猫が教える、人間のトリセツ

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

人間を思うがままに操る、飼い猫たちの実例集「猫が教える、人間のトリセツ」。
月に1回、「猫と暮らすニューヨーク」の筆者、仁平綾さんと、イラストレーターのPeter Arkle(ピーター・アークル)さんでお届けします。

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床に並べたドミノや麻雀(マージャン)パイを、倒すことなくするりするりと通り抜ける猫。今春、そんな障害物チャレンジ動画がSNSで話題に。猫が有する特殊な能力とか言われているけれど、陶芸家の大谷哲也さんと桃子さん夫妻の飼い猫マメには、どうやらその能力は備わっていないよう。代わりにマメには、ガサツゆえの秘策があったのです。


19歳のキジ白・ハチワレのミミ(メス)、15歳になる三毛猫のマメ(メス)、1歳の黒猫クマ(オス)という3匹の猫と暮らす、大谷哲也さんと桃子さん。夫妻は共に陶芸家として活動。3人の娘さんと、犬のハチと共に信楽(しがらき)の山の中で暮らしながら、自宅に併設の工房で陶器を制作しています。

ミミとマメは、「娘たちがまだ小さかった時に子守係として家に迎えた猫」と桃子さん。仕事場の工房は、泥だらけで危ない機材もあり、幼い子どもたちは別の部屋で遊ばせていたそう。そんな時、2匹の猫は「遊んでいる子どもたちの横に寄り添って、毛づくろいをしたり、子どものオモチャにじゃれついてみたり」と見事な(?)子守っぷりを発揮。「その間にささっと仕事を片づけたりして、とても助かりました。子どもたちも猫との時間を楽しんでいるようでした」

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

三女の緑さんが1歳の頃の写真。横に寄り添っているのは猫のマメ。捨てられていたところを保護され、大谷家の一員に


 
猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

最年長のミミ。「埼玉に暮らす親戚のところで生まれて、18年前にやってきました」


 
猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

ゴールデンレトリバーのハチと、ハチのベッドに我が物顔で寝転がるマメ

ミミの性格は、注意深くて几帳面(きちょうめん)。「陶芸家の猫らしく、作品や道具が雑然と並んでいる仕事場にいても、物ひとつ落とさず、作品を傷つけることもなく、立ちまわれる賢い猫」と桃子さん。一方のマメは、「自分の目的地に一直線、途中にあるものは落とすわ、踏んづけるわ、たいそうガサツな猫で、仕事場にはノーサンキューな存在でした(笑)」
 

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

マイペースな性格のマメ。「無表情のまま犬のハチに突然襲いかかったり、同じく無表情で黒猫クマの毛づくろいを優しくしてあげたり、予測不可能なポーカーフェース猫です」

仕事場に猫が入れないようにと扉をすべて閉めても、なぜか猫たちは突破口を見つけ侵入してきてしまう始末。しかも迷惑なことに、マメは工房の少し高いところに取り付けられた棚に飛び乗り、棚を横切ってから、さらにロフトへ上がって、段ボールを噛(か)みちぎりながら昼寝をするのが至福の日課。

棚にはトンボと呼ばれる、器の直径や深さを測るための道具がカップに立てて並べてあり、ガサツなマメが歩く際にそれらを下に落とすため、「作品に当たって壊れたことも。私がお皿を作るために置いていた粘土の板の上を平気で歩いたこともあります。あまりにきれいに足跡が付いたので、記念にそのままお皿にしました」

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

マメさまの見事な足形


 
猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

足形がついた粘土をお皿にした桃子さんの作品

粗相をするマメを怒ったところで、犬のように聞き入れるはずもなく、夫妻は次第に諦めムードに。そのうちに哲也さんが、マメの通り道にある仕事道具の位置を動かし始め……、最終的には棚をマメに明け渡す結果に。そうして工房内に完成したのが、“マメルート”と呼ばれる、マメのためだけの通り道でした。自分でも気づかぬうちに、マメルート作りに加担していた哲也さん(この“人間が気づかぬうちに”というのが猫の常套〈じょうとう〉手段!)、悔しがっても後の祭り。マメは「その道を当然といった様子で悠然と歩いていました」と桃子さん。

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

気づいたら“マメルート”ができていた工房。作業する哲也さんの正面にある棚が、マメの通り道でした。現在は新しい工房へ移り、猫たちは完全に出入り禁止です

 

ガサツな性格ゆえに手に入れた、偶然の結果なのか。あえて物を落とし現場を混乱に陥れ、人間たちを思い通りに操った「確信犯」なのか……。マメの真意のほどはわからないけれど、“ロフトに昇り、段ボールを噛みちぎりながら寝たい”という欲望のままに行動したマメの圧勝。心優しき飼い主たちの完敗。こうやって猫たちの白星は、ひとつ、またひとつと、増えていくのであります。
 

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

高齢化する大谷家の猫社会をリフレッシュするべくやってきた、1歳の黒猫クマ(左)。隣に寄り添うのはマメ

猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

「ある時“いろんな花が咲き乱れて奇麗だなあ……”とぼんやり外を眺めていると、マメが色とりどりの野の花をクチャッと束ねた花束を持ってきて、無表情で私に渡してくれて、ハッと目が覚めたことがありました。どこまでが現実だったんだろう?」と桃子さん。その体験をもとに作ったのが、写真の陶器だそう


 
猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

キッチンに立つ桃子さんを見守る(あるいは、おいしいものを期待している?)マメ


 
猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

「甘え上手でみんなのアイドル」というクマ。大谷哲也さんの平鍋(土鍋)にすっぽり


猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

大谷哲也&大谷桃子
大谷製陶所主宰(大谷製陶所は、2008年に大谷哲也と大谷桃子の工房として開窯)。信楽の山の中に、3人の娘と3匹の猫、1匹の犬と共に暮らす。大谷哲也は、白い磁器の器と白い土鍋を、大谷桃子は粉引(こひき)の器に植物の絵付けを施した作品を中心に、日々の暮らしの中で出会う小さなアイデアを種に制作。

★2020年の展覧会予定
8月 ヨリフネ(横浜市)大谷哲也個展
11月 ナタノオト(東京・日本橋)大谷哲也・大谷桃子二人展
12月 SHELF(大阪・内本町)大谷哲也・大谷桃子二人展
※現在の特殊な状況下でスケジュールは変更される可能性があります。ホームページやSNSで随時ご確認ください。

http://ootanis.com
大谷哲也インスタグラム : https://www.instagram.com/otntty/
大谷桃子インスタグラム : https://www.instagram.com/otnmmk/
大谷製陶所の土鍋料理「日々平鍋」インスタグラム : https://www.instagram.com/hibihiranabe/

次回は、7月下旬頃の配信予定です。

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  • 『猫と暮らすニューヨーク』が本になりました!!

    猫の道は必ずや開かれる。byマメ(飼い主・大谷哲也さん&桃子さん)

    『ニューヨークの猫は、なぜしあわせなの?
    75匹の猫と飼い主のリアルな暮らし』

    仁平 綾 (著) 朝日新聞出版

    猫と暮らすニューヨーク』として連載していたものから、
    “猫の飼いかた”の部分に注目し、さまざまなアイデアや実践をセレクト、再編集した一冊。
    個性豊かで愛らしい、NYの猫たちの写真が満載で、猫好き必読の書。

    1760円(税込み)

    >>「猫と暮らすニューヨーク」まとめ読みはこちら

    PROFILE

    • 仁平綾

      編集者・ライター
      ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
      http://www.bestofbrooklynbook.com

    • Peter Arkle(イラスト)

      ピーター・アークル スコットランド出身、ニューヨーク在住のイラストレーター。The New Yorker、New York Magazine、The New York Times、Newsweek、Timeなど雑誌や書籍、広告で幅広く活躍。著書に『All Black Cats Are Not Alike』(http://allblackcats.com/)がある。

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