明日のわたしに還る

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

歌手、俳優、イラストレーター、ファッションデザイナー、テキスタイルデザイナー……と多彩な顔を持つ篠原ともえさん。「ポップ」「キュート」という言葉の枠におさまり切らない卓越したセンスで、独自のクリエーションを切りひらいてきた。開催中の展覧会「『SHIKAKU』展―シカクい生地と絵から生まれた服たち―」で、また新しい顔を見せている。

衣装をデザインする中で、残布の問題はいつも心に引っ掛かっていた

展覧会では、篠原さんがデザインから制作まで、すべてを担った6点の衣装が並ぶ。テーマは「四角」。素材となる布地に余りが出ないように、布全体をつなぎ合わせながら、グラデーション、レイヤー、バルーンと、多様な色合いとシルエットをつくりだしている。

「小さいときから、わら半紙に絵を描くことが大好きで、私のものづくりとデザインは、そこからすべてがはじまっている感じなんです。『四角』をテーマにしたのは、絵を描くキャンバスの形から。布地も四角いですよね」

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

「Drawing CROSSHATCH 1」by Tomoe SHINOHARA

歌手、タレントとして縦横無尽に活躍していた篠原さんが、衣装デザイナーとしても認められるようになったのは、2013年に松任谷由実のステージ衣装を手がけてから。以来、嵐のツアー衣装も連続して担当し、新たな領域を切り開いてきた。今回、「余り布」にこだわったのは、なぜだろう。

「衣装をデザインする中で、残布の問題はいつも心に引っ掛かっていたんです。見た目はキラキラと華やかな衣装たちですが、その裏には大量の余り布が出ている。サステイナビリティがいわれる時代に、それはどうなんだろう……と」

大量の余り布を目の当たりにし、「捨てるならちょうだい!」と引き取って自分用のスカートをつくることもあったが、葛藤はなかなか消えなかった。「余り布を出さずに、面白いデザインはきっとできる。そんな思いをもとに、1年がかりで取り組んだのが、今回の展覧会なんです」

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

Photo by Sayuki INOUE

「シノラー」はいとしい孫みたい(笑)

「篠原ともえ」といえば、1990年代後半の「シノラーブーム」の印象が何といっても強烈だ。ぱっつんと切った前髪、頬に星形のシール、原色の服にアクセサリーをじゃらじゃら。そんな不思議なファッションは、追随する「シノラー」を生みだし、社会現象にもなった。ところが今、目の前にいるのは、シックなシャツをまとい、ぐっと落ち着いた雰囲気の女性。本人にとって、過去と現在はどのようにつながっているのだろう。

「ギャップを感じませんか、と聞かれることもありますが、自分としては、ずっと一本の線でつながっています。あのころの自分は、いとしい孫みたい(笑)。10代で芸能界に飛び込んで、いろいろな大人に囲まれて、テレビ局のスタジオはおろか廊下や会社の雰囲気まで、見るもの聞くものすべてが珍しくて新鮮で、その中でめいっぱい頑張っていた。当時、ファンの方から『ともえちゃんを見て、私も服をつくりたいと思った』と言われて、とてもうれしかったことは、今でもよく覚えています」

多忙なタレント活動の一方で、文化女子大学(現・文化学園大学)短期大学部で、服づくりの勉強にも取り組んでいた。根底には「デザインの世界に対するマナーとして、常に学んでいないと不安になる」という、生真面目な素顔がある。2019年には、服づくりの基礎となるパターン制作を学び直したいと母校に再入学し、現在も勉強を続けている。

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

展示出品作の制作風景 (c)Courtesy of STUDEO

「デザイナーが作り出すファッションの最終形は、もちろんすばらしいものですが、それは基礎になるパターンが、すでに美しいからでもあるんですね。基礎がちゃんとわかっていれば、変わったドレープも、面白いシルエットも、自分のイメージ通りにつくることができるし、スタッフにも丁寧に、的確に指示を出すことができる。そういうことの必要性は折々に痛感していました」

20年ぶりの学校生活は、シノラーを知らない若い世代とともに勉強することが楽しく、また、留学生がたくさんいる様子にも刺激を受けるという。その感受性こそ、篠原さんにとって、今も昔も変わらないものだ。

「ひとめで圧倒的な熱量を発しているものに接すると、その場で動けなくなりますよね。そんな感動を、私はいつも求めている気がしますね」

人生を変えたひと言とは

美術館や外国など「美しさが育っているところ」にも、積極的に出かけている。「東京では東京オペラシティアートギャラリー、恵比寿の東京都写真美術館など、デザイン関連の展示をしているところが特に好きです。去年はモロッコのマラケシュにあるイヴ・サンローラン美術館にも行ったんですよ。サンローランのデザインが、インスピレーションを得るものによって、どのように変わっていったか。それが肌でわかる展示で、印象深い旅になりました」

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

モロッコ マラケシュのイヴ・サンローラン美術館にて

18年に、ファッションとデザインの合同展示会「rooms EXPERIENCE 37」で、デッサン150点を出展した。それこそ、実家の押し入れに残っていたわら半紙から、今に至るまでに描きためたものたちで、クリエーター・篠原ともえの原型ともいえる。「落書きの延長のようなものが展示に値するのか、という気持ちも最初はあったのですが……」

その準備中に聞いたある言葉が、彼女の人生を変えた。同展のクリエーティブ・ディレクターを務めていた池澤樹さんが、鉛筆描きのわら半紙の束を見て、発したひと言――「この世界を追求したら面白いんじゃないかな」である。

「それを耳にしたとき、あ、私が求めてきた世界をわかってくれる人がいるって、なんか、すごく心に残ったんです」

39歳のときに、篠原さんは池澤さんと結婚。「私は人生にプランなど立てたことがなく、そのときどきに夢中になれることをやってきただけ。何歳までに結婚しよう、なんてこともまったく考えずにいたのですが、40歳を前に、ひとり、私を受け入れてくれる人に出会ったことは、運命的で本当にうれしいことでした」

シンプルに、やるっきゃない

そして今年、更なる転機を迎える。「私の人生の転機といったら、それこそ『今』なんです。なぜなら、今年、夫と一緒にデザイン会社を立ち上げたから。ちょうどコロナ自粛の最中で、いろいろな仕事が止まってしまいました。そんな不安の中で、新しく会社なんてスタートできるんだろうかと、迷いました。でも、やるっきゃないと、最後はいつもの勢いで(笑)」

今回、自身の会社のオフィスでリモートインタビューに応じてくれた篠原さん。途中、パソコン越しにオフィスを案内し、池澤さんのことも紹介してくれた。そのサービス精神と、語尾にちらりと出てくるシノラー話法に触れて、思わずうれしくなった。

篠原さんは、今、夢を持ってがんばっている人に、こんなメッセージを贈る。

「シンプルに、やるっきゃない。これしかないですね。私自身、苦しい思いはしょっちゅうです。それでも、やって、やって、やり続けていると、そこから自分らしいものがだんだん出てくるんですよ。今の会社だって、『私は大丈夫! 自分もみんなも育てていける!』と、思い込んでやっていけば、きっと新しい道が開ける。そう信じることが大事なんだと思います」

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

「SHIKAKU」展示風景 Photo by Sayuki INOUE

(文・清野由美)

篠原ともえ(タレント・デザイナー)
1979年、東京都青梅市生まれ。2001年、文化女子大学(現・文化学園大学)短期大学部ファッションクリエーティブコース・デザイン専攻卒業。
95年、ソニーレコードより歌手デビュー。テレビのバラエティー番組で独自のファッションとトークが大ブレーク、シノラーブームを巻き起こす。99年、日本武道館で無料ライブを開催。2000年代よりストレートプレーやミュージカルなど舞台での活動が増えるとともに、衣装デザインも手がけるように。20年、アートディレクターの池澤樹とクリエーティブスタジオ「STUDEO」を設立。「STUDEO」はラテン語で「学ぶ」などの意味。https://www.tomoeshinohara.net/

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

篠原ともえ「SHIKAKU」展-シカクい生地と絵から生まれた服たち-」
2020年7月1~20日11:00~20:00(日曜は18:00まで)、渋谷ヒカリエ8階 CUBE
入場無料・事前申込制(https://shikaku.peatix.com/

篠原さん本人による作品解説やライブソーイングを予定しているインスタライブ配信は、7月5日、12日、19日の19時から。詳しくは篠原さんの公式Instagramをご確認ください。

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