上間常正 @モード

レナウンの経営破綻が示す、今の時代が陥っている問題

アパレル大手のレナウンが5月15日、業績悪化のため東京地裁に民事再生法の適用を申請した。意外ではなかったとはいえ、そのニュースはいささか複雑に心を揺さぶるものだった。もう半世紀以上前からの忘れていた記憶を次々と思い浮かばせて、そして同時に今がどんな時代なのかを鋭く示しているようにも思えるからだ。

レナウンの経営破綻が示す、今の時代が陥っている問題

多くの有名ブランドを展開するレナウンのウェブサイト

テレビで流れていた「イエイエ娘」のCMシリーズ(1967年)を覚えている方も多いだろう。小林亜星が作詞・作曲した歌(曲名は「イエ・イエ」だったと思う)に乗せて、ポップな色彩のイラストと、ニットのミニスカートとブーツ姿の3人のモデルが交差する演出は、時代を画するほど新鮮だった。国内のCMフェスティバルでグランプリを受賞、アメリカでも部門最優秀を獲得。この業界では「イエイエ以後」という言葉が生まれたほどだった。

レナウンの経営破綻が示す、今の時代が陥っている問題

イエイエ娘のポスター

レナウンはその後も次々と斬新なCMシリーズを打ち出した。当時はまだ頭でっかちの学生でイエイエ娘にはまったく関心がなかったが、メンズブランド「ダーバン」でアラン・ドロンを起用したことはよく覚えている。特に彼が黒のジャケットとブルーのワイシャツに合わせていた暗い色のニットのネクタイが印象的だった。そのせいか、筆者は今でも、ネクタイはほとんど黒か濃紺のニットタイしかしないほどだ。

レナウンの経営破綻が示す、今の時代が陥っている問題

「ダーバン」の広告キャラクターにフランスの俳優アラン・ドロンを起用(1970年代)

ビートルズのリンゴ・スターと米国の俳優ピーター・フォンダを起用したカジュアルブランド「シンプルライフ」のCMやアーノルド・パーマーのロゴマークなども、どこか心の隅に残っていた。

ファッションを取材するようになって、レナウンは国内アパレルでは他社とは異なる特色があることに気づいた。企業としてのアパレルは他分野と同じで、男性中心社会なだけではなく、意外なほど体育会系的な雰囲気が強かった。そんな中でレナウンには、そんな体質とは無縁の自由で闊達(かったつ)な人柄の人材が多かった。

イエイエ娘以後のテレビ広告を宣伝部員として制作した今井和也氏は、その代表的な一人。東大美術史学科を卒業後、映画監督になろうとしたが映画会社の採用試験にすべて失敗、レナウンには仕方なく入社したという。宣伝部長、専務取締役を経て退社後は、大学教授としてユニークなファッション史を講義した。

毎年1回の長期休暇をとって、パリで見応えのあるスケッチ画を描いていた広報部長もいた。社内デザイナーも、他社と比べると女性の比率が高かった。社内各部への取材でも、そんなことまで率直にしゃべっていいのかしらと当惑してしまうことも多かった。

レナウンは1902年に大阪で繊維卸売会社として創業。第2次世界大戦の影響などで44年にいったん会社が消滅したが、46年に東京編織として再スタートし、67年から社名が今のレナウンになった。90年12月期には売り上げ2317億円の最高額を記録したが、バブル崩壊で業績が悪化、2010年に中国の繊維大手、山東如意科技集団の傘下に入って経営再建を目指していた。

レナウンの経営破綻が示す、今の時代が陥っている問題

1990年、レナウンは国際的ブランド「アクアスキュータム」を買収(写真は同年、東京・銀座の松坂屋)

アパレルの国内売り上げは1991年の約15兆円をピークに、2018年には約9兆円と減り続けている。大手アパレルの店舗の中心だった百貨店の集客力が90年代前半を境に落ちていることや人口そのものの減少などの影響によるとされている。しかし、今回のレナウンの経営破綻(はたん)の直接の引き金は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛要請によるものと言えるだろう。

だが破綻したもっと大きな原因は、過去の成功体験に引きずられて時代の変化へ敏感に対応できなかったことだと思う。もうだいぶ前のことだが、今井氏にインタビューした時に「大切なのは前のことを忘れて挑戦すること。何度も失敗したけれど、それしかない」と語ったのを今になって思い出す。レナウンに限らず、オンワード樫山や三陽商会、ワールドなど他の大手アパレルもそれぞれの特色があった。

いま問題なのは、アパレルのクリエーションの質の高さを支えていた個性や挑戦精神が、ファストファッションとの競合による低価格化の圧力によって失われてきていることなのではないだろうか。

そして、この問題はファッションに限らず、他の分野でも全体として同じ状況に陥っていることだ。さして毒性が強くもないかもしれない新型コロナウイルスの出現は、伸びやかな挑戦心と個性を忘れて過度の自粛に陥っていることへのアラームとも受け取れるのだ。

レナウンは今後、1カ月をめどに新たなスポンサーをみつけて再建を目指すことになるが、ぜひうまくいくことを期待したい。なくなってしまうのはあまりにも惜しい会社だからだ。

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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