このパンがすごい!

〈お取り寄せ〉この顔、本物。妥協なき探求が生んだ、迫力のカントリーブレッド/Baking Garage Harimaya

Harimayaの「カントリーブレッド」。この顔つきは本物だ。世界標準のでっかさ、黒光りする焼き色。飛び出してくるみたいに勢いよく上へとふくらんだ迫力のボリューム感。見ているだけで、「抱きかかえてみたい」と思ってしまうのだ。

皮の香りががつんとくる。切り開けば、中身からはさわやかな種の風味とともに、黒糖のような甘さ、さつまいものような香りが立ちのぼってくる。驚くべきは、重厚なパンがじゅわっとサイダーみたいに消えていくこと。でんぷん質の後味が湧き上がり、喉(のど)がしみじみと甘い。

妥協なきハードパンをがんがん焼きあげる旅田勇人シェフだが、以前はそうではなかった。バラエティー豊かにアイテムを揃(そろ)えた、いわゆる町のパン屋。テレビで取り上げられたメロンパンが飛ぶように売れ、製造に追われる毎日の中で、自問自答を繰り返した。

「作ってる意味あるんかな。このままでいいんかな。疲弊感ばかりがつのっていきました」

〈お取り寄せ〉この顔、本物。妥協なき探求が生んだ、迫力のカントリーブレッド/Baking Garage Harimaya

バゲット断面

ドル箱だったメロンパンをすっぱりとやめ、プレーンな食事パンを作ることに舵(かじ)を切る。そんなときYouTubeで、カントリーブレッドの元祖・タルティーンベーカリーの動画を目にした。

「ものすごい衝撃を受けました。外国のパン屋さんってかっこええなと。それからですね、外国のパン屋さんを深掘りするようになったのは」

来る日も来る日もカントリーブレッドを焼きつづけ、納得のいくものが焼けるようになるまで3年。さまざまな国産小麦を試したのち、ついにカリフォルニアで製粉されるセントラルミリングの小麦粉(タルティーンも以前使用していた)と出会ったのだ。

「できたんですよ、あの西海岸のパン、あっちの匂いのするパンが。カントリーブレッドは、上にふくらませる強力な力が求められる。小麦粉に含まれるグルテンの質の問題が大きかった」

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ある日のオススメパンセット

他にも様々なファクターが組み合わさっている。100%以上という高加水(通常の1.5倍)。そんなやわらかい生地を、だらっと垂れ下がらせず、上へふくらませるのは、生地を折りたたむように丸めるハイレベルな成形があってこそ。外国のベイカーの動画を見て独学したという。旅田さんも自身の動画をアップしているが、目にも留まらない速さで、なにをどうしているかわからない。旅田さんは不思議な言葉でそれを解説する。

「パン生地を透明な風呂敷で包むイメージ。パン生地をたたむ、と考えるとうまくいかないんです。そうすると圧着しちゃって、気泡が潰れてガスが抜けてしまうので、ふくらまないんです」

その生地を280℃もの高温で持ち上げ、焦げ寸前まで追い込む。情熱の焼きが生むコーヒーのような香ばしさは旅田さんのパンすべてに共通するものだ。

自家培養発酵種の香りも然(しか)り。鼻をすーっと通るアルコールのようなニュアンスと、ブドウのようなフルーティーな香気、そして土蔵の内部で嗅ぐような、なつかしい香りを含んでいる。ある種のイタリアワインの赤に似ている。

「年を重ねたおかげか、ここ1年、風味も発酵力もよくなりました。以前は、生命力を感じなかった。それが、いろいろ気を使わなくなったら、“生きてる感”が出てきた。種との付き合い方を覚えたというか。種のほうもそうやと思う。お互い探り合いをしてたんやろうな」

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手ごねカンパーニュ

旅田さんはすべてのパンを「手ごね」で作る。去年の秋、急に思い立って、ミキサーを使うのをやめたという。

「ミキサーだと時間で考えがち。もう1分長くミキシングしようとか。そういうことって、パンの本質じゃない気がして。ミキサーだと、ミキシングしながら他のこともしちゃうでしょ。そこに意識がない。ミキサーを使わなくなったのは運命。なるべくしてなったと思います」

旅田さんはレシピを見ないという。ただ、作る。生地に呼ばれるがままに。

「考えやんと、『こんなぐらいかな』ってやってます。ルーティン化、マニュアル化を意識的に避けるために。同じことを繰り返す仕事だが、どこかしら変化させたい。毎日同じもん作ろうとしていない。日記みたいなもん。『今日の僕のパンこんなでした』みたいな」

最後のファクター「自家製粉」。パンの骨格はセントラルミリングで作り、風味は日本の小麦を自家製粉することで得る。現在は滋賀県・大地堂の「ディンケル小麦」をブレンド。

自家製粉の魅力が顕著に出ていたパンが、「キタノカオリ全粒粉100%(※)」。北海道十勝の自然栽培農家・中川農園のキタノカオリを自ら石臼で挽(ひ)いた粉を100%使用する。重さに驚いた。れんがか?と。香りに驚いた。焦げ寸前のこの旨味(うまみ)はステーキか?と。

(※原料が手に入らず販売終了。長野県なつみ農園のユメアサヒに変わっている)

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ユメアサヒ全粒粉100%

麦の香りだけなら、カントリーブレッドを超えている。じゅわっと溶けては甘さが湧きあがる。スパイシーさはジンジャーを、すーすーする清涼感はカルダモンを思わせる。装甲車のように武骨なのに、中身はしっとりして、全粒粉の粒がさわさわと舌を撫(な)でる。でんぷんのやさしい風味はキタノカオリならではのものだ。

プレーンな食事パンに注力しはじめたのと同じタイミングで国産小麦を使うようになり、パンとの向き合い方が変わったという。

「生産者さんから小麦をいただくことになって、ご苦労も思うようになった。以前考えてたのは、100の素材を技術で120にすること。実はそうじゃないんじゃないかな。エゴを出すと邪魔にしかならない。いまは自分の色を出したくない。それは素材を損なうことにしかならないから。自分がいかに素材を損なわずに、100のままでお客さんにお渡しできるかだと思います」

素材が100のまま表現されることの感動を、私は旅田さんのパンに感じている。

Baking Garage Harimaya
和歌山市塩屋5-7-58
073-460-7825
11:00〜16:00(売り切れ次第終了)
日月休
お取り寄せ Instagram @hayatotabitaで告知

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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