボタンの咲く時期に思い出す、母の愛


       


  •    

    #14 必要としてくれる人がいるなら、明日も明後日もその先も
       

       

    #14 必要としてくれる人がいるなら、明日も明後日もその先も


       


  •    

    #13 甘えたい盛りの息子 一緒にいる時間が増えたからこそ……
       

       

    #13 甘えたい盛りの息子 一緒にいる時間が増えたからこそ……


       


  •    

    #12 いつか来るその日のために、今できることに目を向けて
       

       

    #12 いつか来るその日のために、今できることに目を向けて


       


  •    

    #18  描いていた青写真のようにはいかなくても 支えてくれる妻へ
       

       

    #11 夫の単身赴任が急に解消 優しい気持ちを取り戻したい


       


  •    

    #10 毎日の食卓を華やかに飾りたい
       

       

    #10 毎日の食卓を華やかに飾りたい


       


  •    

    #09 妊娠8カ月。家族みんなが元気なだけで幸せ
       

       

    #09 妊娠8カ月。家族みんなが元気なだけで幸せ


       


  •    

    #08 精いっぱいのロマンチックを
       

       

    #08 精いっぱいのロマンチックを


       


  •    

    #07 ひとりぼっちで始まった社会人生活 早く会社で会いたい
       

       

    #07 ひとりぼっちで始まった社会人生活 早く会社で会いたい


       


  •    

    #06 ヨークシャーの大草原へ空想トリップしたい
       

       

    #06 ヨークシャーの大草原へ空想トリップしたい


       


  •    

    #05 言葉にしない優しさに気づかされた
       

       

    #05 言葉にしない優しさに気づかされた


       


  •    

    #04 自分と向き合う時間を大切にし、癒やしと幸せを感じたい
       

       

    #04 自分と向き合う時間を大切にし、癒やしと幸せを感じたい


       


  •    

    #03 リモートワーク生活も季節を感じて過ごしたい
       

       

    #03 リモートワーク生活も季節を感じて過ごしたい


       


  •    

    #02 唯一くつろげる場所で自然の美しさに触れたい
       

       

    #02 唯一くつろげる場所で自然の美しさに触れたい


       


  •    

    #01「会いたい」気持ちをハッピーに伝えたい
       

       

    #01「会いたい」気持ちをハッピーに伝えたい


       

  • >>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    #18  描いていた青写真のようにはいかなくても 支えてくれる妻へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

    facebook

    instagram

    http://azumamakoto.com/

    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


    #17 大輪の花を咲かせた母のように、自分にも力が満ちる時を信じて

    一覧へ戻る

    #19 ゆっくり待つのも、悪くない日々

    RECOMMENDおすすめの記事