上間常正 @モード

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

新型コロナウイルスの感染がまだ広がる一方で、経済生活の再開・再建に向けた動きも少しずつ進んできている。しかし多くの人々は、できれば感染しないで済ませようと、以前のように無防備で街に出たり人と会ったりしようとは思っていないだろう。それだけではなく、いったいいつまで続ければいいのか、なぜこんなことになってしまったのか?と考えている人も少なくはないと思う。

過去にはもっと致死率が高いウイルスや細菌があったのに、今回の新型ウイルスは、なぜこれほど世界的な大混乱を巻き起こしているのか? その原因はこのウイルスの性質というより、人の移動や情報の速度と範囲がかつてよりも極端に大きくなっているからだと思う。わずか数カ月前の普通の生活が、遠い過去のことのように感じてしまうのだ。

新型ウイルスの出現は、21世紀になってからの重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年に中東で発生したMERSも含めて、畜産の工業化、都市化の拡大、森林伐採、第三世界でのスラムの人口爆発などが急速に拡大していることが背景にあるといわれている。今回の事態は、このような破局に私たちが直面していることを実感できる形でうかがわせた、世界で最初の出来事だと指摘する学者もいる。

そんなことには目をつぶって、閉じこもってがまんをしていれば、いつかはまた以前の生活に戻れる、と思う人もいるだろう。しかし、もう元には戻れないし、そうすべきではないと感じている人のほうが多いと思う。では、どう変わっていけばよいのか?

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

(c)getty images

ファッションがテーマのコラムなのに、コロナウイルスの話を長々と書いてしまったが、この問題は、実はファッションと深く関わっている。その理由は二つある。

世界がどう変わっていけばよいかを理念や科学技術で考えるやり方もあるが、本当に変えていくためには、一人ひとりが生活の中で育んでいく思いが結集した力が必要で、そんな思いとは、どんな服を着るのかという日々の決断と折り重なるはずであるということ。

もう一つは、ファッションのクリエーションの世界では、ビッグブランドも含め、次の時代への変革を目指す感覚的な提案をすでに発信し始めているということ。ファッションの表現は他のアート分野と違って、あくまでも着るための道具であり、在庫を残せない商品でもある。それだけに、時代の変化にとりわけ敏感でなければいけない。

このコラムでは、そうしたファッションの提案だと思える例を、これからも紹介していきたい。今回はブランド「ロペ」の中の派生ブランド「ロペ エターナル(ROPÉ ÉTERNEL)」のユニークな期間限定プロジェクトについて。

コロナがきっかけで始動 「ロペ エターナル」のアップサイクル

ロペは、1958年創業のメンズブランド「ジュン(JUN)」のレディースブランドとして68年にスタートした。ジュンと同様に、英米系のカジュアルトラッドとは違って、地中海ヨーロッパ系の素材も重視した端正なエレガンスを打ち出した。「ロペ エターナル」はロペ50周年を機に、ロペの理念をもう一度見直して「海と風と太陽に捧ぐ」をテーマに新たな若さを加えたブランドだという。

限定プロジェクトは、これまでの服のコレクション残布で日常的に使える小物類を制作した試みだ。

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

ピュアリネンの大型ショッピングバッグ(ドレスと共布)

たとえば、小旅行やジム通いにでも使えそうな大型のショッピングバッグ(7000円)、より小型のミニショッピングバッグ(5000円)は、数百年の伝統をもつベルギーの高級リネンメーカー「リベコ社」の、ざっくりとした風合いの軽くて丈夫な布でできている。内ポケットが両側の使いやすい位置にバランスよく付けてあり、肩にかけたシルエットも素材の質感の高さもあってかなり美しい。

3本の繊細な綿糸をより合わせ、それを強度の高い綿のギマ糸と交互に組み合わせて織り込んだスリーピング・スロー(寝室用ショール、6000円)は、布の表と裏の印象が異なるが、どちらも立体感のある繊細な表情があって、包みこまれるような柔らかい手触り。家庭での手洗いもできる。浜松でしか扱えない古いドビー織機で時間をかけて織り込んだもので、高速織機では決して作れないという。

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

細い綿糸とギマ糸を組み合わせたスリーピング・スローとピロー

今回のプロジェクトは、スタッフのうち約10人が1カ月半くらいかけてアイテムのデザインから実際の製作まで、自社アトリエでほぼ有志の形で担当したとのこと。広報担当の佃今日子さんは「直接のきっかけはコロナでしたが、こんなことをやってみようとの思いはもっと前からあった。ものづくりの原点に戻るような刺激的な体験になりました」と語る。

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

英国の古いレース素材のショーツやハンカチも

残布を美しい小物に。ものづくりの原点見直す「ロペ エターナル」のプロジェクト

ROPÉアトレ恵比寿西館店の売り場

限定コレクションの第1弾は6月5日からスタート。東京のアトレ恵比寿西館3階の店とネットストア「ジャドール ジュンオンライン」で同時に販売開始している。残布の量が限られているため、このプロジェクトは9月まで、毎月1回ずつ、4回に分けて新作を出す予定になっている。

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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