このパンがすごい!

ゆたかな菌の生態系をはぐくむ「パンの聖地」/宗像堂【通販あり】

米軍普天間飛行場からほど近い、亜熱帯の緑が濃い丘。米軍住宅だった建物に手づくりの薪窯を建てて営業する宗像堂は「パンの聖地」といわれる。私も宗像堂を訪れたとき、わくわく感とやすらぐような気持ちを同時に覚えたものだ。

発酵という微生物による営みと向き合うパン職人は、コロナウイルスについてどう考えているのか?というテーマで話を聞こうと思ったとき、真っ先に浮かんだのが、宗像誉支夫さんだ。琉球大学の大学院生だった頃、ウイルスの感染を阻止する方法について研究していた。その頃影響を受けたことのひとつが「細胞内共生説」である。

「生物進化に関しては、共生説をとっています。ウイルスや細菌類などとの共生によって、生物がさまざまな機能を獲得していって現在がある」

生物の起源に微生物との共生があるという考えは、私たちと微生物の関わりを考えるとき、新しい視点を与えてくれる。

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作業中の宗像誉支夫さん

パン職人へと仕事は変わったが、研究者時代に学んだことをベースに、発酵を探求する。発酵というミクロの世界に「場」が大きな影響を与えていると考え、宗像堂全体を「聖地」にしようと構想した。17年前の創業時、「土地の磁場を整えるという感覚で」敷地の地下に炭を埋めたのもそのひとつだ。

「あくまでイメージなんですけど、菌が自由に出入りできる状態にあり、それらの菌を空間が選択し、発酵するのが重要だと思っています。定着できる菌が、繰り返しかけ継がれることで、うなぎのタレみたいに深みと奥行きが出るのではないでしょうか」

宗像さんは目に見えない発酵の世界に、こんなイメージを持って挑んでいる。ありとあらゆる菌が混ざり合うダイナミズムがエネルギーを生み、人間にとっても心地いい場は有用な菌を選択してくれるのではないか。時間の経過によって、菌は変化し、さまざまな菌たちの堆積(たいせき)が起こりうる。干物のつけだれに、菌の豊かな生態系が見られるのと同じように。

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おまかせ便 3000円のセット

数年ぶりに宗像堂のパンを口にすると、味わいの解像度はより高まったと感じられた。まろやかなミルキーさとうっすらとした薪のスモーキーさのトーンで全体がまとまってはいるけれど、そこにたくさんの微細な風味がささやきあっている。甘さと思える中に、かすかないくつもの酸味を感じる。味わいが深まることによって、尖(とが)りではなく、一つの心地よさとして感じられているのだ。

パンを作る人の精神も、発酵に影響を与えるというのが宗像さんの信念だ。

「扱ってる人が人間的な成長をすることで、種もアップグレードするのではないでしょうか。だから、職場の空気も重要ですね。お客さんが運んでくる菌もあるだろうし。宗像堂が菌のコミュニティーと相似の関係にある。だからさぼれない。自分自身を前に進めていく作業をしないと、宗像堂もよくならない」

私が出会った、発酵種を自家培養する多くのパン職人が、発酵に「精神」が影響を与えることについて語ってくれた。それは、彼らが体験から得た未科学的考察である。科学がそれを証明する未来を待たずに、職人は、そして私たちパンを食べる者は、舌と鼻でそれを確かめる。そこに、作り手と食べ手との心が通う瞬間が存在しているのだ。特に、宗像堂についてはそのことを、はじめて食べた10数年前から強く感じてきた。

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バナナコクルレ

宗像堂の存在は、沖縄という場所抜きに考えられない。沖縄ならではの菌を予感させる熟れた香り。それは、「バナナコクルレ」では、バナナや黒糖といった南国の産物のバイブレーションと見事に共鳴しあう。「ライ麦カンパーニュ」では、明滅するようなおだやかな酸味が舌を刺激し、まるでエネルギーにふれているような感じがする。「プレーン角食パン」では、小麦の香りとあいまって、ジャスミンのようなさわやかさに感じられる。

宗像堂のパンを食べると、喉(のど)が甘くなり、その感覚は下っていき、食道や胃のあたりまであたたかくなる。それは、瞑想(めいそう)するときに得られる体験に似たものだった。

島外から訪れるたくさんの観光客によって支えられている沖縄。宗像堂も例外ではない。緊急事態宣言によって客足が途絶えるかと思われたが、パンを求める地元客が後を絶たなかった。

「精神的に追い詰められる人もいるような状況下で、自分たちのパンが選ばれていることに、深い感謝の気持ちが湧きました」

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店内風景

一方で、米軍普天間飛行場の緊迫した雰囲気が音として伝わってきていた。

「通常よりもたくさんの軍用機が飛びまわっています。窓の振動も激しい。朝から深夜まで続いています。近海に中国との危機があるのかもしれないと想像しています。基地のそばに住むということは、世界情勢を肌で感じるようになるものなんです。(もし有事があれば)南シナ海が封鎖され、沖縄への物流が止まるかもしれない。沖縄の自給率が33%(2017年度概算値、カロリーベース)では、食料調達はままならない。野菜、米、麦、芋などを計画的に栽培しなければならないと実感しています」

宗像さんは、小麦を育てている。鳥の害で全滅したこともあったが、今年は沖縄の風土にあった品種を品種登録する予定だ(民間での小麦の品種登録は画期的)。小麦だけでなく、そのほかのパンの材料を自給し、沖縄に食料危機がきても人々と分かち合えるようになったとき、宗像堂は本物の聖地になるだろう。

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ベーグル

宗像堂
沖縄県宜野湾市嘉数1-20-2
10:00~18:00
水曜休
098-898-1529
通販 http://munakatado.shop-pro.jp

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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