川島蓉子 コロナ後の暮らし

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

新型コロナウイルスによる自粛生活は、私たちの生活をどう変えたのか? 「withコロナ時代」を経て、その先にある暮らしにはどんな価値観が定着していくのだろうか? ifs未来研究所所長でジャーナリストの川島蓉子さんが、各界の気になる人たちに問いかける連続対談。混沌(こんとん)とした世界にあって、私たちが自分らしく、さらにより良く生きるためのヒントとなる対談をお届けします。

第2回のゲストは、「WWD JAPAN.com」編集長の村上要さん。既存のシステムに対する疑問を突きつけられていたファッション業界は、新型コロナでどう変わろうとしているのか? ファッショニスタのお二人が語り合いました。(構成・坂口さゆり)

 

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長
コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

 

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

村上要(むらかみ・かなめ)

WWD JAPAN.com編集長。1977年生まれ。東北大学を卒業後、静岡新聞社に入社し、編集局社会部記者として事件や事故、裁判などを取材。退職後、ニューヨークの州立ファッション工科大学(F.I.T.)でファッション・ジャーナリズムなどを学ぶ。現地の“『プラダを着た悪魔』生活”を経て帰国。INFASパブリケーションズに入社して、「ファッションニュース」編集長、「WWDジャパン」編集長代理などを経て、2017年4月から現職。

 

暮らす町の価値を感じるようになった

川島蓉子さん(以下、川島) 村上さんにとって、ステイホーム生活はいかがでしたか。

村上要さん(以下、村上) オフィスはまだテレワークが続いているんです。僕は週に2回、多くて3回出社しています。2月にこの態勢が始まり、早4カ月以上ですが、生活はおおむね快適ですね。当たり前だった通勤電車から解放され、すごく自由になったと実感しています。

それと、自分が住んでいるローカルな町の価値みたいなものを感じるようになりました。表参道や銀座などから、居場所がご近所にシフト。町の人たちとのコミュニケーションが深くなりました。

川島 お住まいの町を大切にしているんですね。どんなふうに深まったのですか。

村上 僕は派手なファッションが好きだし、普段からちょっと変わった格好をしているじゃないですか(笑)。住んでいるのは、各駅停車しかとまらない横浜の小さな町なので、こうした格好をしていると目立つ。地元の商店で買い物をすることになって、「前々から『一体何者なんでしょう?』と思っていたんです」と話しかけられて会話が生まれたり(笑)、ご飯を食べていた飲食店がテイクアウトだけになってしまった時は、お互いに励ましあったり。

自粛生活で料理もするようになりましたね(笑)。多くの人の幸せの定義が、自粛生活を経てそれぞれ変わってきてますよね。

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

村上要さん

洋服を買う意味をきちんと考えるように

川島 村上さんは今、幸せをどのように定義されますか。

村上 これまでの「便利」とは、町で買えたモノを家にいながら買えるなど、手段は異なるのに、同じような体験を追求するものだったと思います。町のお店は夜8時にしまってしまうけれど、Eコマースなら24時間買えるし、翌日、場合によっては同日受け取れてしまうという、バーチャルなのにリアルに負けない、あるいはリアル以上の「便利さ」です。

ところが、自粛生活によってみんなゆっくり歩くようになって、異なる体験の価値を再認識している。早さ・速さにフォーカスしがちだったネットの「便利」さえ、未知との出合いやコミュニティーへの所属欲をかなえる「便利」にシフトしていくと思っています。

僕自身も、物質的なものによって得られる幸せから、何かに属している、とか、自分らしく生きている、みたいなことに幸せを感じるように変化しているのは間違いありません。実際、洋服を買う頻度は減っています。

川島 村上さんがそうなんですね。

村上 洋服を買う意味をきちんと考えるようになりました。以前だったら「とりあえずこれを持っていたら使えるかも」くらいの買い方だったんですが、今は、この洋服を買ったら自分のどのライフスタイルに差し込めるだろうか、と考えるようになりました。買う・買わないの判断も、メディアから受け取る情報よりは、自分の生活に根付いたところになるんだろうと感じますね。

服を売る側も、本当に作りたいものを作るように

川島 「ファストファッション」という言葉があるように、ファッション業界は、均質で早く、大量に商品を回すことに与(くみ)していたところがあります。この新型コロナで、必要なものとそうでないものが明らかになってきました。既存のシステムに対する疑問が突きつけられた業界は、今後どうなっていくと思いますか。

村上 わかりやすいところでは、モノの生産量は減ると思います。川島さんがおっしゃるように、コロナ以前から洋服は「こんなにいらないよね」と言われていましたから。その一方で、新たなファッションが生まれ、消費者は好きなモノを買う。そんな当たり前の形になるのではないでしょうか。

川島 作れる量には限りがあるから、本当に好きな物を作ってみようという動きが増えるということでしょうか。

村上 そうですね。例えば、グッチは次のシーズンくらいからはEコマースの一部でメンズやウィメンズの区別をやめると言います。そういう売り方はもはや意味がないと。渋谷パルコのグッチは、売り場をジェンダーで分けていません。ブランドが好きなものを作るから、消費者も好きなものを買えばいいんです。今日、僕が着ているトップスはZARAのウィメンズなんですが、男性でも好きならウィメンズを着ていい時代です。作る側もそうなるのではないでしょうか。

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

グッチ渋谷パルコ(Courtesy of Gucci)

川島 一方で、緊急事態宣言が明けた途端、いきなりセールをしているショップが気になりました。春夏が売れていないのは理解できます。だから、セールをせざるを得ないということも。ただ、こういうことをすることで業界の首を絞めないか、と心配になります。

村上 絞めているでしょうね。決算会見などを聞いていても、コロナ以前に戻ることを目指している経営者はたくさんいます。彼らは「元に戻る」のが基本だから、そのためにはどうするかという思考回路だと思うんです。そうした企業は残念ながら、企業理念や企業のミッションも不明瞭なことが多い。一方で、僕のように「もう元には戻らない」と思っている人たちもいます。つまり、戻らないからこそ「新しい何かを」と思っている人たちです。そこがどうせめぎ合い、どちらの方向に転んでいくのか。ファッション業界のこれからは、ちょっと面白い時代だと思います。

ファッションの範囲が拡張していく

川島 リモート時代のファッションで言うと、これから変わっていく感じはありますか。

村上 短期的にはそれこそ上半身コンシャスの流れが顕著です。ファッション業界人が気づけるかどうかだと思うんですが、今僕たちが使っているこの「Zoom」のフレームだってファッションじゃないですか。僕はこの(画面に映っている)背景はすごく僕を表現していると思っているんです。

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

Zoomでの取材に応じる村上さん

川島 自己表現ですね。

村上 フレームもファッションだと思っているんです。Zoomを使う人はおわかりかと思いますが、参加者の画像の下には名前が出てますよね。例えばそこに、ルイ・ヴィトンのロゴを100円とかで買えるようになり、村上“LV”要、みたいに名前をカスタマイズできる時代が来るかもしれない。

Zoomのフレームを売るというビジネスも始まっているようですし、任天堂の人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」では、ヴァレンティノやマーク・ジェイコブスがキャラクターの洋服を提供し始めています。今後は、すごく美しい声を開発して販売するブランドも出てくるかもしれない。あらゆるコミュニケーションがファッションである、とファッション業界が気づけるようになると、もっともっとファッションが拡張するんだろうなと思っています。でも、なかなかそれに気づけそうもないかな、とも思っているので、可能性は五分五分でしょうか。

川島 変化に気づく人たちは動き始めていますよね。

村上 そこはビューティーのほうが早いですね。たとえば、ロレアルは「スナップカメラ」と協業し、Zoomなどのビデオ会議に使えるフィルターを開発しました。

フレームの画像にリップの新色カラーを載せることも、そう遠くない将来、実装できるらしいですよ。ビューティーはファッションと違って、半年ごとにリセットされるビジネスではないので覚悟が違う。緻密(ちみつ)なビジネスを行っています。

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

ロレアルUSAは、スナップカメラと協業してフィルターを開発。ガルニエ、ランコム、ロレアルパリ、メイべリンといったロレアル傘下のブランドによるメイク、ヘアカラー、背景が楽しめるサービスを、この4月に発表した(7月現時点では利用できない。日本での展開は未定)

ネットでの買い物が加速 問われる「リアル」

川島 新型コロナの問題があったことで、私はファッション業界におけるリアルの意味がくっきりしてきた気がしています。もちろん全部がオンラインでもないと思いますよ。デザイナーとつながりたいとか、ブランドの世界観がウェブに展開されていても、リアルなポップアップストアやトランクショーで見たいという消費者は残りますよね。

村上 ネットで買い物する人の数や頻度、購入額が増えても、ここぞというときはリアルがいい、という考え方になると思います。

川島 リアルの希少価値が増しますね。

村上 そうですね。その分、リアルで得られるさらに素晴らしい体験を、と考えるのが、今後の賢いリアルイベントの開き方なのかな。薄く広く華々しくというよりは、深く狭く知的にという感じになっていくだろうなという気がします。

川島 やはり百貨店やファッションビルには買い物客はなかなか戻らないかしら。

村上 難しいかもしれませんね。もちろんリアルのつながりを求めて百貨店などのリアル店舗で洋服を買う方は、一定数はいらっしゃると思います。ただ、若い世代がそれをするのは年に数回でしょうし、普段の買い物はデジタルでいいよね、という人がほとんど。返品の恐れがあるから日本ではなかなかEコマースが伸びませんでしたが、簡単に返品できるシステムが整っている米国やアジア諸国のようになったら、日本でも多くの人が利用すると思います。

日進月歩のモバイルの動きにも注目で、ファッション業界に大きな影響を与えます。僕は来年くらいには、スマートフォンの上にホログラムが現れて、そこで見たいモノを見られる時代になると思っているんです。そうなるとさらに、Eコマースのハードルが下がる。

ファッションは、デバイスの進化と、マインドの変化と、ジェネレーションの移り変わりが同時に起きていくマーケット。複数のファクターが同時に動いていくマーケットなので、ものすごく速く変わっていくのだろうなと思っています。

川島 それは面白い。希望を持ってファッション業界の変化を注視していきたいです。

    ◇

次回、川島蓉子さんがゲストに迎えるのは、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長です。
7月15日(水)配信予定。どうぞお楽しみに!

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