花のない花屋

特別な時間 娘のマイペースさのおかげ

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

〈依頼人プロフィール〉
坂本ゆうさん(仮名) 44歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

中学2年生の長女は、超がつくマイペース。夏休みの宿題が終わらずに新学期になっても平気なタイプです。私は何ごとも前倒しで行動するたちなので、彼女のゆったり構える姿を信じられない気持ちで見ていました。

でも、新型コロナウイルス感染対策の長い自宅待機生活で、これは長女の良いところでもあると気付きました。

娘の中学校と長男の小学校は3月から休校になり、私も在宅勤務中心に。6月に通学が再開するまで、父親を除く親子3人が週7日、24時間一緒に自宅で過ごすことになりました。イライラすることがあってもおかしくないのに、長女はここでもマイペース。元気が有り余っている長男がちょっかいを出し邪魔をされても、嫌な顔ひとつせず一緒に盛り上がっていました。私の小言も淡々と受け止め、小さな失敗は笑い飛ばす。明るく冷静沈着、盤石の安定感なのです。中学生のわが子の精神力にこちらが助けられるとは思ってもみませんでした。

わが家は夫も私も野球ファン。その影響か、長女も小学生の時にソフトボールを始め、野球が好きで好きで大好きな子に育ちました。中学でもソフトボールか女子野球をやりたかったようですが、進学先にはどちらの部活もありませんでした。するとまさかの野球部のマネジャーに就任。女子はひとりだけの環境ですが、練習や遠征に忙しく、休日もスコアの清書に追われ、全力で部活を続けていました。

弟の少年野球チームの講座でプロの栄養士さんの話を聞いたのをきっかけに、「スポーツ栄養士」という、選手などの栄養サポートを行う資格に興味を持ったようです。これまでは塾や部活に追われ、実際に料理をする機会はないままでしたが、今回の自宅待機の時間を生かして、毎晩おかずを1品、2品と作るようになりました。

デビュー戦の肉巻きは味付けをちょっと失敗してしまったけれど、鶏ハンバーグもあんかけも上々の出来でした。共働きの我が家では、夕食は前夜に作り置きしておくのが基本でした。作りたての夕食を味わいながら、娘のおかげでステイホームはなんだかいいことがいっぱいだなと思いました。

とはいえ、長女の心中は複雑だっただろうとも思います。春から部活が出来なくなり、「3年生の先輩はこのまま引退かもしれない」「後輩マネジャーを勧誘したかったのに」と嘆くこともありました。彼女の今の夢は「プロ12球団の本拠地全部で試合を観戦すること」。ゴールデンウィークには家族で応援旅行をしようと計画していたのですが、こちらもお流れになってしまいました。

がっかりすることも多いなか、真面目に自宅にこもっていた長女をびっくりさせて、明るい気持ちになってもらえたらと思っています。あなたのおかげで特別な時間を楽しく過ごせているよ、日々の成長を頼もしく思っているよ、ありがとう。そんな気持ちを込めてお花を贈りたいです。

好きなことには本当に一生懸命な娘です。学校の自由課題のリポートのテーマを野球にするくらい、野球が生活の基本になっています。 好きな色はオレンジと黒。好きな球団のチームカラーです。野球をテーマにした花束、というのは可能でしょうか。どうぞよろしくお願いします。

花のない花屋

《花材》アーティチョーク、バラ、ガーベラ、ケイトウ、トリトマ、アルストロメリア、スプレーカーネーション、サンダーソニア、サンタンカ、ヒメユリ、ブラックタイ

花束を作った東さんのコメント

野球がお好きな娘さんということだったので、選手がグラウンドで走り回っている躍動感を出すアレンジにしました。お好きな球団のカラー、オレンジのお花を使い、周りのリーフは黒でかっこよく。真ん中に置いたアーティチョークは白球をイメージしています。
アーティチョークの周りを、サンダーソニアというホオズキのような形のお花やトリトマ、スパイダー咲きのガーベラなどがぴょんぴょんと飛び出しながら囲っています。ビビッドなオレンジのようなビタミンカラーは、見ているだけで心も明るくなりますよね。娘さんがまたマネジャーとして、大好きな野球に全力で取り組めるようになる日々が早く訪れることを願っています。

花のない花屋

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花のない花屋

(構成・深津純子/写真・椎木俊介)

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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    特別な時間 娘のマイペースさのおかげ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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