このパンがすごい!

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

下町・本所(墨田区)のなにげない路地にできている行列。看板はさりげなく、金物屋か工務店のようなたたずまい。偶然通りかかっても、ここが最先端のパン屋であることに気づく人は稀(まれ)だろう。

「戻ってきました」と櫻井正二さんは言った。

「パンとエスプレッソと」の初代シェフ。世田谷、湘南、大阪など各地に点在する、パンとエスプレッソと系列店の立ち上げを担ってきた。東京に戻ってきた櫻井さんは、自らの会社「Ureska」を設立、「クラマエノパンヤ」をはじめた。この建物が取り壊される今年の秋ごろまでの期間限定のベーカリーだという(移転して継続の可能性もあり)。

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

外観

「よそにはないようなものをやりたくて。期間が短い分、いろいろなものにチャレンジできる」

まるでアトリエか秘密基地。櫻井さんがたったひとりでパンを作るゆえに、1日約20種類が限度。だが、そのすべてにたくらみと新しさが込められている。

パンとエスプレッソとの大人気食パン「ムー」を更新する最新型が「クラマエノ食パン」。エアリーすぎ、口溶けがよすぎて、歯ごたえがない。一瞬ぷるっとしたかと思えば一気に消失する。あまりにやわらかく、口にもっていこうとするとしなだれるので、パンなのに、麺をすするようにして食べるという異常事態。発酵バターのような濃厚な香りがしているのに、味はまったく軽い。このギャップもまた異常事態だろう。

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

クラマエノ食パン断面

「食パン=バターというイメージがありますよね。(それと逆をいって)バターを入れずにおいしいものを作りたかった」

「ムー」といえば濃厚なバター風味が代名詞だが、この食パンでは、バターを使わず、バターミルクとクレームフレーシュ(生クリームを発酵させたもの)が使用される。

高加水の生地をコンベクションオーブン(熱風で焼くタイプのオーブン)で浅めに焼きあげて水分を残すのが櫻井さんの製法。パンとエスプレッソとでは当日にパンを仕込んでいたが、この店では0℃の低温下で約24時間生地をおく。粉がたっぷり水を吸うとともに作業性もよくなり、持ち前の高加水パンはさらに幅を広げた。「いままで形にならなかったものも、長時間置いておくことで形になるようになりました」

「紫蘇あんぱん」も驚きの新食感。もわーんと沈んでいく、低反発枕体験。沈みきったところでぱちんと切れ、中からあんこの香りがあふれだす。白あんに赤紫蘇を加えた紫蘇あんはなんともさわやかな風味で、トッピングのゆかりが想定外の甘じょっぱさを引き起こす。

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

紫蘇あんぱん

国産小麦の使用も、クラマエノパンヤからはじめたことのひとつ。紫蘇あんぱんでは10%の岩手県産「もち姫」を配合。もち米のような「もち性」を特徴とするこの小麦によって、前述した驚異的もちもち感が生みだされる。

「くるみぱん」は、ベーグルのようでありながら、顎(あご)が疲れるような硬さはない。むぎゅっと沈みながら、いともあっさりひきちぎれる快楽。一方で、こりこりのくるみが実に香ばしく、甘い。十勝産石臼挽(ひ)き小麦の濃厚な風味とのあいだで、野の香りをイメージさせるマリアージュが生まれる。

「よそにはない」ほど、くるみの香りが際立っているのは、隠れた理由がある。「生地にくるみ油を足し、香ばしさを出しています」

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

くるみパン

どのパンを見ても、食材の新たな組み合わせが提案されている。

「いつもいろんな材料を置いておいて、新しいパンを思いついたときすぐ作れるようにしています。いつも考えていないと思いつかなくなるから」

ここに書いたパンが、いつまで店に出ているかはわからない。1日1個は新作をリリースするのが櫻井さんの流儀。いつまでも同じ場所に留まっている人ではない。

敷地内に、金曜日は「果り果」というキッチンカーが停(と)まる。クラマエノパンヤのパンを使ったサンドイッチと、季節のフルーツを使ったコーディアルの屋台だ。Ureskaと果り果は共同で「パンとジャム。」という店舗を持たないネット上のパン屋を立ち上げる予定でもある。

「料理人、コーヒーの人……いろんな人とコラボしてなにかできないかな?」
櫻井さんが、これからなにかおもしろいことを巻き起こしそうだ。

食パンがエアリーすぎ。麺のようにすする、口溶けの異常事態/クラマエノパンヤ

敷地内で営業する「果り果」

クラマエノパンヤ
東京都墨田区本所1-33-12
03-6386-9858
11:00~売り切れまで(土日は10:00~)
火・水・木曜休(不定休あり。Instagramで要確認)
https://www.instagram.com/kuramaenopanya/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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