上間常正 @モード

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

時代を100年ごとに区切る世紀末には、たいていは100年の間に溜まった澱(おり)の中から、次の時代の方向を鋭く示すような文化的表現が生まれてきた。だが時には、そんな世紀末的表現が、次の世紀になってもずっと続くこともある。東京・目黒の東京都写真美術館で開かれている「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展を見ると、21世紀に入って20年にもなるのに、なんと長い世紀末に生きているのかと思わせられる。

20世紀の写真とファッション、ただならぬ関係

20世紀の写真とファッションは、ただならぬ関係だった。特に世紀後半以後は関係が深みにはまって、物としての服の必要性以上にイメージを消費する仕組みを作り出すことで、ファッション産業は劇的な急成長を遂げた。この仕組みは主に雑誌やテレビなどのメディアで、写真と言葉を組み合わせた表現によって人々に買う欲望をかき立てた。そうしたやり方は、車や家電など他の産業分野でも次々と採り入れられた。

進歩がほとんどなかった言葉の表現と比べて、写真はさまざまな技術の発達によって表現の幅を広げた。その結果、広告写真はファッションや言葉の枠組みを超えた表現を目指すようになった。1990年代はその時期だったのだろう。そしてその表現は、80年代までのモノやブランドイメージのためではなくて、自由なおもしろさを追求する表現への転換期でもあった。

服はオートクチュールがそうだったように、もともと注文して仕立ててもらう1点物だった。写真は絵とは違って複製可能な近代的技術だが、優れた写真家のオリジナルプリントは一点物の作品としての味わいがあった。しかしプレタポルテ(高級既製服)が主流になってファッション産業が急成長した中で、服と写真のそうした本来の味わいや魅力は、時代の流れの底に沈んでしまう。90年代の写真とファッションのおもしろさは、その沈殿物と底でつながっていたからなのだと思う。

今回の写真展では、その90年代以後からの4人の写真家の作品や、ファッションデザイナーを含む若手アーティストらとのコラボレーション作品、特別企画としてのインスタレーションなど約100点を紹介している。

中でも、写真展のポスターにも使われた、アンダース・エドストロームがマルタン・マルジェラの1994年春夏コレクションを撮影した一連の写真が目を引く。

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

アンダース・エドストローム 〈Martin Margiela spring/summer 94〉より 1993年 作家蔵 ©Anders Edström

マルジェラは90年代に活躍したベルギーのアントワープ発前衛派デザイナーの代表格で、古着やリサイクル素材の活用、年齢や体形、時には性別の枠から自由なデザインなどで、大量消費社会を象徴するファッションシステムそのものへの疑問を発し続けた。この春夏コレクションでは、自らが過去に発表した服をモノクロでリメークした服だけで構成して、服が毎シーズンの“新しさ”をことさらに打ち出すことへの疑念をぶつけた。

エドストロームは、1966年スウェーデン生まれ。90年にパリに移住してマルジェラの作品撮影を長く手がけた。写真はほぼモノクロの強いタッチで撮られていて、モデルの頭の先や足先、または顔全部をカットしたり、逆に服は写さずに顔だけだったりと、コレクション写真とは思えない大胆な構図になっている。こうしたエドストロームの表現手法は、近代写真の表現が広がる中で、写真がもつ即物的な記録性にあえてこだわることで、近・現代社会の矛盾や失われていくものを表現しようとした一つの底流とつながっているように思える。

高橋恭司の《Tokyo Girl》と題した写真は、ファッション誌『CUTiE』1992年6月号の巻頭特集で撮影された1枚。花柄のブラウス・壁紙とリーゼントカットで腕を組むポーズの強いミスマッチをやはり即物的なタッチで表現している。そしてそれはブランドイメージではなく、自分で選んだ服で楽しみたいとの気持ちが伝わってくる。

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

《高橋恭司 Tokyo Girl》〈The Mad Broom of Life〉より 1992年 作家蔵 ©Kyoji Takahashi, courtesy of nap gallery

1962年東京生まれのホンマタカシが二人組のデザイナー・レーベル「PUGMENT(パグメント)」とコラボした、迷彩柄のミリタリージャケットと白いパンツ姿の若い女性を沖縄で撮った写真。また、パグメントが路上にいったん落とした服を撮影して、それを同じ場所で撮った写真にはめ込み細工のようにして撮影し直した写真。そして、今回の写真展のために企画したパグメントの服のインスタレーションからは、服の再生という未来に向けた重要なテーマが思い浮かぶ。

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

PUGMENT×ホンマタカシ〈Images〉より 2019年 作家蔵 ©PUGMENT/©Takashi Homma

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

PUGMENT〈Magnetic Dress〉より 2014年 ©PUGMENT

次の時代の方向を示す「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展

PUGMENTの服によるインスタレーション

今回の写真展の作品は、いわゆる前衛派や東京の若手デザイナーの服であることが特徴で、老舗ブランドなどを含めたファッション全体の写真作品の芸術性の高さを代表するというわけではないだろう。しかし、マルジェラの作品があったこと、そして経済的豊かさでは世界のトップに登り詰め、いち早く長期的停滞に陥った日本から生まれた写真家、デザイナーを取り上げたことで、この写真展は見るに値する貴重な企画といえるのだ。
    ◇

「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」
【会期延長】2020年7月19日(日)まで
東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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